月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2019年7月号 インタビュー(抜粋)

本当に電気は足りているのか
― 日本に足りないのは安い電気だ ―

エネルギー自給率が約9%の日本は、中東に約九割の石油を依存しています。
原子力発電所が9基しか動いていない中、核合意をめぐるイランとアメリカとの対立で、ホルムズ海峡が閉鎖されて原油の輸出が途絶えてしまったら、どうなるのでしょうか。
経済産業省に在籍されていたころには、石炭、電力・都市ガスなどのエネルギー政策や行政改革に取り組まれ、現在、社会保障経済研究所代表を務められている石川和男さんにお話を伺いました。

社会保障経済研究所代表
石川 和男  氏 (いしかわ・かずお)

1965年 福岡県生まれ。89年通商産業省(現在の経済産業省)に入省後、電力・ガス行政など、エネルギー政策や産業保安政策などに携わる。2007年に退官後は、内閣官房・国家公務員制度改革推進本部事務局企画官や、内閣府・規制改革会議専門委員、行政刷新会議の委員などを歴任。現在、政策アナリストとして、社会保障関連産業政策論、エネルギー政策論、行政改革論などに関する政策研究・提言をしている。

―― 福島第一原子力発電所の事故後、再生可能エネルギーが環境に優しいと脚光を浴びています。

再生可能エネルギー促進法は、東日本大震災が起こる6時間前に閣議決定していました。福島第一原発の事故をきっかけに「再エネをやろう」と言うのではないのです。ここを皆さん、大きく勘違いしています。
福島第一原発事故は、発電中の事故ではなくて、緊急停止後の事故で、核燃料管理上の事故です。
アメリカのスリーマイルアイランド原発や旧ソ連のチェルノブイリ原発は、事故後も、発電所内にあった事故を起こさなかった原子炉は動かしていました。
例えばスリーマイルアイランド原発では、2号機が事故を起こしたのですが、1号機は動いていました。
いつも外国人の有識者から、なぜ日本だけ全部止めるのかと聞かれます。

 

―― 日本では、現在、加圧水型原子炉の9基しか動いていません。

沸騰水型原子炉は、福島第一事故の炉と同様の形態なので、今も動いていないのだと思います。
ホルムズ海峡の問題もそうです。世界で海上輸送される原油の約3割のほか、日本に輸送される中東からの原油もホルムズ海峡を通って輸送される。そのような大動脈であるのにもかかわらず、石油危機が1973年のように、もう一度起きないと、日本人はわからない。
電気はついているし、ガソリンスタンドに行けばガソリンはあるし、ガスもLPGもきちんと家庭に届く。灯油もなくならない。北海道の胆振東部地震で大規模停電(ブラックアウト)が起きても凍死しない。
そんな平和な国で、エネルギーがなくなるといくら言っても理解してもらうのは難しいのです。
残念ながら、実際はホルムズ海峡が閉ざされて原油がストップして停電になる、ガソリンスタンドの長い行例に並ぶとなったときに、皆さん、ようやくエネルギーの大切さに気付きます。
つまり、犠牲や具体的な被害が出て初めて状況がわかるのです。

 

 

(一部 抜粋)




2019年7月号 目次

 

風のように鳥のように(第115回)
体の硬い人/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
本当に電気は足りているのか/石川和男(社会保障経済研究所代表)

まいどわかりづらいお噺ですが
ラジエーションハウスの仕事ってなあに?

中東万華鏡(第40回)
ミイラ取りがミイラになる(1)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第79回)
なんか返り討ちにおうたような気分です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第13回)
スイスって、どんな国?/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第4回)
古代の巨大遺跡を「ミュオン」で透視/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点

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