WEB交流会 開催レポート
- 実施日
- 場所
- 参加者
- 共催
- 資源エネルギー庁
原子力発電環境整備機構(NUMO)
- 開会挨拶
青田 優子 経済産業省資源エネルギー庁 放射性廃棄物対策課 課長補佐
高橋 徹治 原子力発電環境整備機構 地域交流部長
- 情報提供
- 演題:スウェーデンでの放射性廃棄物最終処分場のサイト選定の経緯
- 講師:竜啓介 SKB International AB 日本事務所
- 内容:
- スウェーデンでは1979年アメリカのスリーマイルアイランド(TMI)事故を受け、2010年までにスウェーデン国内の12基全て(1基は建設中)の原子力発電を廃止しようと、1980年に国民投票がおこなわれ97%が原子炉廃止に賛成した。投票率は75.6%非常に高く、半数は女性票であった。
この決定を受け廃炉には、安全に放射性廃棄物を処分しなければならないという考えが生まれ、この国民投票が最終処分を考える契機となったといえる。
サイト選定から処分場の操業までの流れは、地層分布概要調査、地域調査(科学的特性マップにあたる)、フィージビリティ調査、サイト調査、処分場の建設、試運転である。
1970年~80年代には、SKB(スウェーデンにおける最終処分実施主体)がボーリング調査を近隣の住民に知らせず実施し、警察が出動するほどの大規模な抗議運動が起こった。このことから地域と事前連携をとることがいかに必要か学んだ。
1990年代に全国の自治体へフィージビリティ調査について公募を行い8自治体が応募、うち6自治体へSKBから申し入れをした。そこから3つのサイトで地下調査を行い最終的にエストハンマルが選定された。
SKBは地域との対話を継続、重要視している。TMIの事故もあり候補地の住民は事故の心配をしていたが、放射線安全機関(SSM)がSKBの対話に同席し根気強く技術的な説明を行ってきた。
スウェーデンでは環境法典というものに基づき最終処分の許可申請書が提出された。つい最近(10月)エストハンマル市議会で受入れが決議され、あとは政府の判断待ちとなっている。
- 演題:エストハンマル市最終処分場受け入れ決議に関して - 地層処分をとりまくトピック
- 講師:フリデーン京子 通訳・ストックホルム市公認通訳案内士
- 内容:
- エストハンマル市議会では、2020年10月13日最終処分場受入れについて賛成38、反対7で議決された。
スウェーデンの市議会はこのときもそうだが夜に実施される。専任の議員はおらず、市政に本当に関心ある方が報酬は度外視で市議を務めている。翌日、市の記者会見が行われ、市から国へ決断を迫るように求めた。記者会見の参加者がデニムを履いているが、これがスウェーデンの文化で体裁を気にしない。
地元メディア3社の報道は似たような論調で、全国的なニュースとしてではなく、地元地域のニュースとして捉えられている。国営放送では、取材を受けた高校生は「町の人が反対していないのになぜ反対なのか」と回答。
今回住民投票をしなかった理由は、議会制度での多数決が尊重されていることによる。選定が始まってから、議論が20数年行われたため情報の透明性が高く住民の理解が深い、また議員も長期にわたりしっかりと勉強しており、それを選んだのは住民、つまり議員の決定は尊重できるという考えである。
原子力が嫌いな人への説明は、原子力発電と最終処分問題は別個のものとして捉えることを重要視している。原子力発電には反対だが最終処分には賛成という意見もある。
スウェーデンでは脱原子力政策により原子力人材の流出もあったが、現在は技術者・専門家もそろっており、最終処分をするなら「今」である。
SKBから依頼を受けた調査会社が2020年にエストハンマル市で処分受入について賛否を電話調査したところ85%が賛成であった。
文化という目に見えないものを数値化したデータ(Hofstedaモデル)を使って、日本とスウェーデンを比較すると、「ヒエラルキーを日本は気にする」「個人主義を重視するのがスウェーデン」「日本は100%の力を準備にかけるため決定までが長い」「スウェーデンは2~3割の準備で走り出す、問題にぶつかれば変更(実験国家)を繰り返す」 といった傾向が見られる。
