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エネルギー資源の安定確保
エネルギーを安定的に、必要な量を低廉な価格で確保することを「エネルギー安全保障」といいます。すべての国民にとって、この状態を継続的に維持することが非常に重要です。
日本のエネルギー自給率(2022年度)は、原子力を国産とした場合でも12.6%しかありません。これは、先進国のなかでも極めて低い水準となっています。日本のエネルギー自給率が低い理由としては、石油・石炭・天然ガスといった資源に乏しいことが主な原因です。エネルギー自給率がカナダ、ロシア、ブラジル、アメリカのように100%を超える国は、自国内で一次エネルギーを確保できているだけでなく、他国へ輸出していることを意味しています。
陸続きのヨーロッパ諸国では、国境を越えて送電線や天然ガスのパイプラインが張り巡らされているため、自国で電力を安定的に供給することができなくなった場合でも、発電容量の大きい周辺国との間で電力の輸出入が行われています。
これに対し、島国の日本は、周辺国とのエネルギーの融通は難しいのが現状です。資源小国で島国の日本にとって、エネルギー資源を安定して、かつ経済的に確保していくことは、国家の基盤にかかわる重要な問題です。
■主要国のエネルギー自給率比較(2021年)
- ※原子力を国産とした場合の数値となっている。原子力発電の燃料となるウランは、一度輸入すると長期間使用することができ、再処理してリサイクルすることも可能なため、準国産エネルギーとして扱われる。
- ※100%以上は輸出していることを表す。
出典:IEA「Data and statistics」より作成
■日本のエネルギー自給率の推移
エネルギー自給率:生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、国内で確保できる比率
出典:資源エネルギー庁「令和4年度エネルギー需給実績(速報)」
■日本の一次エネルギー供給実績
(注)1PJ(=1015J)は原油約25,800kℓの熱量に相当(PJ:ペタジュール)
「総合エネルギー統計」は、1990年度以降の数値について算出方法が変更されている
出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」より作成
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エネルギー供給のリスク
石炭はオーストラリアやインドネシア、ロシアなどから、天然ガスはオーストラリアや東南アジア、ロシア、アメリカ、中東などから輸入していますが、石油は依然として95%以上を中東からの輸入に頼っています(2022年度実績)。
中東からホルムズ海峡、マラッカ海峡を通って、石油や天然ガスを日本へ運ぶ海路(シーレーン)の安全通行の確保がエネルギー安全保障上の重要な問題となっています。
2021年は新型コロナウイルス感染からの経済回復にともなってエネルギー需要が急拡大する一方で、世界的な天候不順や災害、化石燃料への構造的な投資不足、地政学的緊張などの複合的な要因によってエネルギー供給が世界的に拡大せず、エネルギーの需給がひっ迫し、2021年後半以降、歴史的なエネルギー価格の高騰が生じています。
2022年2月以降、ロシアのウクライナ侵略により、世界のエネルギー情勢は混迷を深め、エネルギー価格の上昇は一過性のものにとどまらない可能性があります。各国政府は、脱炭素の流れを認識しながらも、安定・安価なエネルギー供給を最優先に、価格抑制策や低所得者などへの支援策、産油国・産ガス国への増産要請、備蓄の強化、調達先の多様化などの政策を展開しています。
■日本が輸入する化石燃料の相手国別比率
(注)四捨五入の関係で合計値が合わない場合がある
出典:※1 石油連盟統計資料、※2 財務省貿易統計より作成
■石油の最新地図
出典:小山堅著「戦略物資の未来地図」[(株)あさ出版発行]より引用(BP「Statistical Review of World Energy 2022」より2020~2021年のデータをもとに作成)
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国際資源戦略の策定
エネルギー資源の多くを海外から輸入している日本は、エネルギーを巡る世界の動きに大きな影響を受けます。こうした状況を踏まえ、エネルギーの安定供給を確保するために、2020年3月、日本の新しい「国際資源戦略」が策定されました。
これまで中東諸国との関係は、複数のエネルギー関連機関などが個別に構築されていましたが、今後は諸機関が連携し、一体となって構築されることになりました。
また、地政学リスクを踏まえ、石油は中東以外の国々へ、LNGや先端産業において必要不可欠なレアメタルなどは、調達先が特定の国や地域に偏らないよう多角化させることが決められました。さらに、アジア全域での協力関係を深め、日本の石油備蓄を活用して、アジアのエネルギーセキュリティ向上につなげていくこととしています。経済成長が著しいアジア各国では、石油消費量が急増しています。しかし、多くの国では原油の輸入を中東に依存しているうえに、十分な備蓄を保有しておらず、セキュリティ対策が万全とはいえません。
こうしたことから、今後は、日本のための資源を確保するだけでなく、エネルギーセキュリティの維持・向上を図るために世界的な視野で対応を行うことが必要です。