WEB交流会 開催レポート
『学習支援団体の活動紹介・座談会』
- 日時
- 2021年12月20日(月)18:30~20:00
- 場所
- 参加者
- 共催
- 資源エネルギー庁
原子力発電環境整備機構(NUMO)
- 開会挨拶
青田 優子 経済産業省 資源エネルギー庁 放射性廃棄物対策課 課長補佐
- 学習団体の活動報告・紹介
- 浅井 佑記範 氏 学校法人 福井学園 福井南高等高校 教諭
- 福井南高校は福井市の南に位置する定時制の私立高等学校で、自然豊かな場所に所在。
- 不登校経験者が非常に多く、一学年80名程度と少人数で、探究活動を活発に行っている。
- 活動の原点は昨年の11月に福井県鯖江市で行われた「日本一大きなやかんの話」の上映会に参加したこと。5名の生徒が参加したが、同じ高校生が映画の作成や難しい問題に取り組んでいることに衝撃を受け、自分たちも学校でこの問題に取り組みたいと教員に相談し地層処分の学習に取り組むことになった。
- 2月に教科横断型授業として、生徒・教員・外部の方を交え疑似社会を創出し、立場を超えた対話を実施。
- 新聞社が取材に来たが非常に好意的に取り上げてくれた。
- 賛成・反対ではなく合意形成をどのように進めていくかが重要で、色々な教科で地層処分を絡めた授業を展開。
- 7月の勉強会ではグラフィックファシリテーションを取り入れ、対話の内容を紙に落とし込む可視化に重点をおいて開催した。
- 10月には原文財の課題研究活動を利用し、福井県の高校生を対象にアンケートを行い、冊子にまとめた。高校生は思ったより原子力やエネルギーについて考えている。
- 来年度はこれらを土台にして対話型授業の幅を更に広げていきたいと生徒たちと画策している。
- 山野 直樹 氏 特定非営利活動法人 放射線線量解析ネットワーク(RADONet)理事長
- 将来のオピニオンリーダーとなる大学生、大学院生、また次世代層を育てる中学・高校の先生を対象とした対話活動を2016年から実施。
- 地層処分についてワークショップと見学会を組み合わせて、効果的な理解促進を図る。
- ワークショップは一ヶ月に1回の頻度で、学生には5回の継続した参加をお願いし、その間に参加者へのモチベーションの提供として2回の見学会を実施する。また、きめ細かいインタビューやアンケートを実施し、勉強会に参加したことへの満足感や充足感を得られるように配慮している。
- 「知識」だけでなく考え方を伝える、「価値」に対する質問にきちんと答える、「知る権利」だけでなく、自分で物事を決めたい「自己決定権」や自分が社会の役に立つ能力があるという「自己効力感」などに働きかけて、参加者が5回連続して参加できるようにしている。
- ワークショップの論点として、1・2回目は専門家の講演と質疑応答、3回目はNUMOからの情報提供、4回目は参加者同士の対話、5回目は情報発信としている。
- 新型コロナ禍の状況下、参加者を集めるのは苦労する。フィールドワーク活動として大学の単位認定があれば参加者を募りやすい。他団体との連携も大切。
- 六ヶ所村地域住民との対話は好評だった。学生にとって地域の生の声を聞くことは非常に大切。お互いの意見を聴き合い、伝えることが重要。意見交換の中で問題を自分ごとにしていく。
- コロナ禍でもZoomなどを利用し、継続的に活動を行うことが重要。
- 地層処分が実際に行われる際、先を見据え今から20年後に意思決定ができるような、大学生・大学院生、次世代の先生を対象として活動を行っている。
- 濱田 栄作 氏 沖縄エネルギー環境教育研究会
- 基本的に琉球大学の教員と学校現場の先生方がメンバーになっている研究会。エネルギー環境教育に関する教材開発や実践的研究を現職の先生と、将来教員を目指す学生が協働して進めている。
- 数年前から関西学院大学の野波先生が作られた「誰がなぜゲーム(ある課題に対して利害の異なる人々がそれぞれの立場で話し合い、誰が決定権を持つべきかを考える参加型討論ゲーム)」を題材に授業実践をしている。
