- 1
放射線と放射性物質
地球や宇宙にあるすべての物質は、「原子」からできています。原子は、原子核とそのまわりを回る電子から構成され、原子核は、陽子と中性子で構成されます。電子は、マイナスの電荷をもっています。一方、陽子は、電子と同じ大きさのプラスの電荷をもっています。中性子は、電荷をもっていません。
原子が電気的な中性を維持するため、電子の数と陽子の数は基本的に同じです。原子の化学的な性質は、電子の数と配置によって決まることから、電子の数と基本的に同数となる陽子の数によって決まることになります。そこで、原子核のもつ陽子の数を「原子番号」といいます。また、陽子の数が同じもの同士でまとめたものを「元素」といいます。
陽子と中性子の質量は、ほぼ同じです。一方で、電子の質量は、陽子や中性子の質量の約1,800分の1です。したがって、原子の質量は、原子核に陽子と中性子が合計何個あるかでほぼ決まります。このことから陽子と中性子の数の合計を「質量数」といいます。陽子の数が同一(同じ元素)でありながら、中性子の数が異なる原子を「同位体」といいます。
エネルギー的に安定で、地球や宇宙の年齢程度の時間では変化しない原子を「安定同位体」といいます。一方、原子には高いエネルギーをもった不安定な状態のものがあります。時間の経過とともにその中心にある原子核が、高速の粒子や電磁波を出して、安定な状態になっていきます。こうして放出される高速の粒子や電磁波が「放射線」です。放射線を出す能力を「放射能」といい、放射能をもつ原子を「放射性同位元素」あるいは「放射性同位体(RI、Radioisotope)」といいます。RIは、放射線を出すことで別の原子になります。RIを含む物質が「放射性物質」です。
例えば、水素原子の場合、水素1、水素2、水素3が自然界に存在します。このうち、水素1と水素2が安定同位体、水素3がRIです。炭素原子の場合、炭素12、炭素13、炭素14が存在し、炭素12と炭素13が安定同位体、炭素14がRIです。また、セシウムの場合、セシウム133が安定同位体、セシウム134、セシウム137はRIです。
■原子の構成
-
関連情報(詳細):電気事業連合会
「原子の構造」
■安定同位体と放射性同位体
- 2
放射線の種類
放射性物質には、地球の誕生時から自然界に存在するものと、宇宙線の作用でつくられるもの、原子炉などで人工的につくられるものがあります。しかし、それらの放射性物質から出る放射線の物理的性質や生体への作用は、放射線の種類とエネルギーによって決まり、天然か人工かによる違いはありません。
放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、中性子線などの種類があります。セシウム137の場合、中性子が過剰で不安定な状態のため、中性子のうち1個が電子を放出し、陽子に変わりバリウム137mとなります。このときに放出される電子がベータ線です。バリウム137mは、まだエネルギーが高く、不安定な状態のため、エネルギーを電磁波として放出し、放射線を出さない安定同位体のバリウム137になります。このときに放出される電磁波がガンマ線です。
1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞したドイツのレントゲンが、1895年、真空管の一種である放電管を使った実験中にエックス線を発見しました。エックス線は、人工の放射線でガンマ線と同じ電磁波の一種です。
■セシウム137が放射線を出すしくみ
※バリウム137mは「エネルギーの高い状態のバリウム137」を表し、同じ種類の原子でも違う構造をしているため、バリウム137に「m(metastable、メタステーブル)」を付けて区別します。
出典:東京工業大学 松本義久氏 資料より作成
- 3
放射線の性質
放射線は、物質を通り抜ける力(透過力)をもっています。しかし、その力は放射線の種類によって違い、適切な材料や厚さなどを選ぶことによって、さえぎることができます。
例えば、最も透過力の低いアルファ線は、紙1枚でとめることができます。ベータ線は、アルミニウムなどの薄い金属板やプラスチック板、ガンマ線やエックス線は、鉛や厚い鉄の板、さらに中性子線は、水やコンクリートによってさえぎることができます。
また放射線には、透過力だけではなく、電離作用、蛍光作用といった性質もあり、各特性は医療や工業、農業などのさまざまな分野で応用されています。
- 4
放射能の減衰
RIの放射能は、時間がたつにつれて弱まる性質があり、これを減衰といいます。また、放射能が半分に減るまでにかかる時間を「半減期」あるいは、「物理学的半減期」といいます。RIの種類によって半減期は異なり、数秒以下の短いものから、100億年を超える長いものまであります。半減期を2回、3回経過すると、放射能はそれぞれ最初の4分の1、8分の1になります。
なお、体内に取り込まれた放射性物質は、臓器や組織に取り込まれた後、排泄されます。排泄によって体内の放射性物質の量が半分になる時間を「生物学的半減期」(外部被ばくと内部被ばく参照)といいます。
■放射能の減り方
-
関連情報(詳細):
「放射能の半減期」
■物理学的半減期
※壊変生成物(原子核が放射線を出して別の原子核になったもの)からの放射線も含む
出典:(公社)日本アイソトープ協会「アイソトープ手帳11版」より作成