原子力文化コラム

Vol. 8 (2025/3/7)

寿都町&神恵内村
北海道後志2町村を訪問して現地の文化に直接触れる体験学習プログラム「大学生スタディツアー」(2024年9月26日~28日)参加者3人によるツアー体験談


日本原子力文化財団では2024年9月26日から28日の3日間、北海道の寿都町および神恵内村を視察する「大学生スタディツアー」を開催しました。この2町村は高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の第1段階となる文献調査が行われていました。

本ツアーは高レベル放射性廃棄物の「地層処分」をテーマに、地元の自然や文化を体験し、現地の人々との交流を通じて学びを深めることを目的とした体験学習プログラムです。

参加した学生3人に、ツアーの体験談を語ってもらいました。

 
 

「『地層処分』について学びつつ観光の要素もあり、
バランスの良い充実したプログラムでした」

 













大阪大学外国語学部 2年 
ZHAI YUJIA(たく)さん

―当財団の「大学生スタディツアー」を知ったきっかけと参加した理由を教えてください。

2024年の夏に、大学で福島第一原子力発電所がある福島県の浜通り地区の環境放射線を測定する授業を受講した後、このツアーのことを担当の先生から教えてもらったのがきっかけでした。私自身、地層処分のことはあまり知識がなかったので、貴重な機会だと思い参加を決めました。

――寿都町、神恵内村を訪れた印象を教えてください。

空気が澄んでいて、海の色がとてもきれいな場所でした。季節も良くて、いい時期に開催してくださったことに感謝しています。


写真:寿都町の空と海

――原子力やエネルギーに関してもともと関心があったのですか?

幼い頃は山口県に住んでいて、東日本大震災も日本で体験しています。当時、僕は小学3年生で、テレビのニュースで目にした津波や原発事故の映像は今も脳裏に焼き付いています。

大学の授業選択で「福島」に関連した特別コースを見つけたときに、当時の記憶が蘇り、その授業を選択しました。

――今回のツアーを通じて、「高レベル放射性廃棄物の地層処分」についてどのような感想を持ちましたか? 

初日の北海道大学での授業で、「原子力発電で使用した燃料の約5%は再利用できないため、処分が必要」との基礎的な知識を教えてもらいました。2日目の「NUMO寿都交流センター」では、処分場の施設イメージ模型を見ました。この2日間で最終処分場のイメージが鮮明になりました。

ただ、寿都町や神恵内村の自然があまりに美しいので、地下に処分場ができる可能性を考えた時に、少し複雑な思いになったのも事実です。だからこそ、地域住民の方々へ安全面の説明を尽くすとともに、地域発展のメリットを明確に示すことが重要だと感じました。

――参加者によるグループディスカッションも行われました。その時、ご自身はどのような感想や意見を持ちましたか?

僕たちの生活は、電気というエネルギーの恩恵に預かっていて、その電気の何割かは原子力発電から生まれていることを、都市部に住む人たちは、特に意識する必要があると思いました。原子力発電を利用する以上、高レベル放射性廃棄物の処分方法は、電気を使っている全ての人が責任を持って考えるべきことです。

――今回のツアーを体験したうえでの感想を教えてください。

これからの日本の経済を考えるうえでエネルギー問題は重要です。特にSDGsの視点からも原子力発電と向き合うことが、重要なテーマだと考えるようになりました。

ツアーの内容全体については、原子力発電や高レベル放射性廃棄物について学ぶ時間や、意見交換の場もありながら、自然を満喫したり温泉や食事を楽しむこともできる、充実した内容でした。他大学の参加者とも親しくなれましたし、日本原子力文化財団の方々との距離感も近く、とても楽しい3日間でした。
 
 

「若い世代に向けたSNSでの情報発信が課題」

 













北海道科学大学 4年 
勝原 祥さん

――地元の大学から、この「大学生スタディツアー」に参加した理由を教えてください。

きっかけは所属するゼミの先生からの紹介でした。2年前に先輩も参加していたと聞き、私も参加することにしました。私の研究室では原子力発電所の原子炉の劣化について研究をしていて、自分の研究分野に関連することとして知っておく必要があると考えました。

――過去に寿都町や神恵内村を訪れたことはありましたか?

ドライブが好きで道内のいろいろな場所に行きましたが、この2町村には立ち寄ったことがありませんでした。初めて訪れて印象的だったのは、海の「色」です。小樽や積丹はエメラルドグリーンに近い淡い緑色なのですが、寿都、神恵内の海は、深くて鮮やかな青色でした。

――原子炉の研究をテーマに選んだのは、もともと原子力発電に興味があったからですか?

