月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2020年8月号 インタビュー(抜粋)

文化は不要不急か
― アーティストは生命維持に必要だ、とドイツ文科相 ―

「不要不急の公園利用は、お控えいただきますようお願い申し上げます」というアナウンスが緊急事態宣言中の公園に流れていました。公園利用に不要不急の用でないものは、なんでしょう?
また、緊急事態宣言では劇場、映画館、演芸場は、休業を強いられました。これらの施設に関わるのは、出演者ばかりでなく裏方などの多くの人がいます。
新型コロナウイルス流行後の経済再建が検討されています。
しかし、文化についての再建は考えられているのでしょうか。
漫画家として長年、創作に携わってきたヒサクニヒコさんに伺いました。

漫画家
ヒサ クニヒコ  氏 (ひさ・くにひこ)

1944年東京都生まれ。72 年に『戦争 マンガ太平洋戦史』で第18回文藝春秋漫画賞受賞。恐竜から玩具、野生動物など幅広い分野に精通。特に恐竜研究家としても有名で、全国の博物館等での講師としても忙しい。『ことばのゆらい図鑑』『恐竜研究室』『きょうりゅうペぺのぼうけん』シリーズ、『人類の歴史を作った船の本』など、著書多数。最新刊はヒトコマ漫画集『ヤァ、失敬』

―― ヒサさんは大学を出てからずっと自由業(フリーランス)ですか。

フリーランスです。大学を出て55年。10か月だけちょっと勤めたことがありますけど。

 

―― 新型コロナ禍で仕事はどうですか。

どれが仕事で、どれが仕事でないかさっぱりわからない生き方をしています。例えば、会議や絵の審査、博物館でしゃべってくれなど、そんなのがいっぱいありました。それがみんな書面でやったり、メールや電話で済ませたり、審査の材料だけ送ってきて選んでくれとか。
新型コロナ禍で、人が集まることが全部なくなったから、そんな雑用のようなものがけっこうあったんだな、というのが改めてしみじみわかりました。 

 

―― ご自分のフェイスブックで、ミニシアターについて気にかけてましたね。

文化の形態というのは非常に面白くて、今コロナウイルスで「不要不急なら出るな。自宅にいなさい」と言われると、映画にしろ、読書にしろ、プラモデルでも在宅でできてしまいます。
でも、出かけなければ鑑賞できない劇場やライブハウス、映画館や寄席はお客が来ないと一切収入につながらない施設でしょう。施設を使わないでも、在宅で、ある程度それが賄える事態が何か月も続いてしまうと、例えば映画、音楽、落語などネットで配信されるものである程度代償される、本やプラモデルは書店や模型屋さんに行かなくてもアマゾンで買ったりできる。そういう生活を変えてしまうような期間を何か月かみんな過ごしました。そのときに一番不満が募るのは、その他のものに出会えないんですよね。 

 

―― その他のもの?

つまり、本屋に目的の本を探しに行ったら、その他にいろいろなものを見ますね。雑誌を見たり、違うコーナーをのぞいたり。そうすると、思わぬものに出会ったり、話題になった本を見つけて読んだりする。ところが、アマゾンで買おうと思うときは、目的があって、その本だけを探して買います。だからその他になかなか出会えません。関連の本をネットでは宣伝で送ってくるけど、全く違うようなものには出会えない。
例えば、東京の上野で会議があると、行き帰りにアメ横に寄ったり、どこかに寄ったり、その他の行為がいっぱいあって、初めて出かけることも楽しくなる。
そういう付随するその他がなくなった。そうすると、在宅でできるように見えることと、その他のそこからはみ出した不要不急でないゴチャゴチャの部分がすっ飛んだ環境は、個人にとっても非常によくないですね。

 

 

(一部 抜粋)





2020年8月号 目次

 

風のように鳥のように(第128回)
スーパーの新常識/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
文化は不要不急か/ヒサクニヒコ(漫画家)

特別寄稿
東日本大震災・原子力災害伝承館 東日本大震災・原子力災害伝承館 開館にあたって/高村昇(東日本大震災・原子力災害伝承館館長(長崎大学教授))

中東万華鏡(第53回)
乳香の話/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第92回)
天王寺をメディカルタウンにしましょう/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第26回)
世界経済の行方を自動車産業から予測/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第17回)
科学史に残る「ピルトダウン人」捏造/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点


 

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