月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2020年5月号 インタビュー(抜粋)

新型コロナウイルスに感染する確率は低いが
― リスクコミュニケーションの原則は逃げず、隠さず、嘘つかず ―

電車に乗っていると息苦しくなる。夫が在宅ワークになり学校も休校なので、夫のストレスがたまり、暴力を振るう……。NPOなどの相談窓口にこのような相談が増えているそうです。
ウイルスは目に見えないがゆえに、実態がよくわからないことも、不安を増しているようです。
この事実をどう受け止めればよいのか。
経済はもとより、個々人の心理にも影響を与える新型コロナ問題について、リスク管理とリスクコミュニケーションの専門家、唐木英明さんに伺いました。  

東京大学名誉教授
公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

唐木 英明  氏 (からき・ひであき)

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008~11年日本学術会議副会長。11~13年倉敷芸術科学大学学長。主な著書に「不安の構造―リスクを管理する方法」があり、「証言BSE問題の真実―全頭検査は偽りの安全対策だった!」、「食の安全を求めて―食の安全と科学―」(共著)、「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など著書多数。

―― タレントの志村けんさんが新型コロナで亡くなりました。皆さん非常にびっくりして、死が身近になったように考えています。

私も志村さんの出ていたテレビ番組『8時だョ!全員集合』を見ていた世代ですから、まさか彼がこんなことで亡くなるとは思いませんでした。密閉、密集、密接の三密のところはリスクが高いのです。残念ですが、そういう教訓になるでしょう。
年齢や職業などに関係なく誰でも、確率は非常に低いけれども、感染し得るということですね。

―― 非常に低いのですか。私たちが感染する確率は。

誰もが明日にも、自分が感染するように思っていますが、現在、日本中で感染者は1万人弱です。日本の人口は1億2,500万人なので、1万人に1人程度。隠れ感染者がその倍いるとしても、5,000人に一人です。感染者に出会い、「三密」の状態になり、飛沫を浴びて、感染する確率は、きわめて小さなものです。
感染の確率でよく比較されるのが季節性インフルエンザです。毎年1,000万人が感染している。10人に1人という割合で、新型コロナに感染するよりずっと高い確率です。
しかも、インフルエンザは冬の2か月に集中して発生しています。ということは、1か月平均500万人が感染していることになります。もし毎月500万人の感染が1年間続くとしたら6,000万人、2年続けば日本の人口全部が感染することになります。
このことから、新型コロナの収束について、一つの可能性が示唆されています。新型コロナがインフルエンザ化して国民の7割程度が感染すると、集団免疫を得られてそれ以上は感染しなくなる。それが新型コロナのインフルエンザ化による収束で、オランダの首相などがその可能性について国民に説明しています。もちろん、その前にワクチンによる免疫獲得が可能になるでしょう。
日本のように、新型コロナに毎日500人が感染している程度では、何十年かかっても集団免疫など得られない。そのような特殊な状況です。

 

 

(一部 抜粋)





2020年5月号 目次

 

風のように鳥のように(第125回)
マスクの使いどころ/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
新型コロナウイルスに感染する確率は低いが/唐木英明(東京大学名誉教授 公益財団法人 「食の安全・安心財団」理事長)

まいどわかりづらいお噺ですが
マスクでウイルスは防げるか?!/須郷高信(株式会社環境浄化研究所社長)

中東万華鏡(第50回)
日本とイエメン/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター長・研究理事)

おもろいでっせ!モノづくり(第89回)
時には直に会うてとことん話さないと/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第23回)
ドイツの宗教事情/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第14回)
ネアンデルタール人の謎もDNAが解明/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点 コラム


 

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