原子力文化2020年9月号 インタビュー(抜粋)
コロナ禍での日本のエネルギー選択は
― 今ある原子力発電所を80年間稼働できるように ―
国際エネルギー機関の見通しでは、2020年の世界のエネルギー需要は前年より6%減っているそうです。
そしてこれは、インド一国の需要がなくなってしまうほどだそうです。
新型コロナウイルスは、人の健康や生活ばかりでなく、エネルギー消費にも影響を与えています。
コロナ禍のなか、今後、少資源の日本はどのようにエネルギーを確保・選択していくべきでしょうか。
東京大学大学院工学系研究科原子力専攻教授の岡本孝司さんにお話し願いました。
岡本 孝司 氏 (おかもと・こうじ)
1961年生まれ。東京大学大学院工学系研究科原子力工学専門課程修了後、三菱重工業、東京大学助手、助教授を経て、2004年東京大学教授、現在に至る。2005年より2012年まで原子力安全委員会原子炉安全専門審査会審査委員、専門委員。専門は、原子力工学、可視化情報学など。
―― コロナ禍で、電気の需要が減り、エネルギーは足りているのではないか、と言われています。
ポストコロナの社会は、我々の常識とは大きく変わるでしょう。今までのビジネスモデルが成り立たなくなり、特に、「環境」への配慮を今まで以上に要求される社会になります。2020年6月には、経済産業省が二酸化炭素削減という評価軸を前面に打ち出し、脱炭素を基軸としたエネルギー構造改革を目指すと言っています。
テレビでは、太陽光などの再生可能エネルギーで、ほとんどのエネルギーを賄うという夢物語が語られていますが、天気に影響される電源という宿命を負った再生可能エネルギーでは現代社会のエネルギーは絶対に賄うことができません。石炭火力などのバックアップが必須で、そのためには、再生可能のバックアップのためだけに設備利用率の低い火力発電所を作り続ける必要があるという、自己矛盾に陥ってしまいます。
経済協力開発機構(OECD)は、世界のポストコロナのエネルギー社会を見据えて、脱炭素電源としての原子力発電の重要性を強く認識し、原子力発電と再生可能エネルギーの組み合わせが、今後の社会に最もふさわしいことを定量的に示しています。再生可能エネルギーを主体として脱炭素を目指すと電気代が3倍になるのに対し、そこに原子力を組み合わせることで、電気代は変わらずに、大幅な脱炭素が達成されるというレポートを8月に出しています。
世界全体では、日本の25倍以上の電気を作っています。逆に言えば、日本のシェアは4%です。ポストコロナの流れは、脱炭素に向かい、世界では、再生可能エネルギーと原子力の開発が進んでいきます。日本が勝ち残るためには、再生可能のバックアップとして、化石燃料ではなく原子力の選択をすることが必須であろうと考えています。
―― はい。
コロナ対応で、もう一つテレビの弊害として、リスクに対する考え方が間違っていることが挙げられます。コロナ対策の目的は、死者を減らすことです。
しかし、テレビは、検査で感染が確認される人数を減らすことに一喜一憂しています。韓国などでは軽症者は病院ではなく専用施設に隔離されます。日本では、軽症者も入院して、重症者が自宅で亡くなることがありました。改善がなされたはずなのですが、最近は、また、重症者の数はほとんど増えていないのに病床が足りない、ということが繰り返されています。リスクがどこにあるかを考えず、目の前の数字に踊らされて、本質を見失っています。 テレビは、エネルギーでもコロナでも、目の前のわかりやすい数字しか見ません。その結果として、日本を破滅に導いていきます。そうならないために、政治は、本質のリスクを把握して、意思決定をすることが求められます。原子力の位置づけをしっかりと認識し、安全を旨として、原子力エネルギーを活用しなくてはなりません。
(一部 抜粋)
2020年9月号 目次
風のように鳥のように(第129回)
定期健診も忘れずに/岸本葉子(エッセイスト)
インタビュー
コロナ禍での日本のエネルギー選択は/岡本 孝司(東京大学大学院工学系研究科 原子力専攻教授)
特別インタビュー
日本はなぜ新型コロナの死亡者が少ないか/藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)
追跡原子力
世界の原子力発電所は437基
中東万華鏡(第54回)
不死鳥伝説(1)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第93回)
最後まで結論出ないのが人生かもしれません/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第27回)
歴史は勝ち残った者の物語/川口マーン惠美(作家)
温新知故(第18回)
「神の手」の捏造で旧石器時代像が崩壊/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)
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