大学で材料を研究する研究室に在籍していて、3年生になるときのゼミ選択の説明会で、先輩方から原子力発電は国の重要な研究テーマで、世界でも珍しいテーマでもあると説明をうけて、世界の発展に寄与できる大規模な研究テーマだと感じて選びました。原子力に関心を持つようになったのはそれからです。

――寿都町・神恵内村の「文献調査」への取り組みや、国の地層処分への取り組みなどについて、北海道では話題になっているのでしょうか。

テレビや新聞では、寿都町・神恵内村の動向や文献調査に関するニュースが頻繁に報道されています。その影響で、親や祖父母の世代は関心を持って見ているようです。ただし、若い世代はテレビや新聞を見ないせいか、話題自体を知らない人が多いですね。

――グループディスカッションではどのような意見を持っていましたか?

私自身は若い世代にもっと知ってもらうことが大切だという意見を持っているので、SNSを活用した情報発信を提案しました。具体的には、YouTubeショートやInstagramのリールなど、短い動画形式で情報を発信すれば、若い人たちの目にも触れる機会を作れると思います。

そこで高レベル放射性廃棄物の地層処分の話題だけでなく、原子力発電利用の意義や安全性についても、わかりやすく伝えていくことが重要だと思います。



























写真:グループディスカッションにて

――ツアー全体を通しての感想を教えてください。

印象に残っているのは、寿都町町長や神恵内村村長との対話です。地域行政の長から直接考えを聞くと、地域としての考え方や高レベル放射性廃棄物の地層処分のことをより深く理解できましたし、より身近な問題だと感じるようになりました。また、ふだんは交流する機会のない他の地域の学生たちと意見を交換ができて、お互いの考えなどを知り合えたことでも貴重な機会となりました。
 
 

「現地に足を運び、地元の人たちとの交流を通じて
新しい視点を得ることができました」

 













慶應義塾大学 3年 
福島優希さん


――当財団の「大学生スタディツアー」に参加したきっかけについて教えてください。

直接のきっかけは、母がこのスタディツアーを見つけて私に勧めてくれたことです。ホームページで内容を確認してみると、高レベル放射性廃棄物の地層処分について学ぶ貴重な機会だと知りました。大学の環境法の授業で「地層処分」という言葉を知って以来、私も関心を持っていたので、申し込みました。

――親御さんは、福島さんにとって関心のある分野だと知っていたのですか?

そうですね。私は大学で防災教育を専攻していて、夏休みには毎年、各地のフィールドワークなどに参加していることを母も知っていますので、教えてくれたのだと思います。

――北海道の寿都町と神恵内村を訪れてみて、どのような印象でしたか。

防災教育活動で普段から地学に触れているので、寿都町や神恵内村には露出した地層や岩盤が多くみられて、地球の歴史を感じられる場所だという印象が強かったです。

――原子力発電に興味を持ったきっかけや理由について教えてください。

私は茨城県で生まれ育ち、小学1年生の時、東日本大震災で被災しました。市民体育館での避難生活も経験しました。それ以来、自然災害や防災への関心を持つようになって、高校時代には福島県の被災地団体とも交流していました。

大学入学後も1、2年生の頃から広島県や沖縄県、熊本県、福島県の浜通り、大学がある神奈川県湘南地域など、さまざまな地域のスタディツアーやフィールドワークに参加するなかで、被災者の方々の声を聞く毎に関心を強めてきました。

――今回のツアーを通じて「高レベル放射性廃棄物の地層処分」について、どのように感じられましたか?

ツアーの中で、特に印象的だったのは、宿泊した民宿の女将さんとの会話でした。女将さんも含めて村や町の人たちは前向きに捉えているものの、心無い批判を受けることもあると打ち明けてくれました。


写真:民宿の女将さんと

これまで被災地の方々の声を聞くことが多かったので、国の原子力政策に対して要望を感じることが多かったのですが、文献調査を受け入れている地元の町長や村長ほか、地域の方々にはまた別の見方や考え方があることを知って、視野が広がりました。

――グループディスカッションでは、どのような意見を持っていたのでしょうか?

個人的には町長から、地元の高校生たちが高レベル放射性廃棄物の最終処分の先進国の、フィンランドやスウェーデンを視察していることをうかがったのが印象的でした。全体としては、地層処分には賛否両論あるものの、原子力発電所が存在する以上、必ずどこかで必要になるものだという意見に集約されていったと思います。合意形成は難しいかもしれませんが、ゆっくりと進めていく必要があると感じています。

――ツアー全体を通じての感想を教えてください。

被災地の方々と多く交流してきた私にとって、「未災地」の方々の前向きな考えや意見に触れたことは衝撃でしたし、今までになかった新しい視点を得る機会になりました。同時にさまざまな大学の学生たちと深夜まで熱い議論を交わしたことや、部屋にカメムシが出て大騒ぎになったことも含めて、大学3年生の夏休みで最も楽しい思い出になりました。
 

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