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原子力災害の特徴
原子力災害とは、原子力施設の事故により、放射性物質が放出され、原子力施設の周辺地域の住民や環境などに直接または間接的に被害を与えることです。
地震や風水害、火災などの一般災害と異なり、原子力災害は、人間の五感では感じることができない放射性物質や放射線に関して対策を講じる必要があります。
そのため、国や地方公共団体などは、モニタリングポストなどで測定された大気中の放射線量などの実測値に基づき、住民の被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)の実施を判断していきます。
なお、原子力災害時の住民への情報連絡、屋内退避や避難、被災者の生活に対する支援などは、一般災害と共通する点が多いため、原子力災害は一般的な災害対策と連携して対応していくことが重要です。
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原子力災害対策指針
原子力災害時、国民の生命および身体の安全を確保することが最も重要です。そのため、原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針では、緊急事態における原子力施設周辺の住民などに対する放射線の影響を最小限に抑えるための防護措置などが示されています。
また、事業者や国、地方公共団体などは、平常時から緊急時の原子力災害対策に関する計画を整備し、訓練することが求められています。原子力災害対策指針では、その計画の策定などで求められる科学的、客観的な判断を支援するため、原子力災害対策に関する専門的、技術的な事項について定められています。
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地域防災計画の作成
地域防災計画は、災害対策基本法において、地域の実情をよく把握している地方公共団体で作成することとされています。一般の災害と同様に原子力災害が起きたときも、地方公共団体だけでなく、国や公共機関、地域住民、学校、病院などがそれぞれの役割を担うことが不可欠です。特に、原子力災害については、原子力災害対策指針に基づき、原子力災害対策重点区域に設定された都道府県および市町村(原子力災害対策重点区域と緊急事態の区分 参照)で、原子力施設を中心にした広域避難計画の作成や防災資材の整備を行うこととされています。
国は、地域防災計画(原子力災害対策編)のひな型として、原子力災害対策マニュアルを各地方公共団体に提供しています。対策市町村である37道府県、140市町村すべての地域で地域防災計画が策定済みとなっています。今後、自治体、住民ともに地域防災計画を定着させることが大切です。
そして、国や地方公共団体などが策定した原子力災害に関する各種計画やマニュアルなどに基づく活動を実施し、緊急事態対応を確認するため、国や地方公共団体、事業者などの関係者が共同して原子力総合防災訓練を実施しています。
全国共通の課題として、要配慮者の安全な避難や移動手段の確保、複合災害時の避難、安定ヨウ素剤の事前配布、避難の受け入れ体制の整備、避難退域時検査や除染実施体制の整備などが挙げられています。今後も国と地方公共団体が一体となって地域の防災計画や避難計画などの具体化・充実化を図っていくことになります。
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原子力災害対策重点区域
原子力災害時に影響が及ぶ可能性がある区域には、重点的に原子力災害特有の対策を講じておく必要があるため、原子力災害対策重点区域を定めています。原子力災害対策指針では、原子力施設からの距離に応じて2種類の区域が定められています。
①予防的防護措置を準備する区域:PAZ
原子力発電所から半径おおむね5kmの区域
②緊急防護措置を準備する区域:UPZ
原子力発電所から半径おおむね5~30kmの区域
国際原子力機関(IAEA)では、PAZの範囲は3~5km、特に5kmを推奨しています。また、UPZは5~30kmを推奨しています。これは、放射線による影響をはじめ、1986年に旧ソ連のチョルノービリ原子力発電所で起こった事故の事例や、屋内退避や避難を速やかに行える距離であるかどうかなど、対策の実行可能性を踏まえて提案されました。日本の原子力災害対策指針では、この国際原子力機関の基準を踏まえ、さらに福島第一原子力発電所事故で実際に影響が及んだ範囲なども考慮して、原子力災害対策重点区域の範囲が設定されています。
PAZは、急速に進展する事故のときに、まずは、住民の放射線による確定的影響を回避することを念頭においています。放射性物質が環境へ放出される前の初期の段階に応じて、住民の避難や安定ヨウ素剤の服用などの予防的防護措置を準備する区域としています。
UPZは、緊急事態のときに、放射線の被ばくによる確率的影響のリスクを最小限に抑えるため、屋内退避や避難、安定ヨウ素剤の服用などの防護措置を準備することとしています。
関連情報(詳細):エネ百科「PAZ、UPZに含まれる市長村」
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関連情報(詳細):エネ百科
「住民の行動と避難退域時検査」
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オフサイトセンターの役割
原子力災害が起きた場合には、オフサイトセンターに現地対策本部が設置され、国、地方公共団体、事業者などの関係者が一体となり、モニタリング、被ばく医療、避難、住民への情報発信などを迅速に行う役割を担うことになります。
東日本大震災とそれにともなう津波、福島第一原子力発電所事故の経緯から、地震と津波などが同時に発生する複合災害に備えるため、災害に強い通信インフラの設備や電源などの確保とともに、利便性を考慮しながらも基本原則として、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)圏内(原子力施設からおおむね5〜30km圏内)にオフサイトセンターを設置すること、また、代替オフサイトセンターの検討などが求められています。
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原子力防災訓練と啓発活動
福島第一原子力発電所事故の教訓と経験を踏まえて見直された原子力防災体制は、訓練や新たな教訓を導入することで不断に改善が図られることが重要です。そして、改善された計画を周知し、地域でさらに改善が図られることが大事です。地震のときの初動のように「頭を隠す」「火元に注意する」行動を住民自らがとれるように、原子力発電所からの距離によって(居住地域によって)住民がとるべき対応が異なること、放射線から身を守るには「屋内退避」「避難」が必要であることなどを住民が思い浮かべられるように活動を進めていくことが求められます。