月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2015年11月号 インタビュー(抜粋)

日本経済から見るエネルギー問題の行方
― エネルギー問題こそ徹底したコミュニケーションを ―

7月の長期エネルギー需給見通し決定、8月と10月に川内原子力発電所1・2号機の再稼働……。夏から秋にかけて、日本のエネルギー問題に関わる大きな動きがありました。
私たちは、今後エネルギー問題をどのように考えていけば良いのでしょうか。
日本経済というマクロの観点から見たエネルギー問題の現状、展望について岸博幸さんにお話を伺いました。

慶應義塾大学大学院教授
岸 博幸  氏 (きし・ひろゆき)

1962年 東京都生まれ。一橋大学経済学部を卒業後、通商産業省(経済産業省)入省。米コロンビア大学経営大学院に留学後、通商政策局、工業技術院、朝鮮半島エネルギー開発機構、資源エネルギー庁国際資源課などを経て、小泉内閣時に竹中平蔵大臣の補佐官や政務担当秘書官を務めるが、06 年竹中氏の議員辞職とともに退官。現在は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授として、またテレビコメンテーターとしても活躍している。

―― 8月と10月に九州電力・川内原子力発電所が再稼働しました。再稼働による経済、特に暮らしへの影響は。

川内が動いたことによって、すぐに大きなプラス、マイナスが出るということはありません。
重要なのは他の原発が今後連続して再稼働できるかどうかです。再稼働がきちんと進めば、電気料金が将来的には今の水準から下がっていくことが期待できますから、それが目に見える一番の大きなメリットとなります。
震災があってから4年間で、家庭だけでなく、企業の電気料金がかなり上がりました。エネルギーコストが高過ぎると、経済成長や国民生活の維持といったマクロの観点から見ると、かなり無理をせざるを得ません。
電気料金がこれだけ上がれば、当然企業の収益を圧迫しますし、家庭向けの電気料金が上がると、賃金が上がらない中では家計はより節約傾向になってしまいます。
日本の将来を考えると、経済成長をしっかりさせなければ、当然国民の生活水準も上がらないし、財政再建も無理です。
そのようなマクロの経済全体の観点から考えると、やはり原発の再稼働は不可欠です。逆に言えば、川内の再稼働も遅過ぎたのではないかと僕は思います。それでも、ようやく動いたことは、今後連続して他の原子炉の再稼働が始まることを期待する点において、川内の再稼働は非常に意味がある、と思います。

―― 「原子力発電所が止まっていても、結局電力不足にならなかったではないか」という意見もあります。

必ずそういう意見がありますが、考えなければいけないことがいくつかあります。
この夏にしても原発なしで大規模な停電はありませんでした。「だから大丈夫だ」と言いますが、それは電力会社がかなり無理をした結果であることを認識しないとだめですね。
つまり、稼働して40年以上経って、本来引退してもおかしくないような火力発電を無理に動かして発電して、何とか電力を融通して、ぎりぎりの状況で間に合わせているのです。
稼働して40年以上の火力発電を見学に行ったことがあるのですが、中央制御室等は、今の時代からは考えられないようなアナログな機器で制御しているのです。それを電力会社の方が本当に大変な思いをしてメンテナンスをして動かして、何とかもたせているのです。
このように、かなり無理を重ねて、結果的に停電が起きなかったのです。それを今後ずっと繰り返して、本当に事故が起きないのかというと、残念ながらそのリスクはゼロにはできません。
電力は経済社会のインフラであり、水道などと同じで一瞬でも途切れてはだめなのです。ですから、無理して何とか運良く停電がなかったからといって、これからもずっと「それでいいよね」という考え方は、政策的観点からも、インフラを担う電力会社の観点からも取り得ないのではないかと思います。
2番目によく言われることが「電気料金もあまり上がらなかったじゃないか」ということです。これも昨年の中盤くらいからの原油安の結果にすぎない。
でも、原油安が未来永劫続くのかというと、いくらシェールオイルの生産が増えたりしても、原油は戦略物資ですから、アメリカも含め、中東がいつまでも良心的にどんどん輸出し続ける保証はありません。
さらにいえば、原油は金融市場では先物取引などの対象となっています。ファンドなど金融関係の思惑で原油の価格が大幅に変動することも十分にあり得るのです。
そのようなことを考えると、今の原油安の状況は運良くそうなっているだけとも考えられ、それが今後続くかどうかは誰も保証できない。
ですから、「この夏、原発なしで大丈夫だったから、今後も原発は要らない」という博打に近いスタンスは、政策的にも電力会社の観点からも取り得ません。何かあったら、結局しわ寄せは国民にいくことを忘れてはいけません。

―― 老朽化火力を使って、かなり無理をして電力を間に合わせている現実が、なかなか国民には伝わっていないように思います。

そういう現実の姿はなかなか広まっていません。そこは政府の側も反省をしないといけないのではないか、という気はしています。

(一部 抜粋)




2015年11月号 目次

 

風のように鳥のように(第71回)
体の使い方を見直す/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
日本経済から見るエネルギー問題の行方/岸博幸(慶應義塾大学大学院教授)

緊急インタビュー
ノーベル賞が貧困由来の盲目症を救う/藤田絋一郎(東京医科歯科大学名誉教授)

追跡原子力
東京電力・福島第一原子力発電所のサブドレン計画の現状について

まいどわかりづらいお噺ですが
全国で進められる原子力防災のポイントと課題を追って

いま伝えておきたいこと(第47回)
太古の息吹/高嶋哲夫(作家)

おもろいでっせ!モノづくり(第35回)
米沢興譲館高校へ行ってきました/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第37回)
寺田寅彦随想 その8/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第16回)
たかがネズミ、されどネズミ/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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