月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2022年11月号 インタビュー(抜粋)

これからの原子力開発は
― 再稼働や運転期間の延長、そして次世代革新炉の開発・建設 ―

グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議というのがあります。 この会議は「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわちGXを実行する」ために開催するとのこと。 岸田首相は八月二四日の第二回GX実行会議で、いまある原子力発電の最大利用、次世代革新炉の開発・建設の検討などを表明しました。 今月号は、山口彰さんに、その解説をお願いしました。

東京大学名誉教授

 

(公財)原子力安全研究協会理事
山口 彰  氏 (やまぐち・あきら)

1957年島根県生まれ。工学博士。専門は、原子炉工学、リスク評価など。東京大学工学部原子力工学科卒業、同大学大学院工学研究科博士課程修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)にて高速炉研究に従事。大阪大学大学院教授、東京大学大学院教授を経て2022年から(公財)原子力安全研究協会。国のエネルギー・原子力関係の委員を多く務めている。

  

―― GX実行会議では原子力発電の運転期間の延長や、新増設や建て替え(リプレース)を検討する、次世代革新炉の開発・建設を検討するという声明がありました。

これまでの基本的な方針としては、「原子力発電の必要な規模を見極めつつ依存度を減らしていく。一方で原子力発電を持続的に活用していく。なぜならばベースロード電源であり、技術的に確立した脱炭素電源である。しかし、新増設、リプレースは考えていない」と、このように言われていました。 結局、原子力の必要性や持続的な活用は認めつつも、時間のスケールをどれくらい考えるのか、適切な規模をどう判断するのかなど、政策が見極め切れていませんでした。 そのため、事業者から見れば事業の予見性がない。人材育成の観点から言えば、将来どうなるのかわからない技術には若い人はなかなか入ってこない、といった問題が出ていました。 それに対して、今回、首相がおっしゃった四つのポイントは、次のようなものです。 一つ目は再稼働に向けた総力の結集。 二つ目が運転期間の延長、さらに運転期間の延長も含めた既設の原子力発電所の最大限活用です。 三つ目が新たな安全メカニズムを導入した次世代革新炉の開発・建設。 四つ目に再処理や廃炉、それから最終処分のプロセスを加速化する、という言い方をされています。 最初の二つは、時間軸としては比較的短期的な物事で言っています。 一つ目の再稼働に向けた総力の結集という意味合いは、「原子力の関係者がしっかり再稼働に向かって取り組みなさい」と。 それは総理のお言葉なので、当然行政機関の一つである規制当局に対する示唆でもあります。 それから二つ目の運転期間の延長についてですが、要は、運転期間の延長に加えて設備利用率を上げることを示唆していると思います。 実は、世界的には二〇〇〇年から二〇年間、世界の原子力発電所の設備利用率の平均は、八〇%を水準としています。

 

―― 世界の原子力発電の利用率は、そんなに高いのですか。

そうなのです。日本が引き下げています。アメリカだけで見れば、九〇%以上の水準です。それから一八か月、二四か月続けて運転をしているところは数多くあります。 そういう面から見ると、日本は今の原子力発電所を再稼働しただけでは、有効に使っているとは言えない状況です。

 

(一部 抜粋)





2022年11月号 目次

 

風のように鳥のように(第155回)
三つの言葉/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
これからの原子力開発は/山口彰〈東京大学名誉教授〉

世界を見渡せば(第23回)
効果的な利他主義/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡放射線(1)
早稲田大学の学生が原子力発電所を視察

追跡放射線(2)
原子力の可能性を広げる革新炉

中東万華鏡(第80回)
時を測る(2)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第119回)
みんなで空に舞いあがりましょうや/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第53回)
エネルギー政策が完全に破綻?/川口マーン惠美(作家)

ベクレルの抽斗(第2回)
六〇年の歴史/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)

交差点




 

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