月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2017年12月号 インタビュー(抜粋)

一日一回、空を見上げよう
― 天気を知ることが防災に役立つ ―

なぜ、災害は発生するのでしょうか。私たちはどのように備えればいいのでしょうか。
日本列島は、地震、台風、豪雨、豪雪、火山の噴火などの自然災害が多い地域です。10月の季節外れの台風21号も記憶に新しいかと思います。
テレビの天気予報の仕事に就いて22年経った今でも、天気に興味が尽きないという気象予報士の森朗さんに、お話を伺いました。 

株式会社ウェザーマップ代表取締役社長、気象予報士
森 朗  氏 (もり・あきら)

1959年東京都生まれ、兵庫県西宮市育ち。大学卒業後は日鉄建材工業(現日鉄住金建材)に入社し、経理・総務・営業職に従事。趣味のウィンドサーフィンや海好きが高じて1995年に気象予報士資格を取得し、ウェザーマップに入社。TOKYOMX気象キャスターを経て、TBS「ひるおび!」など、テレビ・ラジオ番組に多数出演。全国で講演活動も行なっている。2017年7月よりウェザーマップ代表取締役社長。近著に『異常気象はなぜ増えたのか』(祥伝社)がある。

―― 最近、大雨や猛暑、大雪でも、雨量や高温、積雪量などの警戒情報がテレビ画面を大きく使用してテロップが流れるようになりました。

今、さまざまな現象が急に起こったり、局地的に起きたりしていますので、すぐ伝えるためには天気予報の時間を待っていては間に合いません。
そこでテレビなどで、警戒情報のテロップを流すのですが、予測や観測の技術は今すごく進歩しているので、さまざまな情報の速報が可能になっています。
例えば、降水量の場合、地域気象観測システム(アメダス)の観測所は約17キロ間隔であるのですが、その間を雨雲がすり抜けることがあります。特に最近のゲリラ雷雨は補捉し切れません。
そのため、半径数百キロの広範囲内に存在する雨や雲を観測する気象レーダーが現在一番有効なツールです。よく天気予報で見かける日本全国の雨の強さを表す赤やオレンジ、黄色の分布は、以前は10分に1回の情報でしたが、5分に1回観測することができます。
また、雨雲の中のちょっとした風向きもわかるので、竜巻の発生が予測できるなど観測技術が進んでいます。
最新鋭のスーパーコンピュータを使って、非常に精緻な細かい予測も出るようになっているのですが、問題はどうやって伝達するかです。
もちろん気象庁は情報を常時見ていますから、危険な地域には、「記録的短時間大雨情報」、「特別警報」、「土砂災害警戒情報」などを発表します。これらがマスコミに配信されると、テレビにテロップが出てくる。それが精一杯の状態です。

 

土地利用の変化に伴い今までの想定が変わってきている

 

―― なぜ異常気象が多発しているのでしょうか。

30年に1回あるか、ないかという現象を異常気象といいます。人間が一生の間に2回遭うかどうかの現象ですが、世界中のあちらこちらで起きているので、頻繁に起こっているように見えます。
なぜ増えているかというと、観測技術が進んだから、これまで見逃されていた現象が捕捉されるようになったという考え方が一つできます。しかし、実際に被害も増えていることを考えると、その現象が増えていると思ったほうが妥当だと思います。
異常気象の原因は一つではなくて、いくつかの要因が重なって起こります。それは今に始まったことではなく、地形、あるいは都市開発もあれば、温暖化の影響など、複雑に絡み合っています。
その中でも特に変わったのは、やはり土地利用の変化です。再開発した地域や都市部は、雨が降ればすべて下水に流します。川もふたをしてしまっているし、水を吸収する土壌もない。
今の下水道は1時間に50ミリの雨を処理するように設計されていますが、下水の排水能力を超えたら、当然、水が溢れてきます。よくテレビで大雨のときにマンホールのふたがドーンと飛んだりするのは、下水道の水が一杯になり、そこから押し出された空気がマンホールをはね上げる現象です。続いて溢れてくる水は下水ですから衛生上の問題も出てきます。
15、6年前のことですが、当時東京では1時間に30ミリ以上の雨が降ると「大雨警報」を発表していました。
しかし、その30ミリを大幅に上回る雨が増えてきたと思い、気象庁に尋ねたら、はじめはデータがないと言っていたのですが、その年の年末に、50ミリ以上の降水量を示すデータが出てきて、増えているのがわかりました。
東京都の下水道局は、50ミリ以上の雨は処理能力を超えますから、下水管を太くする、貯留施設をつくるなどの対策をしているのですが、これだけビルや家が建ち並んでいる地下の下水道を整備するのは大変だと言っていました。
土地利用の変化に伴い、今までの想定が変わってきているのです。

 

(一部 抜粋)




2017年12月号 目次

 

風のように鳥のように(第96回)
近い昔の暮らしぶり/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
一日一回、空を見上げよう/森 朗(株式会社ウェザーマップ 代表取締役社長 気象予報士)

特別インタビュー
「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の報告について(後)/佐々木康人(湘南鎌倉総合病院附属臨床研究センター 放射線治療研究センター長)

中東万華鏡(第21回)
福澤諭吉の見たエジプト/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第60回)
第二の人生は第一の人生の賜物です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(最終回)
寺田寅彦随想 その31/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第41回)
「福島子どもの未来を考える会」ベラルーシ派遣団同行記II/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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