原子力文化2017年11月号 インタビュー(抜粋)
まず新聞やテレビを疑ってください
― メディア自身が国民を事実から遠ざけている ―
ワイドショーで民主主義が運営されてしまっている――ジャーナリストの有本香さんは、現状をこう分析します。 従来の新聞やテレビといった媒体に、インターネットが加わり、情報は選択の余地が多くなっています。 そんな中で、見聞きする側としては、何をどう考えればよいのか。 新旧のメディアが入り交じる現状をご解説願いました。
有本 香 氏 (ありもと・かおり)
奈良県奈良市生まれ。東京外国語大学卒業後、旅行雑誌の編集長を10年、上場企業の広報担当を3年経験。その後、独立し、編集・企画会社を経営する傍ら、中国、チベット問題、国際関係や日本国内の政治等のテーマを中心に取材・執筆活動を行なっている。インターネット配信報道番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」での、鋭い社会批評で人気を博している。『中国の「日本買収」計画』『「小池劇場」が日本を滅ぼす』など著書多数。
―― 現状を「ワイドショー民主主義」と有本さんはおっしゃっています。どういう意味かご説明を願えれば。
私が本にしました『小池劇場』、あるいは今年に入ってからの半年くらいは森友学園、加計学園問題というのがありました。ワイドショーでこれらを盛んに取り上げること自体は別に悪くはないのですが、取り上げ方が極めて不適切である、と思われます。
そう思うのには、大きく2点あります。一つは、事実を伝えていないことです。事実を曲げたり、事実でないことを流布してしまっていることです。それからもう一つは、事実は事実として伝えても、著しく偏り、つまりバイアスをかけてしまっていることによって、ある事実については非常に重く伝えますが、ある事実については全く伝えないことです。これは加計学園の問題に顕著でした。観る人の印象を意図的につくってしまうことが、特にテレビはできます。
例えば加計学園の問題に関していえば、特に何か手続きに落ち度があったのでも、不正行為があるようにも見られないのに、何となく安倍さんがお友達に対して便宜を図ったのではないか、悪いことをしたのではないか、という雰囲気だけができ上がってしまいます。
メディア、特にワイドショーによる事実に基づかない報道、あるいは著しくバイアスのかかった情報によって、場合によっては選挙の結果や政局を左右しかねない状況になってしまいます。
その顕著な例が豊洲です。少なくとも昨年末までの間、盛んにワイドショーで築地市場から豊洲への移転問題が取り上げられました。これの中には事実に基づかないことが山ほどあります。
豊洲の安全性については、今になって小池さんは「法的にも科学的にも安全だから、一刻も早く移転すべきだ」と言い始めていますが、安全性は去年の夏から1ミリも変わっていません。
であるにもかかわらず、全く事実に基づかない、あたかも豊洲市場が欠陥施設であるかのようなことが繰り返しテレビで流された。このことによって、何となく「あそこには問題があるんじゃないか」という印象がつくられてしまい、その結果が都議選に反映されました。
こういうことから、ワイドショーで民主主義が運営されてしまっている、と言っているのです。
―― ワイドショーが放送されるのは主に朝や昼間ですね。サラリーマンは、あまり観ませんが。
例えば、ワイドショーの視聴者は選挙になると、選挙に行く層になります。
会社を引退された高齢者の方は、選挙にはかなり影響するのです。築地の問題が盛んに報道されていたときには、病院など高齢者の方が集まるところでは「やっぱり今までの都政は問題があったんだね」という会話がずいぶん交わされていたそうです。このあたりが実は「ワイドショー民主主義」の頭の痛いところなのです。
昼間働いていて、「ワイドショーなんか観られないよ」という層の人たちは、必ずしも投票に行かない人も多いですね。
そして、若者もワイドショーは観ませんが、投票に必ずしも行かないですね。
―― テレビの特性として、物事を非常に図式化、簡単にする。例えば水戸黄門ではないですが、そういうものがあるような気がするのですが……。
そうですね。視聴者の気持ちをどう引き付けるかの一つの手法として、単純化して、かつ悪者を探し出してたたく、というパターンに極めてよくはまった媒体だと思います。
そういうことがたびたび行なわれているのは、この一年の間で大変顕著ですね。
(一部 抜粋)
2017年11月号 目次
風のように鳥のように(第95回)
音の記憶/岸本葉子(エッセイスト)
インタビュー
まず新聞やテレビを疑ってください/有本 香(ジャーナリスト)
特別インタビュー
「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の報告について(前)/佐々木康人(湘南鎌倉総合病院附属臨床研究センター 放射線治療研究センター長)
中東万華鏡(第20回)
ペトロ・カスイ岐部/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第59回)
これからの人生を明るく彩りたいものです/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
客観的に冷静に(第59回)
寺田寅彦随想 その30/有馬朗人(武蔵学園長)
笑いは万薬の長(第40回)
「福島子どもの未来を考える会」ベラルーシ派遣団同行記I/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)
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