- 開発者の野波先生の助言を得て、生徒・教員の意見を反映させた「『誰がなぜゲーム』で考える地層処分問題」ワークシート教材を開発。
- 地層処分問題について関心を持てるように親しみやすい内容、また高レベル放射性廃棄物についてあまり知らない先生でもゲームを進められるワークシートになっている。
- 学校現場は忙しいので、先生が1コマの授業でできる教材として作成した。最終的に異なる立場全員の合意形成を目指す内容。
- 他県含む学校で、利用されはじめている。ゲームを経験した生徒が新聞に合意形成の難しさなどの意見を投稿している。
- 今後の活動として、学校教員と大学生で地層処分に関する授業検討会を開催する。
- 質疑応答・意見交換
- 山野氏への質問
ワークショップ参加者へのモチベーションの提供について、人々の知る権利だけでなく自己決定権や自己効力感に働きかけるとあったが、学生が自己肯定感などの力を身につけているなと感じられるところがあれば教えてほしい。
- 参加した学生全員が満足しているとは思っていない。2年続けて参加している学生もいるが、そういう学生は理解も深まり、自分事として考えられるようになったと思う。自分が社会の役に立つと思ってくれる学生が増えることを期待している。決して自己決定権や自己効力感を無理強いするのではなく、自分の中から出てくるような働きかけが大切。
- 山野氏へ質問
受動安全の考え方について、もう少し詳しい説明を聞きたい。
若い世代(ジェネレーションZ)は必ずしも自分自身の責任とは考えないとあったが、世代を問わず地層処分について学んでいない人は自分の責任とは思っていない。
一方、中学サミットに参加した中学生など真剣に活動に取り組んでいる若い世代もいる。なぜ山野氏は若い世代は必ずしも自分自身の責任とは考えないとしているのか。
- 受動安全とは工学の専門用語で、この場合深い地層の中で自然の閉じ込め機能に委ね、特に能動的に何か働きかけて安全性を守るというよりは、地層の中の自然の力を上手く利用するという意味で『受動安全』という言葉を使っている。六ヶ所村の見学の際、読書愛好会との意見交換会を行ったが、大学院の学生から『廃棄物を出す原子力を始めたのは自分たちの世代ではない』との話があった。これは本音だと思う。ジェネレーションZは18~25歳くらいの世代。全員がそうではないと思うが、地層処分の問題を何とかしないといけないという気持ちが若い人には通じないこともある。逆に問題を押し付けられるのではと警戒されることもあるので注意が必要だと思う。
- 濱田氏へ質問
今、学生と繋いでくれる学校の先生方を探している。学生を連れていくことは自分にとっては非常にハードルが高いが、どのような点に留意しているのか。
色々な先生に話を聞くと、一コマなら取れるが二コマを取るのは難しいと言われるため、誰がなぜゲームを改良して一コマでできるようにしたということが興味深い。自分が学校で活動できるようになった際に教材として利用できるか伺いたい。
- 教材はワークシートがあるので、希望があればお送りする。もし、授業をする人材が必要であれば自分が対応する。学校の先生と生徒が一緒に学ぶということが非常に大きいと思う。先生が勤務時間外も学んでいる姿を学生たちに見せることで、教員になっても学び続ける必要があることを理解してもらえる。4~5年ほど前、六ヶ所村で読書愛好会と交流したが、学生たちは高齢の方たちが学び続けていることにショックを受けていた。年齢関係なく学び続けている人がいることを知る場を共有することで学生の気持ちは一気に高まる。大学教員が一般の方々と活動できることは本当にいい機会であるため、声掛けしてもらいオンラインなども活用し学生と参加したい。
- 濱田氏へ質問
誰がなぜゲームの中身が知りたい。50分で地層処分を知らない人が話を聞いて合意形成までいけるのか。
- 実は50分では終わらない。導入部分は事前学習として宿題にしている。地層処分の問題があることと、世の中には色々な意見があり合意形成が難しいことに気付いてもらうだけでもいい。授業の終わりに、住民に決定権を持たせると、拒否の連鎖になることを話すと、子供たちは順位を悩みだす。寿都町や神恵内村のニュースを見た時に、子供たちは『自分が学んでいること』として意識している。子供たちの心の中にトゲになって引っかかってくれるだけでもいいと思っている。
