月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2022年7月号 インタビュー(抜粋)

戦争をさせないために能動抑止力を上げる
― 攻撃して来る側との防衛力の格差を広げないことが必要 ―

膠着状態が続くロシアのウクライナ侵攻。翻って日本の防衛はどうあるべきでしょうか。 今月は東日本大震災に際して、陸上幕僚長として対応した火箱芳文さんにお話を伺いました。

第三二代陸上幕僚長
火箱 芳文  氏 (ひばこ・よしふみ)

1951年福岡県生まれ。国家基本問題研究所理事、偕行社理事。74年防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。第1空挺団長、第10師団長、中部方面総監などを経て、2009年第32代陸上幕僚長に就任、11年に退官。全日本柔道連盟特別顧問なども務めている。著書に「即動必遂」(マネジメント社)、「神は賽子を振らない」(アルゴノート社)がある。

―― ロシアのウクライナ侵攻を見ると、攻撃目標となった原子力発電所の安全性はもとより、ヨーロッパはロシアから買っていたガスを禁輸するなど、戦争はエネルギーの安全保障に関わっています。

国の安全保障は資源エネルギー、経済、食糧などが全部結びついているのです。結局、今ハイブリッド戦というのはそういうことなのでしょう。サイバー戦や情報戦などが関わってきて、最終的には実際の火力を伴う戦争となります。
ウクライナは一九九一年、露英米との間のブダペスト覚書により政治的独立、武力行使に対する保証を約束され、軽武装国家としてソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)から分離独立しました。
当初は軍事的に中立を保持していたものの、その後は親ロシア派と親欧米派が対立を続け、二〇〇四年「オレンジ革命」と呼ばれる激しい対立、混乱を経て、二〇一四年「ウクライナ騒乱」と呼ばれる大統領選で親欧米派の大統領が勝利し、非同盟方針を改め北大西洋条約機構(NATO)加盟に大きく舵を切ります。
これに反発したプーチンは三月クリミア半島をほとんど無傷で占領、四月親ロシア派武装勢力が武装蜂起しウクライナ軍と戦闘が生起、東部ドンバス地方に人民共和国を創設するなど対立が激化します。プーチンの狙いはウクライナのNATO加盟による東方拡大阻止にあります。ウクライナは二〇一九年NATO加盟を目指す憲法を改正、二〇二一年九月には、NATO諸国一五か国と合同演習まで行なっていました。
このような中、ウクライナに対するプーチンの警戒は強まり、国境に兵力を展開して演習を開始し始めます。さらに二〇二一年三月には二〇万人規模で国境周辺で軍事演習を開始するなどウクライナへの圧力を強めてきた。しかし、誰もが「あれは脅しだろう」と。一二月、アメリカのバイデン大統領とプーチンが会談したときに、「ウクライナで戦いが起きても米軍派遣は行わない」と全世界に発表しています。NATOに加盟してないからという理由でしたが、この発言がきっかけとなり、プーチンのウクライナへの侵略を決断させたのは間違いがないところです。「あらゆる選択肢を準備している」としておけば、よかったかもしれません。

(一部 抜粋)





2022年7月号 目次

風のように鳥のように(第151回)
セルフレジと私/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
戦争をさせないために能動抑止力を上げる/火箱芳文(第三二代陸上幕僚長)

世界を見渡せば(第19回)
ジョニー・デップ対アンバー・ハードの裁判で見えたもの/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
宇宙は熱く激しい現象に満ちている/馬場彩(東京大学大学院理学系研究科准教授)

中東万華鏡(第75回)
オオイヌノフグリ/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第115回)
四半期報告書の廃止が走りになれば/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第49回)
国益を損ねる両国のエネルギー政策/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第40回)
考古科学が埋める津波古代史料の空白/斉藤孝次 (科学ジャーナリスト)

交差点


 

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