月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2023年3月号 うりずんインタビュー(抜粋)

イリオモテヤマネコの敵は何か
― 世界自然遺産で環境を考える ―

日本で一番早く春を迎える沖縄は、この過ごしやすい季節を〝うりずん〟と呼びます。
沖縄県の西表島は、国際的に希少な固有種に代表される「生物多様性上重要な地域」であることが認められ、二〇二一年七月に奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに、世界自然遺産に登録されて注目を浴びています。
行動制限のない、うりずんの春休みに、この島を例に取り、自然と人間との関係を考えてみましょう。

哺乳動物生態学者
安間 繁樹  氏 (やすま・しげき)

 

中国・内モンゴル自治区生まれ。早稲田大学法学部、教育学部理学科を卒業。東京大学大学院農学系研究科に進み、哺乳動物生態学を専攻。大学院在籍時よりイリオモテヤマネコの研究調査をはじめ西表島に移住。世界ではじめてイリオモテヤマネコの動画撮影に成功。論文「イリオモテヤマネコの採食行動と食性」により博士号取得。1985年より国際協力機構(JICA)の専門家としてボルネオ島に赴任。16年間にわたり、動物調査及び若手研究者の育成に携わる。市川市民文化ユネスコ賞受賞(2004年)、日本山岳会秩父宮記念山岳賞受賞(2019年)。著書に「西表島探検」など多数ある。

―― 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は、日本で一番新しく認められた世界自然遺産ですね。

 奄美大島、徳之島、沖縄島の山原、それと西表島の四か所です。基本的に亜熱帯の自然が残っているのはそこしかないのです。
 南西諸島全体から見たら、沖縄島の山原も、奄美大島も徳之島も非常に狭い面積です。世界遺産地域と緩衝地帯を含め、四つの中で最大の面積を持つのが西表島です。

 

―― 特別天然記念物のイリオモテヤマネコは、今何匹くらいいるのですか。

 環境省が出している数は一〇〇頭前後です。発見された一九六五年からこの数はほとんど変わっていないと思います。哺乳類の世界では一〇〇頭を下ることはイコール絶滅と考えられています。
 でも西表島の面積から考えると、一五〇頭が最大棲息数です。ですから多少前後するにしても、数万年前から一五〇頭以上にならなかったということです。それでも絶滅しなかったのは、例えば「動物は一〇〇頭を下ると不妊個体がたくさん出てくる」と言った話がありますが、イリオモテヤマネコの場合、そういう遺伝子が、いい形ではじき出されたのではないでしょうか。少ない数でも今の環境がちゃんとしていれば自力で長く生きることができる。そう考えています。

 

―― では、保護する必要もないですか。

大事なのは環境の問題です。また野良ネコを、駆除しなければいけないでしょう。竹富町の努力などもあり、以前と比べて野良ネコはだいぶ減っています。
 西表にはカンムリワシやセマルハコガメもいます。ヘビやカエルの仲間でも貴重種がたくさんいます。昆虫類もそうです。環境さえ今以上に悪化しなければ、全部自立して生きていけるものばかりです。ただ、外来の動物が入って来ているから、そういうものは考えていかないと。
 西表では一九六〇年代にイタチを入れましたが、定着しませんでした。イタチでネズミを駆除しようとしたのです。
 当時はあちこちの島にイタチを放しました。奄美大島も沖縄島でも、一九六〇年代に積極的に入れました。まだ復帰の前です。当時は畑を荒らすネズミを、天敵を使って駆除するのが一般的な考え方でした。

 

―― 今、マングースを駆除しています。

 沖縄へは大正時代、マングースが導入されました。ハブの駆除が目的です。当時の著名な動物学者の考えでした。
 当時の動物・植物の学会誌には「天然の敵を使って毒蛇を退治する、マングース万歳! 渡瀬庄三郎先生、万歳」と書かれています。
 ところが今、マングースはヤンバルクイナ、ケナガネズミ、トゲネズミ、多くのヘビやカエルなど、貴重な固有種の生存を脅かしています。外来のものを人間の都合で入れるべきではないのです。調査が進んでいなかった当時は、未発見の生き物がたくさんあることも考慮されなかったのだろうと思います。
 奄美大島にマングースを入れたのは、ハブとマングースの対決ショーのためです。一九八〇年頃まで、名瀬市(現・奄美市)の市街地からほど近い所に、そういう観光施設がありました。人間になつかなかったり、臆病なマングースが捨てられました。それが野生化したのです。やはり、人間に問題があります。ただし、環境省などの捕獲事業が功を奏し、ごく最近、マングースの絶滅宣言が出ました。今なお問題なのは野良ネコの存在です。

 

(一部 抜粋)





2023年3月号 目次

風のように鳥のように(第159回)
昭和の私とデジタル用語/岸本葉子(エッセイスト)

うりずんインタビュー
イリオモテヤマネコの敵は何か/安間繁樹〈哺乳動物生態学者〉

追跡原子力
いま処理水の海洋放出は

中東万華鏡(第84回)
沙漠の雨/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第123回)
ともかくドラマはまだつづいてます/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第57回)
EUは神聖ローマ帝国と同じ末路を辿るのか/川口マーン惠美(作家)

ベクレルの抽斗(第6回)
本当のリスクのイメージ/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)

交差点




 

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