原子力総合パンフレット Web版

5章 原子力防災

被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)

1

被ばくや汚染を避ける方法

原子力発電所の事故によって異常な量の放射性物質が放出、または、そのおそれがある場合、余計な被ばくや汚染をできるだけしないように行動することが重要です。原子力発電所の状況に応じて区分した緊急時活動レベル(EAL)に沿って、被ばくや汚染を避けるために防護措置の準備および実施を行います。

【外部被ばくを避ける方法】

屋内退避、避難および一時移転

【内部被ばくを避ける方法】

安定ヨウ素剤の予防服用、飲食物の摂取制限

【汚染した可能性がある場合の対処】

避難退域時検査・除染、被ばく医療

2

外部被ばくを避ける方法

【屋内退避】

屋内退避は、速やかに近くの建物の中に入ることです。5~30km圏内のUPZの住民は、屋内退避をすることになります。これは、放出された放射性物質が通過するときに屋外で行動することで、かえって被ばくすることを回避するためです。また、建物内に退避することによって、放射性物質からの放射線量を低減できることや放射性物質の体内への取り込みを防ぐことで、放射線の影響をできるだけ回避することができます。
5km圏内のPAZの住民は、放射性物質が放出される前から予防的に避難することが基本ですが、高齢者や傷病者などの要配慮者については、避難行動にともなう健康影響を踏まえ、遮へい効果や気密性の高いコンクリートの建物への屋内退避も有効です。
また、要配慮者が避難する際、福祉車両や受け入れ先などの準備が整い、円滑に避難できるようになるまでの間、被ばくのリスクを下げながら安全に一時的に避難する放射線防護施設の整備が進められています。
原子力施設の事故などで浮遊性の放射性物質が放出され、土壌や建物に放射性物質が沈着した場合、木造家屋は外からの放射線量を約4割に低減します。ブロックやレンガの家屋、鉄筋コンクリート家屋では、より遮へい効果が高まります。また、放射性物質が主に土壌の表面にある場合、高層階になるほど土壌からの距離が離れるため、屋内で受ける放射線量も少なくなります。

屋内退避による遮へい効果

屋内退避による遮へい効果

※建物から十分離れた屋外での線量を1としたときの、建物内の線量の比

屋内退避による遮へい効果

出典:原子力安全委員会「原子力施設等の防災対策について」
(1980年6月(2010年8月一部改訂))

【避難および一時移転】

避難や一時移転により、放射性物質や放射線の放出源から離れることで被ばくを避けることができます。どちらも住民などが一定以上の被ばくの可能性がある場合に実施する防護措置で、避難は、空間の放射線量が高い、または、高くなるおそれのある地点から速やかに離れるために緊急で実施する防護措置で、PAZの住民の基本的な防護措置です。
一時移転は、避難が必要な放射線量よりは低い地域ですが、余計な被ばくを避けるため、一定期間(1週間程度)のうちに、その地域から離れるために実施する防護措置です。

3

内部被ばくを避ける方法

【安定ヨウ素剤の予防服用】

原子力発電所の事故によって放出された放射性物質のうち、呼吸や飲食によって放射性ヨウ素が人体に取り込まれると、甲状腺に集積します。この放射性ヨウ素からの内部被ばくによって、被ばく量が多い場合には、数年~数十年後に甲状腺がんなどを発生させる可能性があることが知られています。
安定ヨウ素剤を予防的に服用することにより、放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを防ぐことができます。
原子力発電所で事故が発生した場合、国、または地方公共団体の指示に基づき、あらかじめ定められた備蓄場所などの配布場所や避難車両の車中、検査場所などで配布し、避難の際に服用します。
服用が必要なときは、国・地方公共団体から指示および配布があります。安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素にさらされる前に、服用することが望ましく、適切なタイミングで速やかに服用する必要があることから、備蓄や事前配布など、平時からの準備が必要とされています。

【飲食物の摂取制限】

飲食物の摂取制限は、飲食物に含まれる放射性物質の量を測定した結果、基準値以上の場合、飲食物の摂取を回避することで、内部被ばくを避けるために実施される防護措置です。
大気中の放射線量が1時間あたり20マイクロシーベルトを超過する地域は、一時移転の防護措置を実施するとともに、その地域で生産された物の摂取を制限します。

安定ヨウ素剤の服用

安定ヨウ素剤の服用

出典:鹿児島県「原子力防災のしおり」を参考に作成

ワンポイント情報

放射線防護の3原則

外部被ばくを避けるための考え方に「放射線防護の3原則」があります。これは、放射性物質との間で「遮へいをする」、「距離をとる」、放射線を受ける「時間を短くする」というものです。住民の退避行動の「屋内退避」と「退避」は、3原則の「遮へい」「距離をとる」にあたります。
福島第一原子力発電所事故時の東京消防庁放水作業では、「遮へい」や「距離をとる」ことができないため、事前に作業の訓練をして、作業時間を「短くする」ことで被ばくを抑えました。

放射線防護の3原則
4

汚染した可能性がある場合の対処

【避難退域時検査・除染(スクリーニング)】

原子力災害特有の事柄として、避難退域時検査・除染があります。避難退域時検査・除染は、原子力発電所から30km圏外の検査場所で実施し、車両、乗員の代表者、乗員全員、携行物品に対して段階的に検査を行います。各検査において表面の汚染が基準値以下の場合、そのまま避難所などへ向かうことになります。
各検査の結果、表面の汚染が基準値を超過した場合、簡易除染を行います。簡易除染を行っても表面の汚染が基準値以下にならない方は、除染が行える機関へ向かい、基準値以下にならない携行物品は検査場所で一時保管することになります。なお、健康上の配慮から、要配慮者については優先して検査を行う必要があります。
スクリーニングとは、被ばくの程度を放射性物質による汚染の有無、被ばく線量の測定などにより評価、判定し、必要な処置を効果的に行うための判断・区別をすることです。避難時や防災対策区域からの退出時には、被ばく医療が必要かどうかを判断したり、汚染の拡大を防止したりするため、避難所へ入る前の段階で、このスクリーニングとして、避難退域時検査が行われます。

【甲状腺被ばく線量モニタリングの実施】

2022年4月の原子力災害対策指針改定で、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくが懸念される場合に、防護措置の一環として甲状腺被ばく線量モニタリングを実施することが明確化されました。甲状腺被ばく線量モニタリングは、運用上の介入レベル(OIL)に基づく避難や一時移転の際に、避難退域時検査に引き続いて立地道府県などが、原子力災害医療協力機関などの協力のもと実施することとされています。対象は19歳未満の者、妊婦および授乳婦です。

〈ワンポイント情報〉甲状腺被ばく線量モニタリングについて

【原子力災害医療】

被ばくや汚染のある傷病者への診療や関係機関との連携を強化するため、原子力災害時の医療体制が整備されました。被ばく医療の中核を担う拠点病院が各地域に指定されています。拠点病院では、患者の除染を行う専用の部屋や放射線量を測定する装置が設置され、拠点病院で対応できない専門治療が必要な重症患者は、「高度被ばく医療支援センター」や「原子力災害医療・総合支援センター」で治療を受けるしくみとなっています。また「原子力災害医療・総合支援センター」では、現地での医療を担う「原子力災害医療派遣チーム」も組織されます。

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