月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2016年8月号 インタビュー(抜粋)

原子力を動かして電気代を下げる
― 省エネ、CO2削減には経済成長が必要 ―

現在、電気を安定的に供給するため、原子力発電で賄いきれない分のほとんどを火力発電を焚き増しして、電力の需要を賄っています。日本は、火力発電で使う石炭や天然ガスなどの化石燃料のほとんどを海外に依存しています。また、化石燃料の購入から輸送にかかるコストは、長期的には不安定で、日本の経済の基盤をなす製造業の生産コストや人件費に大きな影響を与えています。今、日本が打つべき手は何か、その課題と方策について、エネルギー問題と経済に詳しい山本隆三さんにお話を伺いました。

常葉大学経営学部教授
山本 隆三  氏 (やまもと・りゅうぞう)

1951年 香川県生まれ。京都大学工学部卒、住友商事入社。石炭部副部長、地球環境部長などを歴任。その後、プール学院大学国際文化学部教授を経て、2010年富士常葉大学総合経営学部教授、2013年より現職。NPO法人国際環境経済研究所長も務めている。『脱原発は可能か』『電力不足が招く成長の限界』など著書多数。

―― 今年の夏の電気は、足りているのでしょうか。

多くの人が「原発がなくても電気は足りているのだ」と言っていますが、重要なことを忘れています。なぜかというと、かなり無理をして電気を供給しているため、コストに大きな影響が出ていることが無視されているからです。
コストに影響が出ている理由のひとつは、例えば、揚水発電を最も需要の多い時期に利用せざるを得ないからです。
以前は、原子力発電を使った安い電力で、夜間に水を上に揚げていたのですが、今は、それを火力発電で賄っています。化石燃料でつくった電気で水を夜に上に揚げて、その水を昼間落として水力発電として、電力が多く使われる昼間の需要を賄っている。そういう無理をしなければ、需要が賄えない状態なのです。
化石燃料を夜間に多く使うことで、さらに電気代が上がっているのです。
夜間電力の分まで、化石燃料を使っていたら、揚水のコストは電力の売り値の1.5倍や2倍になっているはずです。
結局、原子力発電が止まっている影響は、そういうところに大きく出ていることを、よく考える必要があります。

―― 今、化石燃料の主力はなんですか。

日本は、天然ガス(LNG)、石炭が中心ですが、最近は、石油もかなり使っています。
1973年の第一次オイルショックの頃は、石油への依存度が高く、一次エネルギーの中での石油への依存は、75%ほどでした。
石油への依存のしすぎは危ないということで、天然ガス、石炭、原子力などにエネルギー資源を多様化していきました。
しかし、3.11の震災後、原子力発電が停止し、化石燃料の利用が増え、一時、40%に低下していた石油の比率は、45%まで上昇しました。
ちなみに、世界で一番石油を発電に使っている国は、日本です。今、石油を発電で使う国は、もうほとんどないのです。
でも、日本はそういうことをしないと電気が供給できない。これはエネルギー安全保障上、非常に問題だと思います。
このことは、日本ではあまり意識されていない気がします。

―― はい。

面白いことに、アメリカ人は、原子力発電の肯定派が歴史的に多いのですが、今年3月の調査で、歴史上、初めて反対意見が半分を超えました。その理由は、原油生産量が増え価格が下がっているからです。
アメリカが、シェールオイルとシェールガスで世界一の石油・天然ガス生産国になりました。
そうすると、アメリカ人の中で、「じゃあ、原子力はなくてもやれるかな」と考える人が増えた。
例えば、アメリカではガソリンの値段が上がると、原子力支持派が増えるのです。逆に、ガソリンの値段が下がってくると、エネルギー安全保障に関心をもつ人が減ってくる。
アメリカ人は、非常にはっきりしているのですが、それだけエネルギー安全保障に関心をもっている。だから、原子力も重要だと考える人が歴史的に多いのです。
日本は、アメリカに比べたらエネルギーの自給率はとんでもなく低いですし、化石燃料への依存度も、非常に高い国なのに、安全保障に関心をもっている人が少ないのです。

(一部 抜粋)




2016年8月号 目次

 

風のように鳥のように(第80回)
鍵を忘れて/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
原子力を動かして電気代を下げる/山本隆三(常葉大学経営学部教授)

著者インタビュー
『福島第二原発の奇跡』を上梓して/高嶋哲夫(作家)

中東万華鏡(第5回)
チェスの話(前)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第44回)
職場の隣の人と敵になってどうします?/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第46回)
寺田寅彦随想 その17/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第25回)
保育所と子育て/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

ページの先頭へ戻る