月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2017年1月号 新春インタビュー(抜粋)

自利より他利を優先する
― 医工連携でものづくりを、大阪に元気を ―

高齢化社会に伴い、医療や介護が注目されるようになりました。そんな中、公立大学と中小企業が連携して医療に携わる。今こんな試みが、大阪で行なわれています。なぜ医工連携が、しかも大阪ではじまったのか。新年にちなんで、大阪市立大学の理事長兼学長の荒川哲男さんに、新たな医療の夢を語っていただきました。

大阪市立大学理事長兼学長
荒川 哲男  氏 (あらかわ・てつお)

1950年 大阪市生まれ。医学博士。専門は消化器内科。大阪市立大学医学部を卒業後、同大学大学院医学研究科で胃粘膜に関する研究を進めた。その後、大学院医学研究科講師、米カリフォルニア大客員教授、大阪市立大学大学院教授、医学部附属病院副院長、医学部長などを経て16年4月より現職。医療現場と中小企業を結ぶ団体の立ち上げにも関わる。『機能性ディスペプシア―日本人に適した診療を求めて―』『TECHNICAL TERM 消化管』などの監修・編著作がある。

―― どういうきっかけで医工連携というものをお考えになったのか。

医工連携といっても、大学内で工学系の専門家と医学系の専門家が連携するのは普通あります。一般的にはそれを医工連携と呼んでいます。高度な医療機器や医療に関係するような、ものづくりが中心です。
でも、それが本当に一般市民のニーズに合っているのかどうかを、あまり考えずにやっていることも多いのです。
ですから、本当に求められているものづくりをしていきたいということと、もう一つは、「ものづくり医療コンソーシアム」を立ち上げた私も(株)アオキ会長の青木豊彦さんも――この方は人工衛星「まいど1号」を、東大阪の技術力を結集して打ち上げた方ですが――大阪生まれの大阪育ちなので、大阪の産業の活性化、大阪を元気にしたい、というところから始まっているのです。
大阪を元気にするためには、中小企業に元気になってもらわないといけないので、医療と中小企業の匠の技を融合して何か良いモノをつくれないか、というところから始まりました。
そういうことを契機に、一般財団法人の「ものづくり医療コンソーシアム」をつくったのですが、実際、医療と中小企業というのはかなり距離がありました。
中小企業でも医療関係の機器を扱っているところはあるのですが、少ないです。

―― かなり特殊なところですか。

そうですね。例えば私の関係の消化器では、内視鏡の部品のほとんどをつくっている中小企業が東京にありますが、幾つかしか思いつかない。
まず医療と中小企業の距離を縮めることをしたいな、と。ニーズとシーズを合わせていくことから始まったのです。
中小企業関係者でも、手術室などを見学するようなことはされていません。
病院も中小企業の人に見学で開放するようなことはまずないので、そういう試みをやるうちに、だんだん気づきが生まれてきて、距離も縮まっていった。
私も研究者の部類ですが、大学の研究者は高度なところだけを求める志向が強い。
ですから、実際に一般の方の悩みなどはわからないし、それらを解決する方法に目が向かないことがあります。
大阪市立大学は市の公立大学ですから、市民の幸福のために、知恵を絞って何かする市民に近い大学です。高度な研究と同じように、市民の日常生活に関係するようなことも、考えるべきです。
医療の世界では、患者さんが尊厳をすごく傷つけられたりすることが、けっこうあるのです。
例えば、今度商品化されましたが、自分の体から出る排出物、そういったものをチューブで出さないといけない。

―― 人工肛門などですか。

それもそうですが、例えば胆汁が出にくくなっている胆管がんの人などはチューブで出します。そうすると、汚い液が外に見えます。トイレに行くときでもそういうものを引きずっていかないといけない。恥をさらしているような気持ちになったりします。
看護師さんは何とかしてあげたいと思っていますが、研究テーマにはならないのです。
しかし、患者さんの一般的な悩みとしてはすごくあるので、そういうこともアカデミアが力を注ぐべき部分だと。そのへんに手をつけるような大学は、ほとんどないのです。
ですから、医工連携で、大学全体としてものづくりの中小企業と、組織と組織としてコンソーシアムをつくるのは、我々が初めてではないかと思っています。おかげさまで去年の9月で、3周年です。

(一部 抜粋)




2017年1月号 目次

 

風のように鳥のように(第85回)
積み重ねの威力/岸本葉子(エッセイスト)

新春インタビュー
自利より他利を優先する/荒川哲男(大阪市立大学理事長兼学長)

追悼
長瀧重信氏(長崎大学名誉教授)

追跡原子力
着想のヒントは北斎の浮世絵から

中東万華鏡(第10回)
天平のペルシア人/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第49回)
夢は会社を世界一にしたいということです/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第50回)
寺田寅彦随想 その21/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第30回)
美しくなって、元気アップ/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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