月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2018年9月号 インタビュー(抜粋)

目指すはフランスのブルゴーニュ
― ワインを通して故郷をつくる ―

福島第一原子力発電所の事故以降、福島県で除染作業等の業務に携わってきた北村さん。パリに赴任していた頃、ワインの奥深さを知り、どこかブルゴーニュ地方に風景が似ている福島県浜通り地方でワイン造りをすれば、福島の地域貢献につながるのではないかと個人としての活動を始めます。一方、ワイン造りは、土地や気候も条件として大事だが、それよりも人の努力や情熱、ひたむきにいいワインを造ろうとする積み重ねが大事と、ご自身の著書『新・ワイン学入門』で語られている福田さん。そんなお二人に、実りの秋を迎えるに当たり、ワインの魅力について、ご対談願いました。

ふくしまワイン広域連携協議会事務局長
北村 秀哉  氏 (きたむら・ひでや)

1961年福岡県生まれ。1984年 東京工業大学卒業後、同大学修士課程修了。1987年 東京電力株式会社に入社。現在、東京電力ホールディングス株式会社福島復興本社復興調整部部長。また、ふくしまワイン広域連携協議会を立ち上げ、事務局長として活動。

 
早稲田大学教育学部複合文化学科教授
福田 育弘  氏 (ふくだ・いくひろ)

1955年愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後1985年から88年までフランス政府給費留学生としてパリ第3大学博士課程に留学。現在、早稲田大学教育学部複合文化学科教授。著書に『ワインと書物でフランスめぐり』『「飲食」というレッスン』、訳書にロジェ・ディオンの『ワインと風土』『フランスワイン文化史全書』(共訳)など飲食関係の論文・評論多数。

 

 

北村
福田先生と知り合うきっかけをつくってくれたのは、一昨年亡くなった父でした。
父は毎朝、日本経済新聞を隅から隅まで読んでいたのですが、いろいろな本を書評している欄に、先生の『新・ワイン学入門』が紹介されていたのです。
私が福島県川内村をはじめ、浜通り地域で地元の方とワイン造りをやろうとしていることは当時、父も関心をもってくれていて、早速、先生の本を買って読んだんですね。「すごくいい本だった。おまえのやっていることの参考になるんじゃないか」と言われて、新聞の切れ端をもらったんです。
福島は、まだ、ワイン造りの黎明期だと思いますが、これから福島の地でワインができること、あるいは福島がワイン産地になることを夢見ていますから、ぜひ福島の人たちに本の内容を語ってほしいと、先生の研究室の扉をいきなりたたいたのです。2年くらい前だったと思います。

 

 

 

福田
私は研究者なので、現場で助けることは出来ませんが、フランスの食文化を研究してきた者として、アドバイスできるのではないかと……。
日本は、世界で最もワイン用のブドウ栽培に適していない国の一つです。それは高温多雨で、ブドウの開花期の6月に雨が降るからです。さらに、収穫期の9月、10月には台風がくるので、普通に考えれば、いいワインはできない。
ところが、1年を通して温暖で、冬に雨が多く、夏は高温で乾燥した地中海は、ブドウ栽培には一番適しているので、本当は最もいいワインができるはずなのに、あまり質のいいワインができない。
むしろ適地ではないからこそ、人間が努力していいワインを造る。当然その背景には、造り手の思いがないといけません。1000年以上かけてブルゴーニュやボルドー、シャンパーニュでは、気候の厳しい北の地域で非常にいいワインを造ってきました。私は「北の逆説」といっているのですが、このことは、フランスワインの歴史書を調べていくうちにわかってきました。
元々は、フランス政府給費留学生として、1985年から3年間、パリ第三大学博士課程へフランス文学を勉強しに行きました。
ところが、フランスの飲食文化、特にワインに魅せられて、現在では本業はどちらかというと飲食文化の研究になっています。文学作品は飲食文化研究の素材です。それだけワインの魅力は大きかった。
そのワインの魅力を知っている北村さんに頼まれたのが引き受けた理由です。しかも、北村さんは私と同じようにブルゴーニュのワインが好きなのです。「ああ、同じ感性をもっている」と思えるところがワインの力です。

 

 

(一部 抜粋)




2018年9月号 目次

 

風のように鳥のように(第105回)
頼りは笑顔/岸本葉子(エッセイスト)

対談
目指すはフランスのブルゴーニュ/福田育弘(早稲田大学教育学部教授)×北村秀哉(ふくしまワイン広域連携協議会事務局長)

追跡原子力
北海道が先陣を切って防災研修

まいどわかりづらいお噺ですが
食品照射ってなんだろう?

中東万華鏡(第30回)
織田信長の家来はイスラーム教徒?/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第69回)
顔で笑って、心を笑わせるいうのはどうです?/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第3回)
なぜ、うちの電子レンジの時計が遅れたか?/川口マーン惠美(作家)

笑いは万薬の長(第50回)
腸内フローラの重要性/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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