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福島第一原子力発電所事故の進展
福島第一原子力発電所は、福島県太平洋沿岸のほぼ中央、双葉郡大熊町と双葉町にまたがり、敷地の広さは約350万㎡。大熊町に1~4号機、双葉町に5~6号機の沸騰水型原子炉(BWR)が設置されています。
2011年3月11日14時46分、岩手県沖から茨城県沖の広い範囲を震源地とした、マグニチュード9.0の東日本大震災が発生しました。福島第一原子力発電所では、震度6強を感知し、運転中であった1~3号機の原子炉は、すべて自動停止しました。原子力発電所には安全を確保するために、核分裂連鎖反応を「止める」、原子炉を「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」機能があります。原子炉の自動停止により、「止める」機能は達成され、「冷やす」機能も働き始めました。4~6号機は、定期検査のため運転を停止していました。4号機では、燃料を使用済燃料プールに移してあり、原子炉内に燃料は装荷していませんでした。
【すべての電源喪失】
地震によって受電設備の損傷や送電鉄塔の倒壊が起こり、外部からの送電が受けられなくなりました。さらに、その後の津波の襲来が大きな被害をもたらしました。想定される津波の最高水位を6.1mとしていましたが、これを大幅に超える約13m(浸水高は約15m)の大津波が発生し、原子炉建屋やタービン建屋が浸水しました。これによって多くの電源盤が浸水してしまいました。また、1~5号機では、非常用ディーゼル発電機が停止し、全交流電源を失いました。そのうち1、2、4号機では、直流電源までも津波により、失われました。
【冷やす機能の喪失】
全交流電源を失ったことにより、交流電源を用いる冷却機能も働かなくなりました。さらに、直流電源も喪失して、原子炉を冷やす機能は順次喪失してしまいました。また、冷却用の海水ポンプも冠水し、原子炉内部の熱を海水へ逃がす除熱機能が失われました。こうして「冷やす」機能が喪失してしまいました。
【原子炉の損傷と放射性物質の放出】
1~3号機では、原子炉圧力容器(原子炉)内に冷却用の水を送り込めなくなったため、原子炉内の水位が低下し、燃料棒が露出しました。やがて燃料を覆う金属が高温となり、原子炉内の水蒸気と化学反応を起こして水素が発生しました。さらに、原子炉を冷却できない状態が続き、燃料が溶融(炉心溶融)する事態に至りました。
また、原子炉を覆っていた格納容器のシール材が高温で劣化し、発生した水素が原子炉建屋内に蓄積。これによって水素爆発が起こり、1、3号機の原子炉建屋が大きく破損しました。定期検査中の4号機の原子炉建屋も、3号機から流入した水素によって爆発が起こり破損しました。
格納容器のベントが期待通りに行われなかったことなどにより、「閉じ込める」機能も失われ、大気中に多くの放射性物質が放出されました。
■福島第一、第二原子力発電所の設備被害状況の比較
※2、4号機の一部の低圧電源盤は浸水を免れたが、接続元の高圧の電源盤が浸水したため使用できず
出典:東京電力ホールディングス(株)資料より作成
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冷温停止状態の達成
事故直後は、非常に高温となった原子炉内を冷やすため、消防車による注水が行われました。その後、汚染水から放射性物質などを除去して注水に再利用する循環注水冷却システムがつくられ、2011年12月、原子炉圧力容器の底部の温度が、おおむね100℃以下になり、環境への放射性物質の放出が大幅に抑えられたことから、政府は「冷温停止状態に達した」と判断しました。それ以降も、循環注水冷却システムを強化して注水を続け、原子炉は冷温停止状態を維持しています。
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重大事故を防いだ福島第二原子力発電所
福島第一原子力発電所から南に約10kmの位置にある福島第二原子力発電所も、地震や津波の被害を受けました。海水ポンプが津波によって被害を受けたため、1、2、4号機の除熱機能が失われました。一時は、原子炉格納容器内の圧力が徐々に上昇し、「格納容器ベント」の準備が進められましたが、発電所所員が人力で海水ポンプのモーターを交換し、総延長9kmのケーブルをほぼ1日で仮設することで除熱機能が復旧し、格納容器ベントは行わず、全号機が「冷温停止状態」を達成しました。
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事故から得た教訓と今後の対応
福島第一原子力発電所の事故の教訓を生かし、どのような事態が起きても再び過酷事故に至ることのないよう、深層防護という考え方に基づき安全対策を強化・推進するとしています。こうした事故の検証を通じて得られた教訓が、新規制基準に反映されています。
■福島第一原子力発電所の事故から得られた教訓と対応
※原子力発電所における深層防護の考え方
深層防護とは、守りや備えを何層にもするという考え方です。原子力発電所では、この深層防護を安全確保の基本にしています。上の図に示すように、第1層としてトラブルの発生防止のための対策を講じますが、仮にトラブルが発生しても事故に進展させない、事故に進展したとしても炉心損傷させないというように、前段の対策は失敗するという考え方のもとに後段での対策を講じています。
出典:東京電力ホールディングス(株)資料より作成