- 福井南高校の生徒質問
誰がなぜゲームに参加し、どのようなところが大切で地層処分や原子力発電の勉強をしたいと思ったのか教えてもらいたい。
- 自分が「誰がなぜゲーム」をやった時は住民の立場で、住民に決定権があるべきだと思ったが、政府チームや専門家チームの人たちと話すと決まらなくなり、合意形成はとても難しかった。最終的に専門家が決定権を持つことで終わったが、自分の中でもやもやした気持ちが残った。そういうことが『どうすればいいんだろう』という学びに繋がったと思う。
- 浅井氏へ質問
学生がまとめた結果は地域の大人が思っていることと一緒なのではと直感的に思ったがどうか。
- 大人のアンケート結果を見ていないが、恐らく違うのではないかと思う。大人は学び続けている人とそうでない人がいるが、そういう意味では学生はずっと学び続けているので、大人よりも冷静に物事を捉えている気がする。高校生は原子力(発電)を否定的に見ている意見が少なかった。
- 学生が学び続けている大人の姿を見て刺激を受けているという話があったが、自分が活動に参加した切っ掛けは生徒が参加したからで、学生、若い世代から刺激を受けて大人が参加することもある。ぜひ双方向から、大人から若者から広がっていくことを期待したい。
- 開会挨拶
高橋 徹治 原子力発電環境整備機構(NUMO)地域交流部長
- アンケートより
- 参考になったこと
- 濱田先生の誰がなぜゲームで地層問題に関心をもっていただくきっかけ作りとなっている点。
- 高校生の生の反応、教師の卵(教員養成系の学生)の生の反応について、講師を通して聞けたことが有意義だった。
- 児童・生徒さんへの学習会のみならず、教員向けの指導のため皆さんが工夫されていると知った。
- 山野さんの「あと20 年たってどこを処分地に選定するかという所まで来たとき、決めるのは私たちではなく大学生などの若い人たち」とおっしゃっていたのが、とても印象的だった。
- 「自分事」にするには、出来るだけ関係する現場を訪ねることが大事であると、改めて思います。
- 若い方や学生が地層処分を理解し、発信することが国民全体の地層処分の関心への動議づけになるのではないか。
- 「誰がなぜゲーム」に興味を持ちました。
- 印象に残ったこと
- 福井南高校さんは、生徒の学びたい意欲と先生方の教育体制が相乗効果的に発展しており、素晴らしいと感じました。学校内だけでなく、教育関係者や京都教育大学付属高校等との連携に、広がりを感じました。実は、福井南高校は県立と思っていました。定時制の私立高校と知り、県立高校よりも私学の方が、フレキシブルに学びを展開しやすいと感じました。
- RADONet さんは、年に5 回のワークショップや見学会等を積み重ねていらっしゃいます。知識の習得だけでなく、自分で考え、方向性を決めていこうとする意志を持つ若者世代の育成に取り組まれていると感じました。
- 沖縄エネルギー環境教育研究会さんが、環境教育の中でも、特に地層処分事業に重きを置いて、学習指導を深めていらっしゃるのはなぜか、そのきっかけを知りたいと思いました。教材開発や授業検討会を持たれる予定とのこと。教諭を目指されている学生さんたちの生の声を、いつか別の機会に聞きたいと思いました。
- 山野先生の御発表の中で、将来のオピニオンリーダーをなる次世代層を育てる取り組みは、現在本校でも取り組んでいるところではあるが、継続して学習に取り組めるような指導がまだまだできていないので、大変興味深く拝見した。
- 参加者の熱い思いが伝わってきました。より深く学び続けるとともに、「自分事」にする仲間を増やしていきたいと思います。
- 『合意形成なんて、そんなにできるもんじゃない。トゲのようなものが残って、それが長い目で見るとプラスになる』という発言にまつわる一連のことが印象深かった。