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世界の原子力発電の動向
世界初の原子力発電は、1951年にアメリカで始まりました。その後、1970年代に起こった二度の石油危機を契機として、世界各国で原子力発電の開発が積極的に進められましたが、1980年代後半からは世界的に原子力発電設備容量の伸びが低くなりました。
しかし、有限な資源である石油などの化石燃料の獲得を巡る国際競争の緩和や地球温暖化対策のため、特にアジア地域では、原子力発電設備容量が着実に増加してきました。そうしたなか、2011年3月に東日本大震災が発生し、福島第一原子力発電所で事故が起こりました。事故後は安全性向上対策などのため全国の原子力発電所が運転を停止したことから、日本の原子力発電電力量が減り、アジア地域全体の原子力発電電力量も減少しましたが、2014年に再び増加に転じています。
一方、アメリカやヨーロッパでは、原子力発電所の新規建設が少ないものの、出力増強や設備利用率の向上によって、発電電力量は増加傾向となっています。設備利用率で見ると、例えば、アメリカでは1979年に起こったスリーマイル島原子力発電所の事故後、自主的な安全性向上の取り組みによって官民で設備利用率向上を進めた結果、近年の設備利用率は9割前後で推移しています。
日本では東日本大震災後、原子力発電所は長期間、運転を停止しており、2015年に新規制基準施行後初めて再稼働した九州電力(株)川内原子力発電所1号機を始め、2023年9月までに12基が再稼働したものの、設備利用率は低迷したままです。
また、エネルギー需要が急増する新興国を中心に、原子力発電所の新規導入や増設の検討が進められています。
■世界の原子力発電電力量の推移
出典:IEA,World Energy Statistics and Balances 2023より作成
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原子力発電の利用国の特徴
世界では、原子力発電を推進する国がある一方で、段階的に廃止する方針を掲げている国もあります。また、今後、新規導入や増設の検討を行っている国もあります。
人口が多い国は、潜在的な電力需要が大きく、GDPが大きい国は、実際の電力需要が大きくなっています。また、一次エネルギー供給量が多い国は、エネルギー安全保障上、複数の電源の確保が求められます。
このように、各国のエネルギーを取り巻く状況によって、「表:世界各国の原子力政策」のように原子力政策は異なります。
■人口・GDP・一次エネルギー供給
出典:IEA
世界各国の原子力政策
運転中の基数 2023年1月現在/総発電電力量に占める原子力の比率 2022年実績値
アメリカ
92基/18.2%
運転中の原子力発電所の原子炉が92基あり、基数・出力とも世界一の規模。当初の運転期間は40年であるが、以降20年ごとに認可更新でき、運転中92基のうち84基が60年運転認可を更新しており、8基のみが、当初の40年間の運転認可のもとで運転中。また、さらに6基が80年運転認可を更新し、審査中が10基。2021年に発足したバイデン政権は、気候変動対策の観点から原子力を重視する方針を示し、2050年までに200GWを建設することを提言、革新炉の申請に向けて規制を近代化し、早期に規制対応することとしている。
イギリス
9基/14.2%
2007年のエネルギー白書で、原子力発電所の新規建設に向けた政策面での支援方針を表明し、体制整備やスケジュールなどを定め、2011年7月に新設候補サイトを示す国家政策声明書を承認。2013年に成立したエネルギー法では、原子力発電への適用を含む低炭素発電電力の固定価格買取制度の実施を規定。2023年1月現在、2基を建設中。2022年4月、エネルギー安定供給に向けた中長期計画を公表し、2030年までに原子炉を最大8基建設し2050年時点の比率を最大25%に引き上げるとした。
フランス
56基/62.6%
2014年、オランド大統領の社会党政権が、原子力による発電比率を2025年までに50%まで引き下げ、現行の発電容量を上限とする「エネルギー転換法」が2015年に成立。その後、マクロン大統領政権下で、2017年、原子力比率引き下げの目標年次の延期が決定、2019年に2035年まで延期する方針を表明。当国の原子力安全機関(ASN)は、運転開始から40年を迎える90万kW級原子炉について、安全性向上策などを条件に50年運転を認める決定を発表。2022年2月、マクロン大統領は、温室効果ガス削減とエネルギー自立のために、①既存炉について、安全性が維持される限り運転の継続、②2050年までに原子炉6基を新規建設し、さらに8基追加を検討、③2030年までの小型モジュール炉(SMR)建設。以上の施策を通じて2050年までに原子力発電容量を2,500万kW増強すると発表した。
