Vol. 6 (2024/10/31)
「原子力の日 特別インタビュー」
原子力に関する探究活動に携わる現役大学生の
原子力やエネルギーに対する思い
――「原子力やエネルギーの課題をより多くの人たちに伝えたい」
日本原子力文化財団が主催する課題研究活動支援事業(協力:電気事業連合会)では毎年、エネルギーや原子力に関する課題研究活動を行う学校を全国から募集し、支援しています。2018年度からスタートし、これまで6回開催しています。
課題研究に取り組んだ高校生たちの中には、大学に進学しても探究活動を続ける学生が少なくありません。彼らは高校時代の探究活動によって何を身につけ、どのような思いで活動を続けているのでしょうか。
2021年度に課題研究活動支援事業で最優秀賞に輝いた福井南高校OGで、今もそれぞれが自主的に探究活動を続けている今泉友里さん(大学2年生)と森夕乃さん(大学1年生)に話を聞きました。
●今泉 友里さん 桜美林大学・教育探究科学群(2年生) 福井南高等学校1年生の時、高校生が製作したドキュメンタリー映画『日本一大きいやかんの話』を観たのがきっかけで原子力発電所を巡る問題に関心を抱き、校内で自主的な探究活動をはじめる。校内のゼミ活動で高校生の原子力に関する意識調査を行い、原子力学会ほか関係分野からも高く評価されている。大学に進学した後も、原子力発電所や高レベル放射性廃棄物の地層処分事業に関する知見を深めつつ、異なる意見をまとめて合意形成にいたるコミュニケーションの研究を行う。 |
●森 夕乃さん 慶應義塾大学・総合政策学部(1年生) 中学3年生の時、福井南高等学校で原子力発電所をテーマにした教科横断型授業が行われていることを知り、同校に入学。1年先輩の今泉さんたちのもと、高校生の原子力に関する意識調査の活動に参加。その活動は原子力学会ほか関係分野からも高く評価されている。大学に進学した後も、後輩の活動を支援しながら、政策面から原子力発電所や高レベル放射性廃棄物の地層処分事業に関する研究を行っている。 |
高校時代の探究活動で得た経験を大学でも活かす
――お二人は高校時代に同じ探究活動を行ってきた先輩と後輩の関係で、大学に進学された後もそれぞれ別に原子力やエネルギーに関する活動を続けているそうですね。
今泉:はい。私は高校時代に打ち込んだ探究活動をより深めたいとの思いで、今の大学に進みました。現在は、個人的に様々な団体の原子力に関するイベントやプログラムに参加したり、大学の友人と原子力を巡るコミュニケーションをテーマにした研究活動をしています。
森:私は福井南高校OGとして、さまざまなイベントで発表させていただいたり、原子力に関する探究活動に参加しています。同時に大学で原子力やエネルギーを個人のテーマに設定して、幅広く学んでいます。
今泉:今は一緒に活動していませんが、たまに二人で発表する機会もありますし、地方で行われるイベントにそれぞれでエントリーして、現地で顔を合わせることもあります。
森:先日も福島で行われたイベントで今泉先輩と会ったところです(笑)。
高校生が製作した1本の映画がきっかけで始まった活動
――まず、お二人が原子力に関心を持つようになったきっかけを教えてください。
今泉:私の場合、高校1年生(2020年)の時に、『日本一大きいやかんの話』(※)という映画を観たのがきっかけでした。
私が所属していた写真部の顧問の先生から、「高校生が製作した自主映画」と聞いて興味を持ち、上映会に参加させてもらったんです。その作品を観て、私にも何かできるかもしれないと思ったのです。
そこで一緒に映画を観にいった写真部の2年生の先輩と、もともと社会課題に関心を持っていた3年生の先輩と私の3人で、原子力発電所について校内で話し合えるような場を作ろうということから活動がはじまりました。活動について顧問の先生に相談したところ、教科横断型授業として扱わせてもらえることになったのです。
私たちはその教科横断型授業で、『日本一大きいやかんの話』の上映と原子力やエネルギーについて知ってもらうような特別授業を同級生や
同じ学校の生徒に向けて行いました。高1の2月のことです。
※映画『日本一大きいやかんの話』
