月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2020年2月号 インタビュー(抜粋)

原子力発電所のAIから『妻のトリセツ』まで
― 脳科学から考えるコミュニケーション ―

現在『妻のトリセツ』をはじめ、次々に出される脳科学の本が大ヒットしている黒川伊保子さん。
実は、原子力発電所に導入された世界初の日本語対話型女性AIを開発した実績をお持ちです。
この開発をきっかけに男女の脳の違いに気づいたという黒川さんに、AI開発秘話や脳科学から考えるコミュニケーションについて伺いました。

株式会社 感性リサーチ 代表取締役・人工知能研究者
黒川 伊保子  氏 (くろかわ・いほこ)

長野県生まれ、栃木県育ち 。1983年 奈良女子大学理学部物理学科卒業後、(株)富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて、14年にわたり人工知能(AI)の研究開発に従事した後、コンサルタント会社、民間の研究所を経て、 2003年(株)感性リサーチを設立、代表取締役に就任。 2004年 脳機能論とAIの集大成による語感分析法『サブリミナル・インプレッション導出法』を発表。サービス開始と同時に化粧品、自動車、食品業界などの新商品名分析を相次いで受注し、感性分析の第一人者となる。主な著書に『妻のトリセツ』、『夫のトリセツ』などがある。最新著書は『人間のトリセツ』(ちくま新書)。

―― 黒川さんは、原子力発電所で使用されることになった女性の「対話型AI」を世界で初めて開発されました。開発に携わることになったきっかけは。

1983年、大学を卒業して、コンピュータメーカである富士通の子会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリに入社しました。ここでの配属先が人工知能開発のためのチームでした。
1983年は、後に私たちの業界でこの国のAI元年と言われた年です。この年まで日本は人工知能の研究を行なっていませんでしたが、世界ではすでに1950年から研究が進んでいました。主に軍隊がある国で軍事インテリジェンスの一環として進んできた研究も多かったので、日本はおそらく人工知能の開発準備が世界で着々と進んでいることを知らなかったのだと思います。
1980年代に入る直前、世界で「21世紀は人工知能の世紀になる」という宣言がなされて、そのときに、おそらく慌てたのでしょうね。当時の通産省が1983年から人工知能専用言語のエンジニアの育成を全国の国産コンピュータメーカで広げることになりました。
私はその第一期生に当たります。ですから、人工知能にかかわるあらゆることの下働きのエンジニアとして、さまざまな研究部隊に参加していました。
私にとってラッキーだったのは、1983年という年に就職したこと、そして即戦力でなかったことです。私は物理学を専攻していて、素粒子が研究テーマでしたから、基本的にはコンピュータの技術について全く知らないまま就職しました。理論物理学出身なので、ポジティブに考えれば新しいことの研究に向いていると思われたのでしょう……。
結果、人工知能の開発部隊に入りました。その分野においても私は専門家ではなく下働きのエンジニアだったので、逆にあらゆるものに触れたのです。音声認識、画像認識、データマイニング、それから自然言語解析、あとニューラルネットワークもやりました。
下働きのエンジニアなのに世界初の日本語対話型女性AIを動かすチャンスをもらったのは、誰もが不可能だと言って断ったからです。 そもそも「日本語を話すコンピュータを作ってくれ」という荒唐無稽な発注は、電力中央研究所のある研究員の方からいただきました。「原子力発電所の運転員は原子力発電の運転だけでも大変なのに、コンピュータの扱いで面倒をかけさせないように」ということでした。
当時のコンピュータは今のように使い勝手がよくなく、中央(都市)に大きなコンピュータがあって、地方には端末しかありませんでした。この端末は文字しか入出力できない上、端末側には演算装置もなく何のサポートもしてくれません。中央のコンピュータの頭脳部に直接、機械語に近い難しいプログラム文をたたき込まないといけないのです。当時コンピュータ技師と言われた中央のコンピュータを動かす人たちは、特殊技能を持った人たちだったのです。
事故、トラブルにかかわる情報データベースは機密情報が高く、改ざんされたら大変ですし、漏洩しても大変なことになる情報なので、中央のコンピュータに入っています。それを原子力発電所の技師の方が検索するにあたって、機械語に近い命令文を書き、端末側から中央のコンピュータにかなり繁雑な手順を踏んで情報を送り込んで、返ってくるのを何分も待つ。そういう時代でした。ですから、「話しかけたら、もっと気軽に答えを出してくれるようにしてほしい」と。そのときの研究員の方も図抜けていますよね。

 

 

(一部 抜粋)





2020年2月号 目次

 

風のように鳥のように(第122回)
埃を吸い取れ/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
原子力発電所のAIから『妻のトリセツ』まで/黒川伊保子(株式会社 感性リサーチ 代表取締役・人工知能研究者)

特別寄稿
◇秩父宮記念山岳賞を受賞して/安間繁樹(元JICA海外派遣 専門家)

中東万華鏡(第47回)
日本にいたオマーン国王/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター長・研究理事)

おもろいでっせ!モノづくり(第86回)
続・六周年迎えましたで、医療コンソーシアム/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第20回)
世界の現状は「気候非常事態」?/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第11回)
中性子線で「日本刀」の秘密を探る/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点




 

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