ドイツ
3基/5.8%
2002年に成立した改正原子力法により、19基の原子炉を2020年頃までに全廃するとしたが、2009年の連邦議会総選挙で「脱原子力政策」が見直され、翌年、運転延長を認める法案を閣議決定。しかし、福島第一原子力発電所事故を受け、連立政権は脱原子力を推進する立場へ転換。17基を段階的に廃止する法案が2011年8月に施行。これにより8基が即時閉鎖され、残り9基は順次閉鎖され、3基は緊急時予備電源として、2023年4月まで延長。2023年11月現在、3基は4月15日に運転停止し、政府は廃止措置への移行を決定。
中国
53基/5.0%
2013年に公表した計画で、2020年の原子力設備容量を5,800万kWとする目標を提示。2022年3月に発表された計画では、2025年までに設備容量が7,000万kWに達する見通し。2022年に新たに2基が営業運転を開始し、5基が着工した。建設中は24基で世界全体の約3割を占めている。原子力輸出についても、パキスタンで国産第三世代の2基がそれぞれ運転開始(2021年5月、2022年4月)し、イギリスやアルゼンチンでも新規プロジェクトが進行中である。
台湾
3基/9.1%
1978年から1985年にかけて6基が営業運転を始め、1999年より新たに2基の建設を開始。福島第一原子力発電所事故を受けて原子力反対の世論が高まり、当時の国民党政権は、既存炉6基は40年間運転後、段階的に閉鎖していく政策を明らかにした。建設中2基も中止を決定し、2015年に密閉管理の停止状態に置かれた。脱原子力を掲げた蔡英文政権(民進党)が2016年発足。2017年に、議会が2025年までにすべての原子力発電所の停止を含む法改正案を可決。しかし、同年に大規模な停電が発生し、安定的な電力供給を求め、2018年に住民投票を実施。法規定廃止の賛成が反対を上回り、法規定の削除が決定されたが、政府は脱原発方針を維持した。2021年に停止状態の発電所建設再開是非を問う住民投票が行われ、反対多数で否決された。
韓国
25基/30.4%
2035年の原子力発電比率を29%とする計画だったが、文政権は、脱原子力政策への転換を宣言し、新設計画を全面白紙化し、運転期間延長も認めないことを表明。2020年の電力供給基本計画では、2034年の発電設備容量に対する原子力の割合を10.1%まで削減するとした。しかしながら、2022年3月に誕生した尹政権は、前政権が定めた原子力政策を撤回し、2030年に原子力で少なくとも総発電量の30%を賄う方針や、新ハンウル3、4号機建設計画の再開方針を示した。2023年1月に公表した基本計画でも原子力の積極的な活用を表明。
インド
22基/3.1%
2007年7月、アメリカとの間で民生用原子力協力に関する二国間協定交渉が実質合意。原子力供給国グループが核兵器不拡散条約非締約国のインドと例外的に原子力協力を行うことを決定し、国際原子力機関による保障措置協定の承認などを経て、2008年10月に発効。その後、ロシア、フランス、カナダ、イギリス、韓国、日本などとも民生分野で原子力協力協定を締結。2022年11月には、原子力の設備容量を2032年までに現在の678万kWから3倍にする計画。
ロシア
34基/19.6%
1986年のチョルノービリ原子力発電所事故以降、新規建設が途絶えていたが、2001年に新たな原子力発電所が運転を開始。現在、5基を建設中、18基を計画中。2009年の「長期エネルギー戦略(2030年戦略)」では、原子力の発電比率を2030年には20%近くまで引き上げ、発電量を2.2〜2.7倍に増大することを想定。現在は、さらに2045年までに25%に上昇させる計画。また、原子力の輸出も進めており、ロスアトムの2022年の輸出売上は100億米ドルを超え、前年比15%増加。発電所の建設は5基が新規着工した。
ポーランド
0基/0%
ポーランドは、エネルギー供給の87%(2021年)を化石燃料が占め、なかでも石炭が最大のシェアを占めている。ロシアからの化石燃料の輸入依存から脱却し、エネルギーの安定供給とEUの温室効果ガス排出規制の目標を達成するため、原子力発電を推進。2020年に原子力発電プログラム2020を閣議決定、さらに2040年までのエネルギー政策(PEP2040)を2021年に決定し、再生可能エネルギーの利用拡大や原子力発電の導入により、石炭火力発電を減らし、電化(特に交通機関)、エネルギー効率の改善を通じて、エネルギー供給における温室効果ガス排出量の削減を目指す。原子力発電建設は、2033年までに初号機を運転し、2043年までに合計6基、出力600万~900万kWを導入する計画で、総発電量の23%を目指す。
出典:資源エネルギー庁・(一社)日本原子力産業協会資料などより作成