温室効果ガスの排出量を低減する「脱炭素化」に向け、原子力分野でも脱炭素化の選択肢として、世界各国において、革新的な原子力技術への挑戦が繰り広げられています。安全性の向上、再生可能エネルギーとの共存や、水素の製造、熱エネルギーの利用といった多様なニーズに応える原子力技術のイノベーションが進められています。
小型軽水炉 BWRX-300
写真提供:日立GEニュークリア・エナジー(株)
■主な原子炉の比較
出典:三井物産戦略研究所資料より作成
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小型モジュール炉(SMR、Small Modular Reactor)
原子炉が小型のため自然冷却が可能となり、安全性が強化されます。また、ほとんどを工場で組み立てることができるため、工期短縮や建設コスト削減が可能です。さらに、大規模なインフラ整備が不要で、需要規模の小さい地域や未開発地、寒冷地、僻地、離島などでの利用にも適しています。
開発については、アメリカが先行していますが、近年、日本企業の研究開発も活発化しています。日本でも2019年から、「NEXIP(Nuclear Energy×Innovation Promotion)イニシアチブ※」の下で、民間企業などによる革新的な原子力技術開発の支援が始められています。
※文部科学省と経済産業省が行う事業で、原子力技術を開発する民間企業などを支援している。
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高速炉
高速炉は、核燃料サイクルによって期待される高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減、資源の有効利用の効果をより高めることができます。
日本では、1963年頃から高速炉の本格的な設計研究がスタートし、1977年には実験炉「常陽」、1994年には原型炉「もんじゅ」が臨界を達成しました。その後、「もんじゅ」に関しては、2016年12月の原子力関係閣僚会議で、廃止措置への移行となりましたが、同会議にて、日本における今後の高速炉開発の方向性を示す「高速炉開発の方針」も決定され、将来の実用化を目指し、開発を進めていくこととしています。
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高温ガス炉
炉心の主な構成材に黒鉛材料を用い、核分裂で生じた熱を外に取り出すための冷却材に化学的に不活性なヘリウムガスを用いた原子炉であり、炉心の冷却ができない状況になっても原子炉出力は自然に低下し、炉心溶融を起こしにくいという特徴があります。950℃の熱を取り出すことができ、水素製造などの熱利用に加え、ヘリウムガスタービンにより45%以上の効率で発電もできます。
日本では核熱エネルギーの多目的利用を目的に、日本原子力研究開発機構において1969年より研究・開発が進められ、高温工学試験研究炉「HTTR」が建設されました。新規制基準対応にともない10年以上、運転を停止していましたが、2021年7月30日に運転を再開しました。現在は、安全性を実証する試験を進めています。
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その他の研究炉
世界中の専門家が、世界の将来のエネルギー需要、特に電力需要の増加に対応できる第4世代の原子力システムの研究開発を進めています。第4世代原子力システム国際フォーラムが、2001年より開発国間で研究開発の協力・推進することを目的として検討が始まり、以下の6システムを評価しています。
●研究開発中の第4世代原子力システム
超高温ガス炉(VHTR)、ナトリウム冷却高速炉(SFR)、超臨界圧冷却炉(SCWR)、ガス冷却高速炉(GFR)、鉛冷却高速炉(LFR)、溶融塩炉(MSR)
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核融合(フュージョンエネルギー)
日本政府は、2023年4月に核融合エネルギーを新たな産業と捉え、実用化に向けた「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を決定しました。また、同年6月にはこの戦略を踏まえ、核融合エネルギー分野の今後の取組方針を含めた「統合イノベーション戦略2023」を閣議決定しました。この戦略は、先端科学技術の戦略的な推進、知の基盤と人材育成の強化、イノベーション・エコシステムの形成の三つを機軸とし、フュージョンエネルギー(核融合)など、官民連携で推進していく九つの分野別戦略を盛り込んでいます。文部科学省は、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」の決定を受け、核融合の未来の可能性を拓くイノベーションへの挑戦的な研究支援のあり方を検討し始め、「ムーンショット型研究開発制度」を活用し、社会・産業構造の変革に取り組むべきとしています。
核融合炉は、重水素や三重水素のような軽い原子核を融合させ、別の重い原子核になるときに発生する大きなエネルギー(核融合エネルギー)を取り出すシステムです。燃料のもとになる重水素とリチウムは海水中に広く存在するため、エネルギーの安定供給が可能です。また、核融合で発生する放射性廃棄物は低レベル放射性廃棄物として管理することができます。
現在、核融合炉の実現に向けて、国際共同プロジェクト「ITER計画※」が進められています。日本・アメリカ・ロシア・韓国・中国・インドの6カ国と欧州によって2025年の実験炉の運転開始を目指しています。
※平和目的のための核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証するために、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクト
■革新炉のロードマップについて
日本では革新炉(革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉など)の検討が、経済産業省資源エネルギー庁の革新炉ワーキンググループで議論されています。海外の動向やカーボンニュートラル・エネルギー安全保障を巡る環境変化も踏まえ、原子力イノベーションを通じて、再生可能エネルギーとの共存、水素社会への貢献といった、原子力の新たな社会的価値を再定義した上で、国内の炉型開発に係る課題を整理しつつ、その戦略を示した革新炉開発の技術ロードマップが検討されました。各炉の導入に向けた技術ロードマップのほか、下の「原子力サプライチェーンによる市場獲得戦略」が示されています。
※事業者の立地・事業計画により変更あり。
出典:資源エネルギー庁資料より作成