月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2015年9月号 インタビュー(抜粋)

「中東」をどう考えればよいのか
― 海外同胞を守るためにも的確な情報の収集を ―

かつてはオイルショックに関連してエネルギー問題で注目され、その後イラク・イラン戦争、依然としてつづくパレスチナ紛争、そして後藤健二さん……。中東という地域は私たちにとって、遠いところのように思えますが、ある日、突然、衝撃的な出来事が迫ってくるような感があります。
いったい、この地域をどう考えれば良いのか。
イラクのバクダッドで、人質となった体験をお持ちの保坂さんにお話を伺いました。

(一財)日本エネルギー経済研究所 中東研究センター 副センター長
保坂 修司  氏 (ほさか・しゅうじ)

専門はペルシャ湾岸地域近現代史、中東メディア論。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了後、在クウェート日本大使館専門調査員、在サウジアラビア日本大使館専門調査員、 などを経て、 (一財)日本エネルギー経済研究所 中東研究センター 研究理事。また、近畿大学国際人文科学研究所教授を歴任。『「イスラーム国」の脅威とイラク』(共著)、『サイバー・イスラーム』、『新版オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』、『サウジアラビア』等の著書がある。

―― ニュースとしては少なくなりましたが、いわゆるイスラム国(IS)の問題は、どうなっているのでしょう。

全体的に見て、どういう方向に行っているかは評価が難しく、例えばイラクやシリアでは一進一退とも見られるのですが、ISが大騒ぎになった昨年夏から冬にかけての時期と比べると、制圧した地域は狭まっているともいえます。
特にイラクはある程度縮小してきたと言えるのですが、シリアがどういう状況にあるのかは、シリアが内戦状態ですので、はっきりとはわかりません。

―― シリアには、IS以外にも反体制派がいるなど複雑ですね。

数え切れないほどあります。アサド政権に反対する勢力だけでも、親IS、反IS、親アルカイダ、ムスリム同胞団系、世俗系など、いろいろです。
一方、ISは世界各地に支部のようなものをもっていると主張しています。
6月にはロシアのコーカサス地方のグループがISに忠誠を誓うと発表しました。そのためISが拡大したように見えます。一方、各地の既存のグループがIS側に寝返っただけとも言えます。
ある程度増えていることは間違いないのですが、それが本当にISのコアのメンバーになり得るのかは、わかりません。アルカイダのメンバーがISに忠誠を誓ったり、その逆も頻繁に起きています。
問題は報道されなくなっていることです。日本の場合、どうしても日本が関わってないと関心が薄れてしまう傾向があります。そのために、正確な状況をつかめなくなります。大きな事件があるとふたたび関心が向くのですが……。
これはオイルショックの頃からずっと同じで、事件が起きれば関心は集中しますが、一段落すると、忘れ去られてしまう。我々もメディアに出て、「イスラム教はこうなんだ」「スンニ派はこうで、シーア派はこうで」と説明はするのですが、ほとんど忘れ去られてしまいます。

―― また同じことを繰り返し話すことになるのですね。

3.11のだいぶ前、原子力の専門家である東京工業大学の澤田哲生さんとお話したとき、彼が「原子力の専門家と中東専門家は似ている」とおっしゃられ、なるほどなあと思いました。ふつうの人たちにとっては、中東も原子力も普段はほとんど関心がありませんが、何かあったときには、突然、集中豪雨的に注目を集めます。ただ、その場合、9.11事件であったり、原発事故であったり、だいたいはよくないことに限られています。それゆえ、中東全体について誤解が生まれることが多い。原子力の場合もそうですね。

(一部 抜粋)




2015年9月号 目次

 

風のように鳥のように(第69回)
旅の発見/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
「中東」をどう考えればよいのか/保坂修司((一財)日本エネルギー経済研究所中東研究センター 副センター長)

追跡原子力
川内原子力発電所、再び動き出す

ルポ
女川町の今

いま伝えておきたいこと(第45回)
福島第二の現在/高嶋哲夫(作家)

おもろいでっせ!モノづくり(第33回)
受賞者には白鵬関と杉良太郎さんがいらっしゃいました/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第35回)
寺田寅彦随想 その6/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第14回)
女たちの相馬野馬追/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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