月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2022年5月号 インタビュー(抜粋)

何が得意かと考えたら大相撲だった
― 『終わった人』から『大相撲の不思議』まで ―

人生百年時代と言われるのに『終わった人』を上梓して、高齢者の男性をとまどわせる一方で、『大相撲の不思議』では伝統について考察する。 そんな八面六臂の活躍をなさる作家の内館牧子さんに、今月はインタビューしました。

作家
内館 牧子  氏 (うちだて・まきこ)

秋田県生まれ。武蔵野美術大学卒業、13年半のOL生活を経て、1988年に脚本家デビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」、「私の青空」、「毛利元就」など多数。2000年から10年まで女性初の横綱審議委員会委員を務める。2003年に東北大学大学院に入学、2006年修了。著書に「終わった人」、「すぐ死ぬんだから」、「今度生まれたら」など多数。

―― 「ご著作の『終わった人』、『すぐ死ぬんだから』、『今度生まれたら』は高齢者三部作だそうですが。

今、四作目を書いています。
『終わった人』は、男の人がみんな怖がります。
これを書くきっかけは、私が三菱重工にいたころにさかのぼります。 当時、男の人の大変さと悲哀を目の当たりにしていて、女の人はいてもいなくても一緒という感じでした。
社内報の編集をしていたら、定年で年間60人、100人と辞めていきます。その人たちにインタビューをして一言ずつ書くのですが、みんな「終わった後が楽しみだ」と言うのです。
私も若かったから、「そういうものだろうな。いいな、ラッシュにも揉まれないし」と思っていました。しかし、いざ自分が40代以降になってみたら「あれは嘘だったな」と思いました。みんな現役を退きたくありません。でも、退かざるを得ない。今まできていたお中元、お歳暮が一切こなくなったり、小さな委員会さえも卒業させられたりします。それで、必要とされたいという思いを存分に書いたのです。
話を聞くと外科医でも「いや、メスを持つのは年齢がある。世の中がどんどん新しくなっていくから、どの科の医師であろうが同じだ」と言うのです。これはすべての職業に通用するなと思いました。反響がすごかったです。

 

―― この本の「あとがき」で「品格ある衰退」に、触れてらっしゃいます。

植民地だったインドとイギリスとの関係を、国際政治学者の坂本義和先生が新聞で語っていらして、「品格ある衰退」というのは国家間の問題だけではなくて、人間にも当てはまるものだなと思いました。私は、やせがまんするしかないと思う。すがりついて、しがみついて「おれはもっとできる」「私を活かして」とあがくにしても、ある程度まであがいたら、やせがまんして「よしッ」と世代交代を受け入れるのが老人の品格じゃないかな、という気がします。

 

―― 見極めは非常に難しいと思います。

難しいです。これを書いたとき、ある年齢になっても、ずうっとディスクジョッキーをやっている方が「いやな小説ですね。でも、やっぱりどこかで若い人に譲らないと」とおっしゃって……。まだできるし、ノウハウもいっぱい持っていますから、もっともっと活かせると思いますが、もうそこはやせがまんでしょうね。やせがまんが「品格ある衰退」の一面ではないか、という気がします。「ああ、自分に引き潮がきたな」と思ったら、それに乗るしかないでしょうね。

 

 

(一部 抜粋)





2022年5月号 目次

風のように鳥のように(第149回)
犬と暮らす動画/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
何が得意かと考えたら大相撲だった/内館牧子(作家)

世界を見渡せば(第17回)
もし私の夫が人前で誰かを殴ったら?/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

特別寄稿
電力需給逼迫とエネルギーの脆弱性/金田武司((株)ユニバーサルエネルギー研究所代表取締役)

中東万華鏡(第74回)
ビールと中東/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第113回)
リーダーの役目は今、重要です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第47回)
CHAdeMOは世界に通用したのか/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第38回)
「津波考古学」で戦国争乱史を見直す!/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点


 

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