月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2018年7月号 インタビュー(抜粋)

エネルギー基本計画は何をめざす
― 2050年は不確実さと可能性の時代 ―

今夏に向けて、福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえた、新たな「エネルギー基本計画」の策定が進められています。
第4次エネルギー基本計画から、どのような点が見直されたのでしょうか。
総合資源エネルギー調査会基本政策分科会のメンバーでもある東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰さんにお話を伺いました。

東京大学大学院工学系研究科教授
山口 彰  氏 (やまぐち・あきら)

1957年 島根県生まれ。工学博士。専門は、原子炉工学、リスク評価など。東京大学工学部原子力工学科卒業、同大学大学院工学研究科博士課程修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)で高速炉研究に従事。大阪大学大学院教授を経て2015年から現職。国のエネルギー・原子力関係の委員を多く務めている。

―― 「第5次エネルギー基本計画」の原案がまとまりました。

委員会では、特に原子力と再生可能エネルギーが議論になりました。
再生可能エネルギーの「主力電源化」が明記され、「もっと積極的に書くべし」という意見もありました。
一方で「主力電源と言っても、問題点も明らかにしないままに書いているではないか」という批判もあります。
原子力も同じように「原子力をベースロード電源として、2030年の電源構成比を20~22%と言いながら、『可能な限り依存度を低減する』という表現はわかりにくいし、矛盾している」という意見や、「原子力の依存度を低減するなら、そういう方針をきちんと明確に示すべきだ」という意見が出てきています。
これは、「第4次エネルギー基本計画」の策定から4年経ちましたが、その4年間の歩みが決して平坦な道ではなかったことの反映ではないかと思っています。その結果、再生可能エネルギーについても明確には書き切れなかったし、原子力についてもきちんと方針を示せなかった。
ただ、日本のエネルギー選択に一貫してある考え方は「エネルギーの自立」です。改めて、膨大なエネルギーコストを抑制し、エネルギー資源の海外依存の構造を変えていくことが「はじめに」に書かれました。
また、エネルギー基本計画を実行することで、国民生活の安定と繁栄、生活水準の向上、技術に基づく3E+Sを実現する、ということが「おわりに」にまとめとして明確に書かれたことは重要だと思います。
それに合わせて、1950年代からのエネルギーのメガトレンドが議論されました。
50年代は「脱石炭」の時代で、日本の経済成長を目指して、石炭から石油へ転換するという大きな変化がありました。
その後、73年、79年の二度のオイルショックがあって、70年代に「脱石油」が言われました。
それから20年近く経過した1990年頃から環境問題が取り沙汰され、今度は「脱化石燃料」と言われてきたのです。
ここまで一貫して出てくるのは、エネルギーの自立と、経済成長や繁栄の流れです。その総体的な動向が、1950年代、70年代、90年代と、20年ごとに来ているのがわかります。
その後、2000年代に入って原子力ルネッサンスと言われた時代がありましたが、2011年に福島第一原子力発電所の事故が起きて、今度は「脱原子力」と言われるようになりました。

 

 

(一部 抜粋)




2018年7月号 目次

 

風のように鳥のように(第103回)
ただいま大規模修繕中/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
エネルギー基本計画は何をめざす/山口彰(東京大学大学院工学系研究科教授)

追跡原子力
世界で運転している原子力発電所は443基

中東万華鏡(第28回)
コーヒーの歴史(2)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第67回)
和歌山のパンダも僕も、もっと知られないと/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第1回)
平和ボケした世界/川口マーン惠美(作家)

笑いは万薬の長(第48回)
科学者達がやってくる!! in 郡山/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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