月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2015年10月号 インタビュー(抜粋)

放射線災害に携わる人材を育てたい
― 長崎大学と福島県立医科大学の共同大学院構想 ―

福島での経験をいかに生かしていくか。
放射線災害が起きた時、緊急時における救急医療や救命活動だけでなく、長期的な住民の不安やストレス、心のケアまで対応することが、必要であることがわかりました。
これらに対応する人材を育成するために、2016年度に設置が予定されている共同大学院の内容について、これまで福島で地域の人の医療、健康影響などのケアに携わってきた高村さんと大津留さんにお話を伺いました。

長崎大学・原爆後障害医療研究所 国際保健医療福祉学研究分野教授
高村 昇  氏 (たかむら・のぼる)

1968年 長崎県生まれ。専門は、国際放射線保健学、放射線影響学、分子疫学など。 長崎大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。医学部講師、医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野准教授などを経て現職。その間、世界保健機関(WHO)の技術アドバイザーやテクニカルオフィサーなども務めた。3.11以降、福島県放射線健康リスク管理アドバイザー、川内村健康アドバイザーとしても活躍している。

福島県立医科大学・医学部 放射線健康管理学講座主任教授
大津留 晶  氏 (おおつる・あきら)

1957年 長崎県生まれ。専門は、消化器内科、内分泌・甲状腺内科。長崎大学医学部卒業後、同大学病院第一内科入局。2003年より長崎大学病院の被ばく医療臨床部門を担当。2011年の東日本大震災に際し、長崎大学からの放射線災害医療支援チームの団長として派遣され、その後も継続的に複合災害医療支援に従事。同年10月より福島県立医科大学に新設された放射線健康管理学講座の初代教授に就任した。

―― 2016年に設立される長崎大学と福島県立医科大学の共同大学院構想とは、どのような内容ですか。

 

高村
3.11の震災を経験し、我々が得た教訓は、放射線災害における人材をもっと育てなければいけなかったということでした。
事故の反省を踏まえ、保健師、看護師に加え、それ以外の救急に携わる方、臨床放射線技師、さらには警察や自衛隊といった放射線災害を含む災害に携われる幅広い人材を育てたい、というのがそもそもの思いでした。
ですから、名称が、災害・被ばく医療科学専攻になっているのです。
こういう人材の不足を考えて、被ばく医療をずっと行なってきた長崎大学、そして今回の震災を体験した福島県立医科大学の両大学で、共同大学院をつくることになりました。
具体的には、2年間の修士課程の学生を、長崎大学で10名、福島県立医科大学で10名、毎年受け入れる予定です。さらに、本専攻には2つのコースがあります。
一つは医科学コースです。これは例えば警察官や消防官、臨床放射線技師、自治体の職員、あるいは外国の留学生などを対象としたコースです。
もう一つの保健看護学コースは、正に保健師と看護師を対象としたコースです。
2つのコースは、学ぶ内容は極めて共通する部分が多いので、両コースの学生が共に学ぶことができる共修科目を多く開講する予定です。さらに、長崎大学の強み、福島県立医科大学の強みを活かした科目がありますから、それをお互いに提供し合う形で両方の大学院生を育てていこう、というのが基本的な構想なのです。

 

―― 消防士、保健師は、例えば、すでに現場で働いている方も受け入れることも考えられているのでしょうか。

高村

もちろん現場で働いている方でもかまいませんし、将来現場で働こうと思っている方でもかまいません。
こういった試みは、あまり全国でありません。ですので、長崎や福島にとどまることなく、全国レベル、さらには海外からも学びたい方には喜んで門戸を広げたい、と思っています。

―― このような災害をイメージしたコースを設置している大学院のようなものは、海外にもあるのですか。

高村

災害看護学という分野でいうと、国内でもすでにいくつかの大学が同じように共同で立ち上げている専攻はあります。
ただ今回の共同大学院の大きな特徴は、災害の中で被ばく医療にかなり重きを置いた内容で、こういったコースは国内外含めても極めて少ないと思います。
長崎大学で2010年度に放射線看護コースを立ち上げたときは、育成する学生が年間1名程度でした。それでは、現時点で直面する国内外のニーズにはとても応えることができないだろうと考えて、共同大学院を立ち上げたのです。
また海外でも、例えば放射線科の看護師のスペシャリストを育てるといった試みはありますが、被ばく医療に精通した看護師を育てるという観点からの教育は極めてユニークだと思います。
一方でこのような人材は、日本だけではなく、おそらく世界でも必要でしょう。
今回の震災の教訓を考えると、今後、アジア地域で原発がつくられていく中で、原発を建設している国もそういう人材を育てないといけない。
そのことも今回の震災で学んだ我々の責務ではないかと思っています。

(一部 抜粋)




2015年10月号 目次

 

風のように鳥のように(第70回)
できますか?片足立ち/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
放射線災害に携わる人材を育てたい/高村昇(長崎大学教授)、大津留晶(福島県立医科大学教授)

追跡原子力
女川原子力発電所 過去から現在に向けて

いま伝えておきたいこと(第46回)
世界に羽ばたけ/高嶋哲夫(作家)

おもろいでっせ!モノづくり(第34回)
三題噺というものがあります/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第36回)
寺田寅彦随想 その7/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第15回)
測ることで見えてくるもの/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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