- テーマ:スウェーデンの気質について
- 講師:竜、フリデーン 前掲
- 内容:
- 個人主義・相互尊重・男女平等がスウェーデン人の主な気質である。個人主義は利己主義と違い、個人の権利と自由を尊重する立場であるので、他人の考えも良く聞く相互尊重の考えが根付く。サイトの受入れは一方的に否定をするのではなく、該当自治体の判断を応援しようという相互尊重の考えがある。
個人主義は学校教育でもされており、日本の全体主義のような全員に回答求めることはない。この考えは社会でも共通。学校ではグループ学習が盛んで、小さいグループで意見を促し、フォローしている。スウェーデンでは課題に対して同じ答えを求めないので、起承転結の結がないような感じで日本人から見ると消化不良にみえるかもしれないが、それぞれの考えがあっていいのではないか。教師も考えることを促す役目が多く、ファシリテーターのような役割を担っている。
このような気質が意思決定のファクターとなっている。必ず時間がかかっても話し合いで意思決定を行うのがスウェーデン人である。個人主義でありながら相互尊重の考えもあることから、会社の目標も管理職関係なくフラットに共有している。
行政への信頼も公募から20数年、SSMがSKBと対話の場に同席し対話を続けてきたこともあり信頼性が高い。すべての情報を開示しているため、データの透明性が高いことも要因の一つだろう。
- 質疑応答
- スウェーデンで科学技術の専門家は信頼をされているのか?
- 日本の原子力規制委員会に値するものが、スウェーデンでは環境省の直下に組織され放射線安全機関のSSMである。原子力発電、地層処分等々への判断ができる唯一の専門家集団。1993年からSKBと並んで最終処分の実施を行う使命を全うしており、行政機関としての信頼性はとても高い。
情報開示が徹底しているので税務署を含め行政への信頼が高い。コロナウイルス拡散防止への政府の対応も、罰則のない勧告にすぎないためスウェーデンの対策は緩いと思われるのかもしれないが、国民の公衆衛生庁への信頼は高い。
- エストハンマル市が2020年10月に最終処分場を受け入れた際に地元メディアでは取り上げられたが、全国的な反応が薄かったのはなぜか?国民全体で関心を持つべきだと思っていたが、スウェーデンでは異なる。それでも国民全体で(最終処分への)賛成意見が高いのはなぜか?
- 1980年代にSKBが発足したころ、地層処分事業は知られていなかった。日本でいう科学的特性マップを打ち出し、すべての自治体に公募を出した際はTMI事故直後であったため全国的に注目されていた。8自治体から応募があり、SKBが6自治体へ申し入れ、サイト調査の2か所エストハンマル、オスカーシャムへと絞られていった20数年の間に、全国から地方の話題に移っていった。この際にずっとSSM、SKBの対話活動が継続されたことのほか、個人主義の考え(該当自治体の最終処分地の決定は大いに結構である)も影響している。
- エストハンマルでは原子力の教育がしっかりとされてきたと思うが、日本で同様なことをすると知識の操作、と政府に言われそうだが。
- 社会科学の一環としてエストハンマル、オスカーシャムが特に熱心に原子力を含めたエネルギー教育に取組んでいる。首都圏のストックホルムではすべてをやっているわけではないが、スウェーデン全体では環境教育への関心は非常に高い。
中央政府から自治体に何か言うことはない。スウェーデンの行政は中央政府の直下に自治体がある。政策についての意思決定は自治体の裁量に任されている。最終処分に関しては、中央政府は最終処分事業を実施する、あとはSKBが進めるというスタンスであり、特に自治体に「ああせいこうせい」というものはない。
- SSMが対話を通じて理解を進めてきたとあったが日本の規制委はそれをすると思わない。発電には反対だが処分には賛成という意見には非常に関心がある、日本との違いはどのような点か?
