月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2016年7月号 対談(抜粋)

長寿社会はエネルギーに支えられる
― 年輩の者は次世代のためになることを ―

現在、日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超え、日本は長寿大国となりました。人はなぜ長寿になったのでしょうか。また、私たちは長寿社会をどう生きれば良いのでしょうか。ナマコの研究の視点から社会問題を考察されている本川さんと漫画家のヒサさんにお話を伺いました。

漫画家
ヒサ クニヒコ  氏 (ひさ・くにひこ)

1944年 東京都生まれ。72年に『戦争 漫画太平洋戦史』で第18回文芸春秋漫画賞受賞。恐竜から玩具、野生動物など幅広い分野に精通。特に恐竜研究家としても有名で、全国の博物館等での講師としても忙しい。『ことばのゆらい図鑑』『恐竜研究室』『きょうりゅうペぺのぼうけん』シリーズ、『人類の歴史を作った船の本』など著書多数。最新刊は『マンガ戦車戦史』

東京工業大学名誉教授
本川 達雄  氏 (もとかわ・たつお)

1948年 宮城県生まれ。専門は動物生理学、ナマコの生物学。東京大学理学部生物学科卒業後、東京大学助手、琉球大学助教授などを経て、91年から2014年まで東京工業大学教授。歌う生物学者としても知られ、「生物多様性」「ナマコ」などをテーマに作詞作曲、そして歌唱も自らこなしている。『ゾウの時間 ネズミの時間』『生物多様性』など著書多数。最新刊は『人間にとって寿命とはなにか』

 

ヒサ
人間の長寿と社会問題についてお話を伺いたいと思いますが、先生のお考えの原点はナマコの研究から始まったのですか。

 

 

本川
私は1948年(昭和23年)生まれで、団塊世代です。所得倍増、ちょうどその頃に育ちました。この世代はみんな工学部に行きました。ものをつくって豊かにして世のお役に立ちたいと、高度成長を支えたのです。
僕は、直接は世のお役に立たないが、高貴な学問をしたいと思って、理学部に入りました。

 

 

ヒサ
理学部は理系ですし、役に立つんじゃないですか。

 

 

本川
役に立たない動物学という分野もあるのです。僕は、何の役にも立たない、食べられないナマコの皮の硬さの研究を始めたのです。
ナマコの研究を始めるには、ナマコが毎日どんなことをやっているかを海の中で見ないといけない。海の中で一日見ていても、ナマコは何にも動かないのです。
見ているうちに、こんな動かない生き物と僕らのようにシャカシャカ動いている生き物では、流れている時間が同じなのか、と疑問に思ったのです。
物理的な時計の時間は同じかもしれませんが、生物の時間としてどうなのか、ということを考え始めました。
時間もそうですが、エネルギー消費量もナマコはヒトとはまったく違います。世界が違うとしか言いようがありません。
ナマコの世界を通じて人間の世界を見ると、どう違うのかを考えざるを得ませんでした。そういう異なる視点を与えるという意味では、ナマコの研究はとても大切だと私は思っています。
私の見解では、エネルギー消費量と時間の速度は比例します。エネルギーをたくさん使うと、時間が速く過ぎる。エネルギー消費量は体温に大きく影響を受け、体温が下がってエネルギーを使わなかったら、時間が止まってしまう。

 

 

ヒサ
冬眠状態のような感じですか。

 

 

本川
そうです。冬眠状態というのは、時間を止めて冬という外の時間をサーッと流して、また春になったら自分の時間を戻す。

 

 

ヒサ
生物としての時間と物理的な時間との違いということですね。

 

(一部 抜粋)




2016年7月号 目次

 

風のように鳥のように(第79回)
新聞は紙で、画面で/岸本葉子(エッセイスト)

対談
長寿社会はエネルギーに支えられる/本川達雄(東京工業大学名誉教授)×ヒサクニヒコ(漫画家)

追跡原子力
世界で運転している原子力発電所は434基

中東万華鏡(第4回)
ラクダの話/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第43回)
おかげさんで今日も旅の空です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第45回)
寺田寅彦随想 その16/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第24回)
がんとの共生/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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