原子力文化2021年11月号 対談(抜粋)
パンデミックから考える日伊比較文化(下)
― 漱石はアイ・ラブ・ユウを何と訳したか ―
先月につづいて、今月も豊田有恒さんとヤマザキマリさんの対談をお届けします。
豊田 有恒 氏 (とよた・ありつね)
群馬県生まれ。島根県立大学名誉教授。1962年SF作家としてデビュー後、手塚治虫の虫プロで「鉄腕アトム」などのシナリオも手掛けた。歴史学・考古学から韓国・北朝鮮、エネルギー問題まで幅広い分野で執筆活動を続けている。「一線を越えた韓国の反日」、「韓国は、いつから卑しい国になったのか」、「日本アニメ誕生」など著書多数。最新刊に「ドイツ見習え論が日本を滅ぼす」(川口マーン惠美との共著)がある。
ヤマザキマリ 氏 (やまざき・まり)
東京都生まれ。1984年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年「テルマエ・ロマエ」で第3回漫画大賞受賞。第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。15年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に「プリニウス」(とり・みきと共著)、「オリンピア・キュクロス」、「国境のない生き方」、「ヴィオラ母さん」、「生贄探し」(中野信子との共著)。最新刊に「ムスコ物語」がある。
イタリアで暮らしていると、メディア一つとっても、テレビを見ながら延々と家族で話し合っています。「こんなことを言っているけど、絶対嘘だよな」といった言葉が飛び交うのは日常茶飯事です。テレビの前における家族でディベートや批判論議はお約束。そんな感じなんで、批判する精神性がわざわざ教育として習得しなくても、日常的に、ごく自然に身についていくんだと思いますよ。
ところが、日本はディベートよりも調和が優先だから、変だなと思うことをいう人の意見であっても、支持が多ければ聞き入れる傾向が強いです。
なにせ八百万の神、物の怪ではないけれども、見えないものからメッセージや倫理を感受するという性質はいまだに多くの人の中にあります。それを考えると、卑弥呼のようなシャーマンが統括していたのは納得がいくし、ともすると神のお告げを伝える巫女的リーダーの存在があったほうが、平和を保てるのではなんてことも妄想してしまいます。
日本人は、この国の地理的条件や風土に適したメンタリティに司られていると思いますし、厳しい自然条件の中で発生し、その後ヨーロッパという大陸的性質の国々で普及したキリスト教的倫理に根付いた欧米の法や倫理には、そう簡単には身も心も染まりきらないとも思います。空気を読む、なんていう行為は、多種多様な民族が渾然一体となった国では根付かない体裁です。そんな生き方をしている人々の考え方を、短期間で西洋合理主義的なものへ転換させていくのは無理があるように思うし、簡単なことではないのかもしれないと、この期に及んで強く感じるようになりました。
例えば戦争体験にしても「日本が悪かった」だけで終わってしまっています。しばしば自虐史観と言われますが、まったく無意味かと言えば、そうでもない。「日本は遅れている。だからこれからもっと向上しなければいけない」という意気込みで努力する役に立った。しかし、これからはマイナスにしかなりません。日本人が変な反省癖を、いつまでも引きずっているのは、一部の反日国を利するだけで、世界全体のためにもならない。これほど民度の高い、理想的な国は他にないと思うくらいで、ちょうどいい。
(一部 抜粋)
2021年11月号 目次
風のように鳥のように(第143回)
虫と暮らす/岸本葉子(エッセイスト)
対談
パンデミックから考える日伊比較文化(下)/ヤマザキマリ(漫画家・文筆家)×豊田有恒(作家)
世界を見渡せば(第11回)
「スタートレックに影響を受けた起業家たち」/関美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)
特別寄稿
福島県産品と震災/桜田武(公益財団法人 福島県観光物産交流協会職員 福島県観光物産館 館長)
中東万華鏡(第68回)
詩人オマル・ハイヤームのこと/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第107回)
人間は挫折知らないとあきません/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第41回)
オリンピックが終わって思ったこと/川口マーン惠美(作家)
温新知故(第32回)
「心の科学で」古代社会の変化を探る!/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)
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