原子力文化2015年7月号 対談(抜粋)
原子力発電所の再稼働を考える
― 「意思と力」をもって向上心で安全を維持していく ―
この春、原子力発電所の再稼働に関して二つの司法判断がありました。まず、4月14日には高浜原発3・4号機の再稼働差し止め仮処分が福井地裁に認められ、次いで22日には鹿児島地裁が川内原発1・2号機の同様の申請を却下するという二つの異なる司法判断が下されました。どうしてこのように異なる判断がくだされたのでしょうか。二つの司法判断から見える、再稼働に対する考え方、そして今後の防災対策のあり方などについてお話し合い願いました。
松本 真由美 氏 (まつもと・まゆみ)
熊本県生まれ。上智大学外国学部卒業後、報道番組のキャスター、リポーターとして活躍し、その後、NHK-BS1でキャスターとして「ワールドレポート」などの番組に携わる。教養学部の環境エネルギー科学特別部門での教育の傍ら、環境・エネルギー問題を主なフィールドに幅広く活動中。NPO法人国際環境経済研究所・理事なども務めている。
山口 彰 氏 (やまぐち・あきら)
1957年 島根県生まれ。工学博士。専門は、原子炉工学、リスク評価など。東京大学工学部原子力工学科卒業、同大学大学院工学系研究科博士課程修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)にて高速炉研究に従事。大阪大学大学院教授を経て2015年から現職。原子力規制委員会発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム委員を務めた。
一方、鹿児島地裁の決定では規制基準の中身、それから危険をどう捉えるのかということを深く突っ込んで見ていくと、合理的な判断だと思います。
今回の原子力の問題は、正に原子力発電所の中でどのような危険があるかという論点と、規制基準がその危険に対してどう備えているかがポイントだったのです。
そういう問題を司法が扱うときには、危険があるとすれば、どういう根拠で、どういった危険があるか、規制基準の中でシビアアクシデント(過酷事故)対策をどう捉えているか、地震動をどのように定めて、それを超える震度に対して規制基準がどう考えているか、そういった専門性が非常に高く要求される論点が扱われているのだと思います。
今の司法の中で、そのような専門性をどう織り込んでいけばいいのか。司法の仕組みを考えると、司法が技術の分野ときちんとした技術的なコミュニケーションができる環境がないのです。
そういう環境の中で、原子力のような問題について司法判断を下すのに、何らかの限界がきているのだろうと思います。
ですから、あの二つの決定を並べてみますと、正に技術と司法の接点のところをどう見るかという問題が浮かび上がります。
日本は今、その接点のところが、非常に欠落しています。その結果として、全く正反対になったのです。
今の司法で、その共通の土壌を形成するところを考えると、例えば安全性の研究者が、司法の方々とそういう議論ができる場がない。そうすると、その間のギャップを埋めることができないままに、司法が判断を下さないといけない。
そうなると、今おっしゃった裁判官の理解や解釈などのリテラシー、あるいは心の持ちようといいますか、技術に対する考え方や信念が、非常に色濃く出る環境になっているのだろうと思います。
もう一つのアプローチは、現行の司法制度の中に原子力のような技術の問題を扱う専門性をもった組織をつくるやり方です。
(一部 抜粋)
2015年7月号 目次
風のように鳥のように(第67回)
使わない機能/岸本葉子(エッセイスト)
対談
原子力発電所の再稼働を考える/松本真由美(東京大学教養学部客員准教授)× 山口彰(東京大学大学院教授)
まいどわかりづらいお噺ですが
ミュオン粒子を使って福島第一の原子炉内を解明
いま伝えておきたいこと(第43回)
世界を変える新技術/高嶋哲夫(作家)
おもろいでっせ!モノづくり(第31回)
花園でワールドカップ2019が開催されます/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
客観的に冷静に(第33回)
寺田寅彦随想 その4/有馬朗人(武蔵学園長)
笑いは万薬の長(第12回)
がんの自然史/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)
交差点