原子力文化2021年09月号 インタビュー(抜粋)
人生は認知症になっても楽しめる
― ちょっと人の手を借りて楽しく生きていこう ―
コロナ禍は直接の感染だけでなく、社会の隅々まで影響を及ぼしています。高齢化社会における認知症もその一つです。
日本認知症学会が昨年の8月に専門医を対象に実施したアンケート(※)では、「うつ症状を呈する認知症の方が増加した」「(施設にて)家族面会が中止となり、不安定になった」「(デイケアなどでの活動がなくなり)在宅生活で記憶障害などが進行した」といった報告がありました。どう考えればよいのか。そもそも認知症にどう対処すればよいのか。山口晴保さんに伺いました。
山口 晴保 氏 (やまぐち・はるやす)
群馬大学・名誉教授。1976年群馬大学医学部卒業、同大学大学院博士課程修了(医学博士)。2016年9月まで群馬大学大学院保健学研究科教授。専門は認知症の医療(日本認知症学会専門医)やリハビリテーション医学(日本リハビリテーション医学会専門医)。脳βアミロイド沈着機序をテーマに30年間病理研究を続けてきたが、臨床研究に転向。認知症の実践医療、認知症の脳活性化リハビリテーション、認知症ケアなどにも取組む。日本認知症学会名誉会員
―― 認知症の医療にとって、昨年は、あまり良い状況ではなかったそうですが、今年はどうでしょうか。
外来受診などは若干上向いてきました。高齢者の新型コロナワクチン接種がだいぶ進んできましたので、私ども「もの忘れ外来」でも、かなりの方が、すでに1回か2回のワクチン接種を受けています。
ただ、施設系はけっこう進んだのですが、訪問系サービスのヘルパーさんなどのワクチン接種があまり進んでいません。訪問系サービスはあちこちの高齢者宅へ伺いますから、訪問ヘルパーさんなどは早くワクチンを打てたらよいと思いますが、同様にデイサービス関係者もワクチン接種が進んでいないのです。
一方で、特別養護老人ホームなどの施設にいる高齢者や外に出かけない高齢者などが優先的に接種を受けています。
しかし、在宅と施設を往復するような高齢者の接種を先にしたほうが効率はよかったと思います。
―― そのへんの順番が難しいですね。高齢化の進行で認知症が話題になってきていますが、その他、話題になるパーキンソン病やうつ病などと、認知症は重なると考えていいのですか。それとも全く違うものですか。
基本的には別ものです。脳に起こっている変化は全然違う変化なのです。
ただ、例えばアルツハイマー型認知症の人も、かなり進むとパーキンソン病の症状やうつ病の症状が出たり、またはごく初期にもの忘れから不安になって落ち込んでうつ病になる人もいますので、症状としてはかぶってきますが、病気自体は別の病気というとらえ方です。
それから認知症の中に、レビー小体型認知症と言って、ないものが見えてしまったりするタイプがあります。パーキンソン病と同じ特殊なタンパクが脳にたまるのです。ですから、同じような病変なので、そういう意味ではパーキンソン病とレビー小体型認知症は近い病気です。
(一部 抜粋)
2021年9月号 目次
風のように鳥のように(第141回)
まだまだマスク/岸本葉子(エッセイスト)
インタビュー
人生は認知症になっても楽しめる/山口晴保(浴風会認知症介護研究・研修東京センター センター長)
世界を見渡せば(第9回)
「悩ましい人称代名詞」/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)
特別寄稿
福島第一原子力発電所視察/滝順一(日本経済新聞社編集委員)
中東万華鏡(第66回)
アラビア馬(四)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第105回)
白い帽子を見るにつけ教育を思います/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第39回)
ドイツの水素電気/川口マーン惠美(作家)
温新知故(第30回)
古墳大国群馬に残る東アジア交流の跡/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)
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