月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2021年02月号 インタビュー(抜粋)

社会全体で水害への備えを
― 問題は水害リスクを意識していないこと ―

コロナ禍に隠れた感がありますが、昨年7月の熊本県を中心に発生した集中豪雨など、大きな水害が発生しています。 これらは地球温暖化となんらかの関連はあるのでしょうか。 そして、温室効果ガスのもたらしたであろう災害は大きく取り上げられますが、水害などへの対策に関しては、伝えられることは少ないようです。 河川工学・水災害リスクマネジメントがご専門の池内幸司さんに、災害への適応策を中心に伺いました。

東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授
東京大学 地球観測データ統融合連携研究機構 機構長

池内 幸司  氏 (いけうち・こうじ)

1957年兵庫県生まれ。82年東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻修士課程修了。博士(工学)(東京大学)。技術士(総合技術監理部門、建設部門)。建設省(当時)入省後、近畿地方整備局長、水管理・国土保全局長、国土交通省技監、顧問などを経て2016年より現職。京都大学客員教授、筑波大学客員教授、神戸大学客員教授、横浜国立大学IAS客員教授、日本大学客員教授なども歴任。主な共著等に「激甚化する水害-地球温暖化の脅威に挑む-」(日経BP社)、「ハザードマップ 活用 基礎知識」(不動産流通研究所)など。最新刊として「水害列島日本の挑戦-ウィズコロナ時代の地球温暖化への処方箋ー」(日経BP社)を出版。

―― まず日本の河川の特徴を。

雨の降り方については、年間平均降水量は、世界平均の倍くらいです。しかも、梅雨期と台風期に集中しています。
地形が急峻なため、河川は急勾配で流路延長も短いです。大雨が降ったときには一気に洪水となって、下流に流れてきます。
大陸の河川の洪水では、上流の方で雨が降ってから、1週間から10日くらいかけて下流に洪水となって出てくるのですが、日本は短い河川だと数時間で降った雨が下流に出てきます。したがって、洪水に備えることのできる時間が、非常に短い。
さらに、日本の河川は、洪水時の流量と平常時の流量の差が非常に大きいです。欧米の河川の場合には、平常時の流量と比べてもそれほど極端な変化はありません。
人々の住まい方も違います。日本の場合は沖積平野、すなわち、川が溢れてできた浸水リスクの高い低地に都市が発達し、人口が集中しています。一方、欧米では、浸水リスクが低い台地がけっこう広いので、そこに住むことができます。
日本は、洪水被害に遭いやすい場所に大都市が集中しています。特に東京、大阪、名古屋の三大都市圏です。例えば、東京の東部は、洪水時の河川水位よりも低いところに市街地が発達しています。ゼロメートル地帯、すなわち海面水位よりも低い土地も非常に広いのです。三大都市圏のゼロメートル地帯には、400万人くらいの人々が暮らしています。
雨の降り方、地形、それから人々の住まい方など、洪水に遭いやすい自然的・社会的特性を有しています。

―― 東京は、江戸時代にかなり埋め立てていますね。

埋め立てていますし、関東平野では、徳川家康の時代、利根川と荒川が一緒になって流れていて沼地状でした。
豊臣秀吉の命令により、家康は領地を東海地方から関東に国替えをさせられたのです。
そのころ、関東平野は見かけ上は広大な平野ですが、実態は水害に遭いやすい非常に厳しい土地でした。それがわかっていたので、国替えに反対する家臣がけっこういました。
結局、家康は関東に移り、もともと東京湾(昔の江戸湾)に流れていた利根川の流路を付け替えて銚子に流しました。荒川も、大宮台地の東側を流れていたのを、大宮台地の西側に流路を付け替えました。このように利根川の東遷と荒川の西遷を行なって、広大な関東平野の洪水被害を大幅に減らした結果、コメの生産量が飛躍的に増加しました。
このような河川改修工事により武蔵国のコメの石高は、御三家である紀州藩(和歌山県と三重県南部)の石高に匹敵する石高が増えたと言われています。洪水の発生状況によってコメの生産量が変わるので、戦国武将にとって治水は領国経営の要でした。

 

 

(一部 抜粋)





2021年2月号 目次

 

風のように鳥のように(第134回)
しまってあるモノ/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
社会全体で水害への備えを/池内幸司(東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授)

世界を見渡せば(第2回)
「思い込み」/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
・高レベル放射性廃棄物の処分は
・核燃料サイクル実現に向けて新たな動きが

中東万華鏡(第59回)
パレスチナ問題の象徴/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第98回)
時には空を見上げてみましょうや/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第32回)
私の身体、私の選択/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第23回)
「神宿る島」の古代ガラスの起源を探る/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点


 

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