月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2021年04月号 インタビュー(抜粋)

なぜ感染者が少ないのに医療危機なのか
― まずは高齢者と基礎疾患のある人を守ればいい ―

世界平均で9人、アメリカ50人、イタリア31人、日本は1~2人。新型コロナウイルス1000人当たりの感染者数です。 日本は世界平均の10分の1、イタリアの50分の1という死者数の統計もあります(2020年12月15日現在)。日本の感染者や死者は、ヨーロッパや南北アメリカに比べて、極端に低いのです。 一方で多数の入院患者が出ているヨーロッパやアメリカで医療崩壊が起こっていません。それなのに、なぜ日本では医療危機が叫ばれるのでしょう。 昨年五月号で、日本の感染者数の少なさと医療体制の脆弱さを指摘いただいた唐木英明さんに、再びお話を伺いました。

東京大学名誉教授
公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

唐木 英明  氏 (からき・ひであき)

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008~11年日本学術会議副会長。11~13年倉敷芸術科学大学学長。主な著書に「不安の構造―リスクを管理する方法」があり、「証言BSE問題の真実―全頭検査は偽りの安全対策だった!」、「食の安全を求めて―食の安全と科学―」(共著)、「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など著者多数。

―― 新型コロナの対策では政府のリーダーシップがよく問われますが。

リーダーシップは極めてむずかしいことで、今まで起こったことがない重大な事態への危機管理の問題です。  感染症に関しては、欧米、中国、韓国などのSARS、MERSの経験がある国は、日本より慣れていました。日本が大規模な感染症に襲われたのは、1918年のスペイン風邪以来かもしれません。

―― 100年以上前ですね。

ですから、政府の感染症に対する危機管理対策ができてなかった。
このことを示すのが、医療の無駄を排するということで、国立病院、公立病院を次々統廃合して、余力をなくしたことです。そこに多数の感染症患者が出たら、病院はパンクする。こんなことはわかっていた。しかし、通常は必要がないため、放置した。そもそも対策がなければ、リーダーシップの取りようがない。
その政府の代わりに出てきたのが「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」です。現在は、新型コロナウイルス感染症対策分科会に変わっていますが、尾身茂会長が、あたかも日本のリーダーであるようにふるまう。リスク管理の立場からは彼の言うことは必ずしも肯定できないのですが、総理と並んで記者会見をし、メディアも国民も尾身さんの発言を国策と誤解してしまった。

―― 日本の医療行政は、緊急時を想定してないのですか。

ですから、政府の感染症に対する危機管理対策ができてなかった。
感染症法があって、緊急時の想定はしています。でも、こんなに大規模に、しかも長期間起こることは想定しなかった。だから病床数は多いんですが、感染症対応の病床は極めて少ないのです。
日本で数十年前まで大問題だった感染症は結核です。いまだに厚労省には結核感染症課があり、結核専門病院があります。治療薬とワクチンができて結核患者は減りましたが、大規模な感染症は、いつかくると専門家は言っていたのです。しかし医療費削減の中で無視された。
新興感染症という病気があります。アフリカやアジア、未開のジャングルで暮らす野生動物は未知のウイルスを持っている。人間は森林を伐採し開発して、野生動物と接触して、ウイルスに感染するようになった。それが新興感染症で、その典型がエイズです。

 

 

(一部 抜粋)





2021年4月号 目次

 

風のように鳥のように(第136回)
「黙」で守る/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
なぜ感染者が少ないのに医療危機なのか/唐木英明(東京大学名誉教授/公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長)

世界を見渡せば(第4回)
「騙されたい私たち」/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
福島県産の食品を敬遠する人は減ったか

中東万華鏡(第61回)
半分人間ニスナース/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第100回)
エイジシュートをめざしまっせ/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第34回)
新しい未来を作るには?/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第25回)
「天の金属」が「地の文明」を開いた?/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点


 

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