原子力文化2023年1月号 新春インタビュー(抜粋)
エネルギーと難民に揺れるドイツ
― 天然ガスなしではドイツの産業は成り立たない ―
寒い国ドイツでは、冬季の暖房をどう確保するかが、大きな問題のようです。
昨年二月のロシアのウクライナ侵攻は、天然ガスの六割弱をロシアからの輸入に頼っていたドイツのエネルギー事情を、一変させました。
暖房ばかりでなく産業を支えていたガスの代替をどうするのか。原子力や石炭の復活は。
新年号は、ドイツ滞在が四〇年を超える作家の川口マーン惠美さんに、お話を伺いました。
川口マーン惠美 氏 (かわぐち・マーン・えみ)
日本大学芸術学部卒業後、渡独。シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。『住んでみたドイツ8 勝2 敗 で日本の勝ち』(講談社+α新書)、『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『メルケル仮面の裏側』(PHP新書)、『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』(ワック)、最新著書は『ドイツ見習え論が日本を滅ぼす』(共著 豊田有恒、ビジネス社)など著書多数。最新著書は『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何がおこっているか』(ビジネス社)
―― 今、ドイツのお住まいはライプチヒでしたね。寒いところでしょうか。
ええ、寒いですね。でもドイツは南部がアルプスに近いので標高が高く、雪も降りますから、さらに厳しい寒さです。ミュンヘンの方が、ライプチヒより平均気温は低いでしょう。 また東西を比べれば、東部が寒い。西部、特にライン川の周辺はやや温暖で、一方、北部は風は冷たいけれど、雪はほとんど降りません。平野がずーっと続く感じです。
―― 風力発電があるのは北部ですか。
風力発電は北部です。年間を通して安定した風が吹きますから、風力発電に非常に適しています。ドイツ全土ですでに風車は三万基も立っていますが、主流はやはり北部です。
また、これまで風力発電に積極的でなかった州もあり、その筆頭がバイエルン州です。ミュンヘンが州都ですが、この州は産業が非常に盛んで、ドイツの中では稼ぎ頭です。
しかも、経済的に豊かなだけでなく、風光明媚で、伝統を重んじる保守的な州でもある。つまり州としては、景観を崩す醜い風車などあまり作りたくなく、いろいろな条例を作って建設を制限していました。
例えば、住宅と風車の距離は、風車の高さの一〇倍必要だとか。風車は年々巨大になりますから、この条例では立てられる場所が減るだけでなく、リプレース(建替)ができなくなったりもする。ただ、電気不足が問題になった今になって、この政策が非難され、電力の確保のため、規制緩和に追い込まれています。
いずれにせよ、すでに三万基もある風車を、これからもっと増やすと言っているのが、今のドイツ政府です。
―― 今、ドイツのロシアからの天然ガスの輸入問題がよく話題になります。冬の暖房はガスと考えてよろしいですか。
ドイツの多くの地方自治体は、シュタットヴェルケと呼ばれる独自の発電施設を持っており、発電時の熱を利用し、地域一帯に温水と暖房も一括供給しています。高温の水、あるいは蒸気を、町中に巡らせた管で各地区のステーションに運び、そこで適温に変えたあと、各家庭がそれを温水や暖房に利用するわけです。このやり方は経済的で、環境にも良いと言われています。
そのシュタットヴェルケが発電に利用しているのが主にガスで、それを利用している世帯が四〇〇〇万件。ドイツには八〇〇〇万の世帯があるといいますから、その半数が、暖房と温水をガスに頼っているわけです。寒い国ですから、そのガスが切れると命に関わります。
ただ、二〇二二年の秋はものすごく暖かかった。一〇月の気温は、気象観測が始まって約一四〇年以来で最高だったそうで、二〇度を超えている日が何日もありました。あり得ないことです。一一月も零下の日が少なかったし、そういえば二〇二一年も暖冬でした。しかし、今年がどうなるかは、まだわかりません。
ただ、いずれにしてもガスの供給は厳しい状態ですから、政府は九月ごろより、暖房や温水の節約を呼びかけていました。国民としては、値段が上がっていますから、そんなことなど言われなくても節約しています。結局、暖冬と節約のおかげもあって、現在、ガスの備蓄の減り方は思ったよりもかなり緩やかで、それはそれで助かっていると思います。
(一部 抜粋)
2023年1月号 目次
風のように鳥のように(第157回)
無駄なく使う/岸本葉子(エッセイスト)
新春インタビュー
エネルギーと難民に揺れるドイツ/川口マーン惠美〈作家〉
世界を見渡せば(第25回)
“No surprise”をどう訳す?/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)
特別インタビュー
水素の力でカーボンニュートラルへ
中東万華鏡(第82回)
風の名前/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第121回)
ウサギのように跳ねて運をつかみましょう/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第55回)
今年の抱負は?/川口マーン惠美(作家)
ベクレルの抽斗(第4回)
目指すべきゴールを夢想する力/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)
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