2018年に現役高校生が製作したドキュメンタリー映画。東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、原子力発電所に対する賛成派と反対派の意見が対立する中、科学者や企業、NPO、政府などに取材を行い、両者の橋渡しを目的とした作品。映画甲子園主催の高校生のためのeiga worldcup 2019自由部門で最優秀作品賞を受賞し、アジア国際青年映画祭でも高校生準グランプリを獲得するなど、多くの賞を受賞。
――映画を観る前から、原子力発電に関心はあったのでしょうか。
今泉:いえ、原子力発電所が立地している福井県に生まれ育ちながらも、原子力発電所の話題はなんとなく難しいというイメージを持っており、無関心に近い状態でした。おそらく地元の高校生の多くも同じだったと思います。
森:ちなみに先輩たちが行ったその課外授業(教科横断型授業)は、地元の新聞に取り上げられたんですよ。中学3年生だった私は、その記事を読んだのがきっかけで福井南高校に行こうと決めたのです。特に、その記事で目を引いたのが授業風景を写した写真でした。生徒を前に授業をしている今泉先輩が満面の笑みを浮かべていたんです(笑)。原子力発電のことを話し合う授業なのに、明るく楽しい雰囲気だったのが衝撃的でした。
私自身も原子力発電に対して「怖い」「難しい」というイメージしかなかったのですが、高校生がこの問題に取り組んでいると知って、自分も参加したいと思ったのです。
課題研究活動支援事業で体験した他校との交流に感動
――森さんが福井南高校に入学した時、今泉さんが2年生。その年(2021年)、お二人は「福井県 高校生の原子力に関する意識調査2021」の冊子づくりに取り組まれました。その一環で、当財団が主催・運営する課題研究活動支援事業にも参加し、その年の最優秀賞を獲得されました。
2022年度の成果報告会の様子
今泉:春に森さんが加入し、一つ上の先輩と3人で活動をはじめたのですが、その頃は単純に「他の高校生たちが原子力発電についてどう思っているのか知りたい」という思いだけがありました。その思いを写真部の顧問の先生に相談したところ、だったら意識調査をしてはどうかというアドバイスをいただきまして、やってみようということになりました。
――それも高校の写真部としての活動だったのでしょうか?
今泉:あっ、そこですよね。
森:ちょっとややこしいんです(笑)。
今泉:実は、福井南高校の写真部員の中に、探究活動を志すグループが派生していまして。
森:「人間活動部」という名前で。
今泉:その「人間活動部」の中の、そのまた有志3人ではじめたのが最初です。
森:はっきり言って写真部とは関係ない活動なんですけど、憧れの今泉先輩たちと探究活動を進めるために、私もなぜか写真部に入部しました(笑)。
今泉:翌年から人間活動部は学校に正式な「ゼミ」(浅井ゼミ)活動として認められ、活動を開始しました。最初の年(2021年)はそんな自主活動だったので運営費もなかったんです。写真と何の関係もない活動で部費を使うわけにもいかないので、意識調査をするための予算をどうしようと思案していたところ、浅井先生から「日本原子力文化財団」の課題研究活動支援事業のことを聞いて応募しました。
森:その課題研究活動支援事業の一環で、浜岡原子力発電所を視察する「施設見学会・交流会」に参加したことはよく覚えています。私にとって実際の原子力施設を見たのはその時が初めてだったので驚きの連続でした。一番驚いたのは、市街地のすぐそばに原子力発電所があったことです。原子力発電所というと、山深いところにぽつんとあるものだとばかり思っていたら、施設の屋上から市役所が見えていたんです。防波壁の高さにも圧倒されました。
今泉:私は発電所の施設の立地や規模もさることながら、他校の生徒たちと交流できたのが嬉しかったです。似たような意識を持った高校生がこれほどいるんだと感動しました。
森:たしかに原子力や高レベル放射性廃棄物の地層処分について、同じ高校生どうしで話し合える機会はなかったですよね。
今泉:しかも、風力発電の研究とか、地域の農業とエネルギーに関連した取り組みなど、様々な視点で研究を進めている全国の高校生の話を聞けたのが純粋に面白かったです。
森:そこで知り合った他校の生徒の人たちと、その後も連絡を取り合うようになり、協力し合う関係が築けたことも貴重でした。
多くの人の協力を得てまとめられた「高校生の原子力に関する意識調査」
――みなさんがまとめた「福井県 高校生の原子力に関する意識調査2021」は、その年の課題研究活動支援事業で最優秀賞に輝きました。その時はどのような気持ちでしたか?
