ウクライナ侵略以降、世界各国がロシア産の石油・石炭などのエネルギー資源の禁輸措置などを講じたことにより、エネルギー資源の供給をロシアに依存していたヨーロッパを中心に、世界のエネルギー市場が混乱に陥りました。そのため、世界の関心が「気候変動」のみならず、「エネルギーの安定供給・確保」にも重点が置かれるようになりました。短期的にはエネルギー供給不足の有事に際して、石炭活用への動きも見られます。しかし中長期的には、気候変動対策に向けた脱炭素の目標は変わらないため、エネルギーの安定供給と脱炭素の両立に向け、再生可能エネルギーの利用拡大と原子力発電の利活用に各国の注目が集まっています。
また、「米中対立」に加え、ロシアによるウクライナ侵略による「西側と中露の対立」へと世界の分断が深化しています。この分断は、経済や社会の仕組みを根本的に変えていく可能性があり、分断を回避するため、多様化やコストがかかっても分散を考えることとなり、考え方を根本から変える必要が出てきます。
2023年10月、イスラエル・ハマスの武力衝突が始まりました。軍事衝突の今後の展開やその影響を受ける中東情勢、その結果を受けての中東の石油供給など、すべてに不確実性が増し、先行きを正確に判断することがより難しくなっています。
主要国では、以下のエネルギー対策を講じています。
・ドイツ
再生可能エネルギーの利用拡大、石炭火力発電の稼働を増やすなど緊急措置を打ち出したものの、2022年冬場のエネルギー需要の高まりや、電力供給が不安定になるリスクを完全に排除できず、廃止予定の原子炉3基を2023年4月まで稼働延長した。4月15日、ドイツ最後の原子炉3基は恒久停止し、廃止措置に移行。欧州がエネルギー危機の影響から脱しきれていないなかでの脱原子力完遂に対し、国内外から批判の声が上がる。ドイツは浮体式LNG貯蔵再ガス化設備の導入を決定しLNGの調達を増やし、ドイツ北海の洋上ウインドファームの権益を電力事業者が取得。「国家水素戦略改訂版」を閣議決定し「水素発電所戦略」を公表、水素パイプラインの整備に着手するなど、クリーンエネルギー整備にも力を入れている。
・イギリス
新型コロナウイルス危機後の需要の急増やロシアのウクライナ侵略にともなうエネルギー価格の高騰を受けて計画を策定。2030年までに原子炉を最大8基建設し、2050年時点の発電電力量に占める原子力発電の比率を最大25%に引き上げる。2050年に向けて小型モジュール炉(SMR)の開発も急ぐ。再生可能エネルギーは洋上風力の2030年時点での発電目標を最大50GWとする。現状で14GWの太陽光発電も2035年までに5倍に増やすことを視野に入れ、2020年時点で4割強の再生可能エネルギーの比率を2030年までに7割以上に引き上げ、原子力発電も含めた低炭素電源を95%に近づける。
・フランス
温室効果ガス削減とエネルギー自立のために、2050年までに原子力発電容量を2,500万kW増強する計画を発表。既存炉の運転継続、小型モジュール炉開発を進める計画。
・アメリカ
バイデン大統領は2022年8月に、気候変動対策に関するアメリカ史上最大の歳出法案に署名した。法案の名称は「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022)」とし、減らした財政赤字「約7,370億ドル」を原資として、「エネルギー安全保障と気候変動」分野に3,690億ドルを投じる。これにより、2030年の温室効果ガス排出量が2005年比で約40%削減が見込まれ、パリ協定の目標(50~52%減)達成に近づける。
・日本
エネルギー調達の多様化・分散化、原子力発電の活用、再生可能エネルギーの利用拡大を図る。主要産油国への増産の働きかけを行う。
・中国
ロシア産の石炭、石油、天然ガスの輸入を拡大。
EUでは、以下のような計画も発表されています。
・「REPowerEU」計画
EUでは2022年5月にエネルギーの脱ロシア依存を目指す「RePowerEU」を発表しました。計画では2022年末までにロシア産化石燃料を3分の2に減らし、2030年にはロシア依存度ゼロを目指しています。
出典:欧州委員会資料より国際通貨研究所作成
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