原子力文化2019年10月号 対談(抜粋)
社会の発展には電気が欠かせない
― ITやライフサイエンスのエネルギー源も電気 ―
石油の多くは中東に依存しています。イランとアメリカの確執で、「エネルギーの安全保障」が再び注目を浴びるようになりました。温暖化対策など途上国との協力が今後は不可欠という筑波大学名誉教授の内山洋司さんと、日本原子力文化財団理事長の桝本晃章にお話し合い願いました。
内山 洋司 氏 (うちやま・ようじ)
1949年 神奈川県生まれ。東京工業大学理工学研究科博士課程を修了後、(財)電力中央研究所に入所。技術評価グループリーダー、上席研究員を経て、2000年~15年まで筑波大学機能工学系教授。この間、米国電力研究所(EPRI)客員研究員、東京工業大学総合理工学研究科と放送大学にて客員教授を兼務。現在は(一社)日本エレクトロヒートセンター会長。専門は、エネルギー・環境に関する技術評価、ライフサイクル評価、リスク評価。主な著書に、「エネルギー工学と社会(‘06)」、「エネルギー学への招待」、「エネルギーシステムの社会リスク」など多数。
桝本 晃章 氏 (ますもと・てるあき)
1938年 神奈川県生まれ。62年東京電力入社後、企画部広報課長、電気事業連合会広報部長、東京電力取締役広報部長、常務取締役、取締役副社長、電気事業連合会副会長などを歴任。2018年7月から現職。(一社)日本動力協会会長なども務めている。
私は世界で見て、一番大きな出来事はソ連の崩壊だと思っています。
それまでの資本主義は自由主義圏を中心とした社会で、産業資本主義でしたが、そこへ彼らは新たな国家資本主義を持ち込んだ。ハーバード大学の著名な卒業生等が自由主義圏の資本主義が崩れる脅威を11挙げていますが、その一つに国家資本主義の台頭があります。
当たり前ですが、すべてを国がコントロールする共産主義国の国家資本主義は強い。独禁法の縛りもなく、カルテルよりも強いトラスト企業による市場の覇権、知的財産権を軽視して先進国から技術や製品をコピーする、さらに為替レートも自らコントロールする。
企業によるフェアな競争活動を基本とする自由主義圏の企業は、例え大企業であっても彼らに勝つことはできません。
自由主義国・ブラジルの石油会社・ペトロブラス社もありますが、ロシアと中国は、両国とも国家原子力企業ですし、国家石油・ガス会社です。ソ連崩壊とはいえ、エネルギーの世界では巨大企業ができて、結果としてその会社が世界に原子力を供給しています。
現在、ロシアは、ノルド・ストリーム2という大きなパイプラインを、バルト海の海底も利用してつくっています。このノルド・ストリーム2の役員に元ドイツの首相がいます。ですから、ドイツが原子力をやめる、石炭をやめるというのには、慎重に考えられた裏の道があるのです。
それに比べると日本は、エネルギー・セキュリティに対する関心が非常に薄くなってしまいました。
(一部 抜粋)
2019年10月号(創刊600号) 目次
風のように鳥のように(第118回)
ベッドから落ちる/岸本葉子(エッセイスト)
対談
社会の発展には電気が欠かせない/内山洋司(筑波大学名誉教授)×桝本晃章((一財)日本原子力文化財団・理事長)
追跡原子力
◇2050年にCO2八割減、達成するためのカギは?
◇日本の原子力発電所・主な原子力関連施設
中東万華鏡(第43回)
ミイラ取りがミイラになる(4)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第82回)
内視鏡が大腸の中に入るのが見えました/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第16回)
"一人勝ち"ドイツに不景気は訪れるか?/川口マーン惠美(作家)
温新知故(第7回)
渤海滅亡は白頭山の大噴火が原因?/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)
交差点