今泉:まず、協力してくださった数多くの方々に、「協力してよかった」と思っていただけるかなという気持ちでしたね。自分たちが何かを獲得したという感覚はありませんでした。
森:私も同じです。そもそも何もわからない中で参加した探究活動で、予想をはるかに超える人たちが協力してくださったことが驚きでしたし、その成果が評価してもらえたのだから、次の年も継続して取り組もうと思いました。
今泉:本当に何もかも初めてのことだったんですよ。そもそも大人の人に送るメールの書き方もわからない状態でしたから。先生に文面を確認していただき「大丈夫」と言われても、まだ3人で「これでいいかな、どうかな」と書き直していました(笑)。
森:一番つらかったのはアンケートの集計作業でした。なにしろExcelを触るのも初めてで「グラフを作るのはどのボタンを押せばいいんだ?」みたいな状態でしたから。
2021年度 課題研究活動 成果発表会レポート
同級生や家族の間で少しずつ広がっていった関心の輪
――高校時代に課題研究に取り組んでよかったと思うことを教えてください。
今泉:まず、ふつうの高校生活では得られないような人たちと出会えたことです。特に、大人の方々と接する機会が多くあって、みなさんからいろいろな考え方を教えていただきました。そのおかげで考えが深まっていったように思います。また、そういう方々にご協力のお願いをするためのスキルが身についたことも、成長に繋がったように思います。
森:私はもともと人とコミュニケーションを取るのが苦手で、初対面の人と話すと顔が真っ赤になるようなタイプでした。それが探究活動を通じて人と意見交換ができるようになったことは、自分の成長だと感じます。家族も、引っ込み思案だった私が探究活動をしている姿は輝いて見えるよといって、応援してくれていました。
――みなさんの探究活動は周囲に影響を及ぼしたと感じますか?
今泉:活動をはじめた時は、校内で原子力に関心がある人はあまりいなかったように思います。でも教科横断型授業などで、私たちが生徒の前に立って発表をするようになってからは、友だちから「今日の発表はよかったよ」とか「〇〇の説明が難しかった」といったような意見をもらえるようになりました。少しずつ関心の輪が広がっていったかなとは思います。
森:特に、「ゼミ」になってからは、一気に校内の生徒たちの関心も高まった感じがします。
原子力やエネルギーの問題は、知らないでは済ませられない
――高校を卒業し大学に進んでからも活動を続けている理由とは?
今泉:高校時代に高レベル放射性廃棄物の地層処分の問題を知ってから離れる理由がなかった、というのが正直な感想です。未来の環境に大きな影響を及ぼすことなので、社会人になった時に知らない、わからないでは済まされないという思いがあります。
もう一つは、探究の面白さです。私にとって考えること自体が楽しくて、難しい課題を調べていくうちに「あ、そういうことか」と理解できた時にはワクワクします。それが続けてきた理由でもあります。
森:私も、探究活動が純粋に楽しいですし、私たちの研究を引き継いでくれている後輩もいますので、その活動を私なりに支援したいという思いもあります。
大学に進んでみて気づいたのは、原子力は多様な学問と繋がっているということです。たとえば、高レベル放射性廃棄物の地層処分を進める上では、候補地の地域を知る必要がありますし、人の心理についての知識も必要です。さらには医療の分野もかかわってきます。
私がいる総合政策学部では、1つの分野と他の分野をかけ合わせる授業が多いのが特徴で、たとえば「エネルギー×組織論」とか「エネルギー×街づくり」といったように、日々新たな学問に接しています。そうして複合的に学べる環境によって、より深い探究ができています。
今泉:私も前に言ったとおり、高校時代の探究をさらに続けたいとの思いから今の大学を選んだので、日々やりたい学問を学んでいます。
高校時代の純粋な疑問や思いを大切にしてほしい
――高校時代と大学に進んだ今とで、何か変化はありましたか?
今泉:高校時代は何をするにしても顧問の先生の手厚い指導がありましたし、先生からも「責任は先生が取るから、みなさんは存分にやりたいことをやりなさい」と背中を押してもらえました。でも大学生になると、すべて自分の考えで動かなければならないし、やったことの責任も自分で取らなければならないので、その点は変わったと思います。
森:私はアドバイスをする立場で参加させてもらうことも増えたのが一番の変化です。それも「より多くの人に原子力やエネルギーの問題を知ってもらいたい」という高校時代の思いの延長です。今は自分が知っていることを次の世代につなげていくことに意義を感じています。
――最後に、今、原子力やエネルギーをテーマに探究活動をしている高校生の後輩たちにメッセージをお願いします。
今泉:今日、ずっと「探究活動は楽しい」と言ってきましたが、実際には苦しいことやつらいこともたくさんあります。だから母校の後輩たちをはじめ、全国の探究活動をしている高校生たちを心配する気持ちもあります。
今、私が伝えられるのは、つらいことがあっても続けてきた結果、この経験をしてよかったと思う気持ちのほうがはるかに勝っているということです。自分の心の中に知りたい気持ちが芽生えた人、社会の課題解決に自分なりの仮説を持っている人には、ぜひその答えを探る活動を続けてもらいたいと願っています。
森:先輩がおっしゃたように、探究はすごく楽しいけど、つらいこともあります。でも大学生になって思うのは、高校生だからこそできることがある、ということ。知りたいとかやりたいという純粋な思いだけで進んでいけるのが、高校生の特権です。だから社会課題に限らず、趣味でも何でもいいから、やりたいことは行動に移してみてください。その先に将来につながる何かが見つかる可能性があると私は思っています。
課題研究活動支援事業 活動状況
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