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緊急事態の区分と対応
緊急事態の進展の段階は、準備段階、初期対応段階、中期対応段階、復旧段階の四つに区分されています。原子力発電所で事故が発生した場合には、関係者が共通の認識に基づいて対応します。
四つの区分のうち、初期対応段階は、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、放射性物質の放出開始前から必要に応じた防護措置を講じなければなりません。そのため、施設の状況に応じて緊急事態を警戒事態、施設敷地緊急事態、全面緊急事態の三つに区分しています。
事業者は、緊急時活動レベル(EAL:Emergency Action Level)を設定し、三つの緊急事態に対応させています。
また、放射性物質の異常な量の放出、または、そのおそれのある場合、大気中の放射性物質の濃度などの時間的・空間的に連続した放射線の状況を把握するため、三段階に分けて緊急時モニタリングを実施します。
事業者や国、地方公共団体は、情報を収集し、事態を把握するとともに、放射線防護のための避難や安定ヨウ素剤の服用などについて準備や実施を判断します。
■緊急事態の区分とモニタリング
【平常時の線量基準】
線量限度とは、個人が受ける被ばく量を合理的な範囲内でできるだけ抑えるために設けられた上限値です。
平常時で、放射線の線源や人への被ばくが制御できている状況では、職業として放射線を取り扱う人の職業被ばくを管理するため、5年間で100ミリシーベルト(1年間では、50ミリシーベルトを超えない)の線量限度が定められています。
一般の人に対しては、1年間で1ミリシーベルトの線量限度が設定されています。
【事故が発生したときの初期の線量基準】
事故が発生した初期の段階で、防護活動によって避けられる被ばくの目安が設けられています。2日を超えない期間で10ミリシーベルトの被ばくの回避が見込まれる場合は屋内退避、1週間を超えない期間で50ミリシーベルトの被ばくの回避が見込まれる場合は避難が実施されます。
緊急時に対応にあたる作業者の線量限度は100ミリシーベルトと定められていますが、福島第一原子力発電所の事故では、収束作業に支障が生じるため、一時的に線量限度を250ミリシーベルトに引き上げられました。このことを教訓に見直しが進められ、電離放射線障害防止規則等の改正にともない、2016年4月から緊急時に対応にあたる作業者の線量限度が250ミリシーベルトに引き上げられました。
【事故が発生したときの緊急時の線量基準】
ICRP※では、事故などの緊急時においては、救命活動などを除いて、年間または一度に20~100ミリシーベルトの範囲で、避難や除染、摂取制限などの基準を定めることを勧告しています。これは線量限度ではなく、参考レベルとよばれています。
【事故収束後の長期的なリスク管理目標】
緊急時の事態の収束後、平常時より高いレベルの線量のもとで、一般の人の被ばく管理や防護活動を行う場合、周囲の状況に応じながら、1~20ミリシーベルトの範囲で、可能な限り低い参考レベルを選定することが勧告されています。
放射線防護は、被ばくを防止・低減して、早く平常時に戻すことを目的としています。そのためには、社会的・経済的要因を考慮して、さまざまな対策が合理的であったかを確認しながら線量目標を下げていくことになります。
20ミリシーベルト、1ミリシーベルトなどの数値は、被ばく線量をできる限り低く抑える、最適化とよばれる放射線防護活動の原則を実践するための目安です。そのため、安全と危険の境界を示すものではありません。発がんのリスクを最小化する手段であり、この程度の線量は、確定的影響とよばれる身体的な影響は起こらないレベルの被ばくです。
放射線を恐れるあまり、精神的ストレスやさまざまな発がん要因、肥満、運動不足などの健康リスクを高めることがないように、バランスのよい生活態度を選択する工夫が必要です。
※ICRP:国際放射線防護委員会
ワンポイント情報
◆線量参考レベルとコミュニケーション◆
福島第一原子力発電所の事故では、公衆の被ばく線量限度に年間20ミリシーベルトが採用されました。同時期に個人被ばく線量の測定が行われました。これは、年間20ミリシーベルトを超えそうな生活をしている人に「介入」するためです。例えば、年間20ミリシーベルトは、半年で10ミリシーベルト、3か月で5ミリシーベルトに対応します。3か月や半年でそれぞれの参考レベルに相当する値を超える生活をしている人は、年間20ミリシーベルトを超える可能性があります。このような場合に、3か月や半年のタイミングで、生活改善アドバイスがなされることを「介入」とよびます。事前、あるいは適時適切に、このようなコミュニケーションを行っていく必要があります。