- 説得する立場にあるSKB(質問への回答書など)と違い、SSMは安全性についても質問について技術的に淡々と回答をしてきた。素人にとっては10数万年の長期安全性など多くの不安がある中で、SSMが第3者的な立場で回答を行った。
原子力には反対だが地層処分については賛成ということについては、発電と最終処分は根底から異なるものという認識がスウェーデン人はしっかりと理解している。廃棄物は次世代に託さず現世代で処分しようという考えが根付いている。
- 昨年度エストハンマル市を訪問した際、ヤコブ市長がすごく悩んでいたことが印象的であった。その際は今年1月に住民投票で決定の流れと聞いていたが、決議までなかなか時間がかかった。今後はどのような見通しか?
- 環境省が、いまひとつ賛成していない。環境大臣も書面で熟慮するコメントを残すのみであるのが懸念点。
スウェーデンは連合政権、連合を組んでいる「みどりの党」が環境省の大臣を担っている。歴史的には原子力マターについては反対の姿勢。SKBからすると必要なことはすべてやってきており、自治体からも賛成の声が出ているため、環境省が渋っているのか?いつ許可がでるのかはまだわからない状態。
- アンケートより
- 参考になったこと
- 国民の生活意識の違いが政治にも現れ、どうすれば地球を汚さず且つ平和が保てるか、個人の自由な発言を多数決でまとめるルールが基本にあるスウェーデンはよく分かりました。日本も座り込みスピーカーでの大騒ぎ早く冷静な議論出来る国になって欲しいものです。
- 海外視察の際、フィンランドでは自治体議員が無報酬というお話は聞いたが、今日はスウェーデンでもほぼそうであることがわかった。まちの意志決定の場に携わりたいという想いの市民が議会を構成していることに感銘を受けた。
- スウェ-デンでも最終処分地の選定はとても困難なことで、長い年月を費やしてきたということが理解できました。そして地域住民と地道な対話を継続してきたことが、とても重要なことであったと思いました。
- 日本とスウェーデンの考え方の違い、国民性の違いというのが興味深かった。また国家への信頼、SKBへの信頼が大きいことから、最終処分場を決めるうえで信頼というのはとても重要なのだと感じた。
- スウェーデンの地層処分の経緯について分かりやすく説明いただき、また日本との違いについて民族性や歴史的な違いから考えることができてとても興味深いと思った。全てを真似するのではなく、日本でも各国の取組みを参考にして取り入れられるものをよく吟味して活動が行われるとよいと考えた。
- 印象に残ったこと
- スウェーデンと日本、そして六ヶ所村にいて気質の違いこそ感じるが、方向性は同じであると思う。
- スウェーデン国民の気質と日本人の違いについて、行政(専門家)への信頼が高い、情報提供=中央政府は大きな方向性を示すが各自治体が決めるということ。
- スウェーデンが最近ようやく最終処分地の受け入れを当該議会が決議したこと、国が最終処分地の決定の段階に入ったことが分かりました。またこの一連の流れにおいて、国民性を十分に理解して、この問題に取り組むことが重要であることも分かりました。
- 日本では原子力も地層処分もすべて「核」のイメージが強く、切り離して考えられる人が少ないと思うが、スウェーデンでは原子力発電と最終処分の問題は別の問題として考えているところが印象に残った。
- スウェーデンでは一度大規模な反対運動が起こった後に、全国的な公募を行った後は手が上がった自治体に絞り数十年の長期間にわたって議論や説明を続けてきたことで理解を得られたことが印象的だった。スウェーデンでは個人主義の民族性によって受け入れ自治体に横槍を入れるようなことはなかったとのことだが、日本ではそうは行かないと思うので全国的に議論を続けることが重要なのではないかと思った。