原子力文化2015年8月号 インタビュー(抜粋)
世界基準の原発をつくるべき
― それが事故を起こした日本の責務 ―
「福島での事故を経験したからこそ、日本が世界基準の原発をつくっていくべきです」という高嶋さん。日本が脱原発をしていっても、世界では増えていく。日本が世界レベルで物事を考えていく責任があると指摘されます。
今春上梓された『世界に嗤われる日本の原発戦略』では、今後の日本の原子力との向き合い方について、世界的な人口やエネルギー問題を踏まえた幅広い視野から発言されています。
事故を教訓に日本が取り組むべき課題や福島の将来、若い世代への期待などを伺いました。
高嶋 哲夫 氏 (たかしま・てつお)
1949年 岡山県生まれ。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員を経て、作家に転身。『メルトダウン』で小説現代推理新人賞、『イントゥルーダー』でサントリーミステリー大賞と読者賞などを受賞。『ミッドナイトイーグル』『TSUNAMI』『首都崩壊』『世界に嗤われる日本の原発戦略』など著書多数。最新刊は『富士山噴火』
―― 高嶋さんのメルマガで、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14 世の発言を引用されていましたね。福島第一原発事故が起きた日本で、今後、原子力をどう扱っていくのかという議論をしている時期に、ダライ・ラマ14世は、「安全に配慮しても1%のリスクは残る」と。「常に全体的に、物をみなさい。原子力も同じです」という言葉が非常に印象的でした。
ある書物で、たまたまダライ・ラマさんの言葉に触れ、「あ、けっこう同じことを考えているんだな」と思ったのです。ちょっと嬉しかったので引用しました。
要するに、大切なのは世の中を一部分だけではなく全体的に見るということと、そして、世の中は常に変化しているということです。つまり、視野を広く持つということと、時間軸の重要性を述べたものです。
自然災害も同じで、東日本大災害も、1000年に一度、早くても600年に一度の大災害です。それを理解した上で復旧復興対策を立てるべきです。壮大すぎる計画を立てるより、まずは現在生きている人の生活を護ることが第一です。
未来を語るには、未来の世界、科学技術の発達を考慮した未来を語らなければなりません。そういう意味で、ダライ・ラマさんの言葉は共感できました。
―― なるほど。
多くの人は、未来を語るにしても、現在の状況で未来を語っているのではないでしょうか。未来には我々が知らない世界があります。
たとえば小説を書くにしても、現在では「公衆電話を探して走り回る」「手紙を出す」などは、まず使えません。スマホ一台あれば、電話、メール、カメラ、ボイスレコーダー、財布、パソコンの役割までします。心配するのは電池切れだけです。
科学技術というのは、指数関数的に進歩しています。ですから、今から10年後の世界を現在の状況で語ることは非常に難しい。常に、未来を見る目が必要だと思います。政治家、有識者と称する人にはそれができていない。
―― 福島の事故は、深刻な影響を与えました。未来を見据えたとき、あの事故から学ぶべき最も大きな教訓は何だと思いますか。
やはり、「科学技術に絶対ということはない」ということを世間と科学者、技術者に知らしめた、ということではないでしょうか。
つまり、人はもっと謙虚にならなければならないということです。事故は起こりうる。そのための対策も必要だということです。それが十分ではありませんでした。
原子力発電所の安全は、「(原子炉を)止める」「(原子炉を)冷やす」「(放射性物質を)閉じ込める」ということで護られます。
ところが、あの事故では「止める」ではすべての原発が成功しましたが、福島第一原発では「冷やす」で失敗して、「閉じ込める」ことができませんでした。
その後は、原子力発電所自体にしても、住民避難にしても十分な対応ができていなかったような気がします。
それは、「事故は起こりうる」という発想ができていなかったからです。つまり、事故が起きても安全対策が機能をして大事故にいたらないという思いがあったのではないでしょうか。「絶対に安全」ならば、「事故が起こった後」のことは考える必要はない。そういう雰囲気があったような気がします。
「事故は起こる」という発想が多少とも許される土壌があれば、事故時の訓練ももっとできていたはずだし、さまざまな想定事故も考えることができ、余裕を持った対応ができたような気がします。
(一部 抜粋)
2015年8月号 目次
風のように鳥のように(第68回)
「おばさん」になった/岸本葉子(エッセイスト)
インタビュー
世界基準の原発をつくるべき/高嶋哲夫(作家)
まいどわかりづらいお噺ですが
日航機墜落から30年
いま伝えておきたいこと(第44回)
地球は生きている/高嶋哲夫(作家)
おもろいでっせ!モノづくり(第32回)
ものづくりは中小企業のイメージです/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
客観的に冷静に(第34回)
寺田寅彦随想 その5/有馬朗人(武蔵学園長)
笑いは万薬の長(第13回)
福島の桃/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)
交差点