月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2019年3月号 インタビュー(抜粋)

福島の農業の再生に向けて
― 風評被害と林産物の対応を ―

この3月で、福島第一原子力発電所事故から8年。
東京大学の農学生命科学研究科では、事故直後から被災地の支援に取り組んでおり、現在も調査研究活動を進めています。
事故後1か月から今まで、福島県伊達市や飯舘村で、放射性セシウムの農地への移行、特にイネの調査をされてきた東京大学大学院農学生命科学研究科教授の田野井慶太朗さんに、現在の放射能の農産物への影響についてお聞きしました。

東京大学大学院農学生命科学研究科教授
田野井 慶太朗  氏 (たのい・けいたろう)

1976年 栃木県生まれ。東京大学農学部卒、農学博士(東京大学)、第一種放射線取扱主任者。植物研究への放射線利用を追究するとともに、2011年以降は、福島第一原発事故による農地汚染調査研究にも携わっている。

―― 農学生命科学とは、どのような研究をされているのですか。

私が所属しているのは農学生命科学研究科、いわゆる農学部で、私はおコメの研究者です。
どのように肥料をあげたらいいおコメができるのか、少しの肥料でも育つにはどのようにすればいいかなど、おコメの研究をしています。
人間はご飯を食べてエネルギーを得ますが、植物は大気中の二酸化炭素を基に有機物をつくります。
具体的には炭水化物などをつくるのですが、それをつくる過程で、ミネラルが必要になります。そのミネラルを植物は根から吸収します。
葉から吸収した二酸化炭素を、光合成で有機物に変えるとき、唯一の栄養が根から吸収するミネラルなのです。
植物がミネラルをどのように根から吸収して葉に移行させるのか、それをどう効率よくすれば、作物がたくさんできるのか、そのような研究をしています。
放射線生物学というと、放射線で細胞が傷む側(放射線影響)の研究が多いのですが、私は利用する側で、場合によっては利用したい元素の放射性物質を製造して使います。

 

―― 福島では、イネへの放射性物質の移行について調査されたのですか。

おコメや畑や果物、そしてキノコ、牛肉、魚は全て農学部の分野ですが、これらの生産の場が事故直後には面的に汚染されました。
当時、イネはイネの専門家、コムギはコムギの専門家、果実は果実の専門家と、各専門家が独自に福島で調査していたので、農学部の中で「みんなでうまく連携しよう」という枠組みをつくりました。
その中心になったのが、上司であった中西友子先生だったこともあり、私はいろいろな人に付いていってはサンプリングしました。
例えば、放射線の蛍光作用を使って、土壌のオートラジオグラフィーを撮ると、当時の放射性降下物(フォールアウト)がポツポツと見えたりしました。
生態学の先生と一緒に行ったときは、ウグイスの羽根に、「放射性物質がどう付いているか確認したい」と言われ、オートラジオグラフィーを撮ってみると、フォールアウトのポツポツが見えるのです。
これは、今ではアルミノ珪酸塩のガラス玉ということがわかっています。ガラスなので、水に溶けにくいのです。
他には、福島県の果樹研究所からSOSがあって、果樹なども調査しました。
果物はセシウムの移行係数がかなり低く、土から果実にいく量は少ないと予想されていましたが、実際は果実の放射性セシウム濃度が意外に高くて、樹体内の放射性セシウムの流れなどの研究を初期に行ないました。

 

 

(一部 抜粋)




2019年3月号 目次

 

風のように鳥のように(第111回)
詰め物がとれた/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
福島の農業の再生に向けて/田野井慶太朗(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

追跡原子力
・SNSで正確な情報を発信する
・同じ単位「シーベルト」でも2つの使い方

中東万華鏡(第36回)
天竺聖とその息子、楠葉西忍/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第75回)
よさをどう引き出すかが大事です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第9回)
人間の力で地球の温度を下げられるのか?/川口マーン惠美(作家)

笑いは万薬の長(最終回)
見えない赤い糸に導かれて /宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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