原子力総合パンフレット Web版

3章 放射線と放射線防護

さまざまな分野で活躍する放射線

さまざまな分野で活躍する放射線

放射線のさまざまな性質が、物質の内部の調査や素材の改質などの工業分野、野菜や果実の品種改良などの農業分野、病気の診断や治療などの医療分野、年代測定などの研究分野などで活用されています。

工業分野

工業分野では、放射線の透過力(物質を通り抜ける力)や分子構造を切断する力が身の回りのものに利用されています。

強度や耐熱性の向上

高分子などに放射線を当てることで、構造を改質し、強度や熱耐性を向上させることができます。

強度や耐熱性の向上イメージ

機能の追加

高分子に放射線を当てることで、別の機能をもつ分子を結合させて、元の素材に機能を付加することができます。

機能の追加イメージ

厚さ測定・レベル計

放射線の透過力を利用して、ものの厚さや液面の高さなどを計測することができます。

厚さ測定・レベル計イメージ

滅菌

医療器具などに放射線を当てることで滅菌することができます。放射線照射による滅菌は、熱や化学物質による滅菌と比較して、以下のメリットがあります。

  • ・密封された状態で滅菌処理ができる
  • ・温度変化がほとんどないため、形態の変容がない
  • ・有害物質の残留などがない

農業分野

農業分野では、害虫駆除や品種改良などに放射線が利用されています。

害虫駆除

放射線を照射し不妊化したオスの害虫を野外に放つことで、交尾してメスが産んだ卵からは害虫が生まれず、数を減らすことができます。これを繰り返すことにより、最終的には根絶に持ち込めます。沖縄県では野菜のゴーヤにつくウリミバエの駆除に用いられました。

害虫駆除イメージ

ウリミバエ成虫(上)、幼虫(下)

出典:農林水産省HPより

品種改良

生物は、突然変異によって長い期間をかけ、たくさんの種類に進化してきたと考えられています。放射線を植物に照射することで、この変異を効率的に誘発して品種改良を行うことができます。

品種改良イメージ

医療分野−1

健康診断で受けるレントゲン撮影や病院でのCTスキャン検査などで放射線が利用されています。

レントゲン撮影

放射線の透過力を利用して撮影されます。エックス線やガンマ線のなどの放射線の透過力は、透過する物質の密度に応じて減弱します。そのため、人体の中でも比較的密度の高い骨では放射線の透過量が少なく、筋肉や肺などの臓器では透過量が多くなります。この透過量の差を生かして体内の様子を撮影します。

レントゲン撮影イメージ

CTスキャン

レントゲン撮影では平面の撮影を行いますが、CTスキャンでは放射線を発生する部分と検出する部分を回転させ、放射線の透過度からコンピュータ計算によって体のスライス像を再構成します。さらに、このスライスを組み合わせることにより、立体的な画像を再構成します。これによって、体の内部構造を詳細に知ることができます。

CTスキャンイメージ

医療分野−2

放射線の細胞致死作用を利用したがん治療が行われています。

外部からの照射

かつての放射線治療では、がんに対して、一方向あるいは二方向からの照射を行っていました。近年では、コンピューター制御によって放射線源を動かしていろいろな方向から照射するとともに、遮へい材を自在に動かして強弱をつけることで、複雑ながん病巣の形に合わせて放射線を集中させ、正常組織へのダメージを最小化した治療(強度変調放射線治療)が行われています。

外部からの照射イメージ

密封小線源放射線治療

放射線源を密封した小さなカプセルをがん組織に埋め込むなどして、ピンポイントで放射線を照射することで、がんを治療する方法です。

密封小線源放射線治療イメージ

ホウ素中性子捕捉療法

中性子とホウ素の高い反応性を利用して、がん細胞に選択的に放射線作用を与えることができる治療法です。がん細胞が取り込みやすいように加工したホウ素化合物(ホウ素薬剤)を投与したうえで中性子(熱中性子)をあてると、核反応を起こして飛距離の非常に短い放射線(アルファ線)とリチウム原子核が発生します。この放射線がホウ素薬剤を取り込んだ細胞に大きな作用を与えます。

ホウ素中性子捕捉療法イメージ

出典:大阪医科薬科大学関西BNCT共同医療センターHPより

関連情報(詳細):大阪医科薬科大学関西BNCT共同医療センター

研究分野

遺跡などに含まれる放射能物質の量を測定することで遺跡の年代を推定したり、目で見ることができない宇宙を飛び交っている放射線を観測することで宇宙で起きている現象を解析したりするなど、研究分野でも利用されています。

放射年代測定法

遺跡などの年代の決定にも放射線が利用されています。遺跡から発掘された出土品などに含まれる放射性物質の量を調べることで年代を特定する方法で、「放射年代測定法」とよばれています。放射年代測定法にはウラン、トリウム、ベリリウムなどを測定する方法もありますが、最も利用されているのは炭素の放射性同位体である炭素14の量を測定する放射性炭素年代測定法です。
炭素14は天然に存在し、主に宇宙から降り注ぐ中性子が窒素14に吸収されることでつくられます。
大気中で生成された炭素14は、植物などに取り込まれ、食物連鎖によって動物などに取り込まれるため、遺跡として出土する骨や建築材、土器などに付着したコゲなど、すべての有機物に含まれます。
炭素14は放射線を出さない炭素(炭素12と炭素13)とともに一定の割合で存在し、一緒に生きている植物などに取り込まれていきます。しかし、その植物などが死んで炭素を取り込まなくなると、炭素14は放射性壊変によって減っていきます。放射性同位元素が元の半分となる「半減期」は炭素14の場合5,730年なので、5,730年経過すると炭素14の数は元の2分の1になり、11,460年後には4分の1になり、17,190年後には8分の1になります。一方、放射線を出さない炭素の量は変化しないため、炭素14と放射線を出さない炭素の割合から遺跡の年代を推定することができます。

放射年代測定法イメージ

出典:「みんなのくらしと放射線展」に展示された放射線アカデミア研究レポートより作成

関連情報(詳細):放射線アカデミア研究レポート

X線天文衛星

宇宙では人の目で見ることができる可視光だけでなく、X線などさまざまな波長の放射線が飛び交っており、それらを観察することで、宇宙で起きている現象の観測に貢献しています。
地球に降り注ぐX線は、大気で吸収されてしまい、地上からの観察は難しいため、人工衛星などを打ち上げてX線を観察します。

X線天文衛星イメージ

X線天文衛星「すざく」(ASTORO-EⅡ)

提供:JAXA/NASA

関連情報(詳細):JAXA宇宙科学研究所

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