月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2017年4月号 インタビュー(抜粋)

21世紀を生きる日本人に考えてほしいこと
― 原発事故はだれの責任か、そして、会社はだれのものか ―

儲けだけ考え株主配分さえやればいい、というのは事業ではない――と原丈人さん。
アメリカのシリコンバレーで、数々のベンチャー企業に関わった原さんは、会社は株主だけのものではなく、従業員、地域、お客様のものであると「公益資本主義」を説きます。
世界中で金融資本主義が跋扈する中、日本はどうすればいいのか。
原子力発電、企業の在り方、そして日本文化と、原さんの提言は多岐にわたっています。

内閣府参与
原 丈人  氏 (はら・じょうじ)

1952年 大阪生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、27歳まで中央アメリカ考古学研究に従事、研究資金獲得のためスタンフォード大学経営学大学院で学び、国連フェローを経て、同大学工学部大学院を卒業。以後、最先端情報通信分野とライフサイエンス分野のベンチャーを創造、90年代にはシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストに。2000年からは、アライアンス・フォーラム財団を率い途上国の貧困問題を技術を使って解決する事業や金融制度改革をアジア、アフリカ等で着手し大きな成果を上げた。国連政府間機関特命全権大使、ザンビア大統領顧問、世界経済フォーラム(ダボス会議)カウンシルメンバーの他、財務省参与、首相の諮問機関の特別委員など歴任。現在は未来投資会議構造改革推進徹底会合に内閣府参与の立場で参画。アライアンス・フォーラム財団の提唱する公益資本主義の考え方を政策に反映できるように努力している。

いい機会なので、皆さんに知っていただきたいことから、述べたいと思います。
福島第一原子力発電所の事故の後、福島原発事故調査委員会がいくつもつくられたのを、覚えていらっしゃるでしょう。
会社側による、福島原子力事故調査委員会、政府による事故調査・検証委員会、議会による事故調査委員会、そのほかの事故調査委員会など、多くの事故調査委員会が存在しましたが、私には、本当の事故の原因を示したものは、見受けられませんでした。
当時の駐日アメリカ大使や、アメリカ法律事務所が可能性として考えていたことは、どの事故調査委員会でも議論すらされていませんでした。

 

―― どういうことでしょう。

例えば、自動車会社が世界に製品を輸出した後、欠陥が見つかり自国の市場に販売したものだけは修理していて、外国に出した製品の欠陥が原因で事故が起きた場合、この自動車会社は責任を取らなくてもいいと思う人は、さすがにいらっしゃらないと思います。
2012年1月末に、アメリカに輸出された三菱重工製の原子力発電プラントの蒸気発生器の配管部分に欠陥が見つかった、という新聞記事がありました。
発電所は、カリフォルニア州にあるサンオノフレ原子力発電所です。
当初は機器の交換も考えていたようですが、サンオノフレ原発を運営するサザン・カリフォルニア・エジソン(SCE)社は2013年の6月に2、3号機を閉鎖することを発表しました。
それに伴いSCE社等は、三菱重工に66億6700万ドルの損害賠償請求をしています。三菱重工は、契約における責任の上限は1億3700万ドルであるとして、係争中でした。結果として国際商業会議所が、1億2500万ドルで仲裁裁定をし、三菱重工の賠償額は契約上の責任上限内に収まりました。
このように契約社会と言われるアメリカでも「例外が適応される」として、契約が反故にされてしまう、ということがあるのです。

―― はい。

こうした現実を考慮すると、わが国のいずれの事故調査委員会が行なった議論も、不十分であったと言わざるを得ません。おまけに東京電力には、事故後、元日本GE社長が社外取締役に就任しています。これはガバナンス上もまったく考えられないくらいおかしい。
加害者である可能性があるアメリカ企業の日本子会社の退任したてのトップを、被害者の会社の社外取締役に迎えるなど、世界の常識では考えられません。いかに日本が、アメリカに対してモノを言えない空気を、自らつくっているのかがわかります。
さて、事故を起こした福島第一原子力発電所に採用されていた格納容器はマークI型です。アメリカでは、2011年ネブラスカ州のフォートカルフーン原子力発電所が同型の格納容器を持っていて、ミズリー河の大洪水のときに、水没しています。しかし、このとき非常用の補助電源は、水浸しにならずに機能し、事故には至りませんでした。
アメリカでは2001年の同時多発テロ以降は、テロへの対策として電源の確保を、大変重要視しています。
ところが、外国にある、特に日本にあるマークI型は、補助電源のところをリコールしてないのです。
福島第一原発の非常用の電源は、地震直後は起動したのですが、津波に襲われてだめになったため、原子炉の冷却ができなくなった……。この事実は津波を想定しないアメリカの設計思想のまま、輸入されたものと言わざるを得ません。
ですから、アメリカのGEの立場からいけば、欠陥自動車ではなく、欠陥原子炉に文句を言ってこない、お人よしの日本だと思っているのです。
GEのイメルト社長は、あの一週間後に来ましたが、訴えられると思って来たのです。そしてそのときには最小限にしようと。駐日大使も弁護士ですから、「訴えるのではないか」と大変危惧していました。彼は大使になる前にわが社の弁護士でもあったのです。

(一部 抜粋)




2017年4月号 目次

 

風のように鳥のように(第88回)
湿度に注意/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
21世紀を生きる日本人に考えてほしいこと/原 丈人(内閣府参与)

追跡原子力
・「きいぱす」4月にオープン
・復興のフロントランナー福島県川内村

中東万華鏡(第13回)
ソレイマーンの船(前篇)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第52回)
関西出身の四人のサムライをご紹介します/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第53回)
寺田寅彦随想 その24/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第33回)
コンピューターの発展とライフスタイルの変化/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

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