月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2016年3月号 インタビュー(抜粋)

しっかり廃炉を進めることが、福島の復興につながる
― 福島第一原子力発電所の現状  ―

震災から5年が経過する福島第一原子力発電所。現在、多くの人が、現地での困難な作業に取り組んでいますが、汚染水問題や、今後の長い年月をかけて取り組む廃炉作業など、多くの課題を抱えています。
一方で、敷地内における放射線量の大幅な低減や、作業員の労働環境の改善など、着実に進展していることもあります。
震災当時、福島第二原発所長として、陣頭指揮に当たり、現在は、福島第一原発の最高責任者を務める増田さんに、現状とともに、働く人たちの様子、廃炉への課題などを伺いました。  

東京電力(株)常務執行役
福島第一廃炉推進カンパニープレジデント 廃炉・汚染水対策最高責任者

増田 尚宏  氏 (ますだ・なおひろ)

1958年 埼玉県生まれ。横浜国立大学工学部卒業、同大学大学院修了後、82年東京電力(株)入社。柏崎刈羽原子力発電所保修部電気機器課長、本店原子力技術部電気計装設計グループマネージャー、福島第二原子力発電所ユニット所長などを経て、2010年6月~13年5月福島第二原子力発電の所長を務める。2014年4月から現職。

―― 福島第一原子力発電所の事故から五年が経過しますが、現場はどのような状況でしょうか。

まずは、事故後5回目の正月も避難先でお迎えいただくことになってしまった方が、非常に多くいらっしゃいます。避難されている地元の方には、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳なく思っています。
現在、広野町や楢葉町には帰町している方たちもいます。これが富岡町や大熊町、双葉町など、発電所周辺にもっと進んでいくことが、私たちにとってとても大事です。
この5年間、当初は野戦病院で火の粉を振り払うような状況でしたが、おかげさまで昨年の春頃から少し落ち着きが出てきました。
まず、昨年5月に、タンクに溜まった汚染水をきれいにすることについては、一定の目途がついたと考えています。
その後も、原子力規制庁などから、一番リスクが高いと言われていた海側のトレンチという配管やケーブルのトンネルのような場所に溜まっていた1万トンくらいの高濃度の汚染水を、抜くことができました。このことによって、福島第一のもつリスクをかなり下げることができました。原子力規制庁からも、この問題の解決については評価をいただきました。
その後、1~4号機建屋の周辺にあるサブドレン(井戸)から、建屋に流入しようとする地下水の汲み上げを開始し、汚染水が増加することを防いでいます。海側の遮水壁も閉じ、海への放射性物質の流出を大幅に削減することができました。汚染水については、着実に進歩のあった1年だったと思います。
使用済燃料については、2014年12月に4号機の使用済燃料の1535本の取り出しがすべて終わりました。これによって4号機の燃料が持っていたリスクはなくなり、目に見える形でよくなったことの一つだと思います。
3号、2号、1号機についても、使用済燃料プール内に瓦礫がたくさん入っていることや、周囲の線量が高いという問題はありますが、使用済燃料を取り出す作業については、4号機の延長線でうまくできると考えています。
もう一つは環境の問題です。働いている方が少しでも良い環境で働けるように、まず事務所をしっかりと福島第一に密接した場所につくり、そこで食事もできるようにしました。休憩する場所もつくりました。
そして、今年は、これからの長い道のりである廃炉の核心にチャレンジしていく最初の年だと思っています。

―― 汚染水につながる地下水の対応はどうですか。

溶け落ちた燃料を冷やすために使っている水がそのまま循環できれば、水は増えていかないのですが、地下水が建物に浸入することで汚染した水を増やすという状況にあります。
以前は、400トンくらいの水が入ってきていたのですが、今は、300トンより減っています。溜めておくタンクは、1個1000トンくらいの大きさだと思っていただくと、毎日400トン入っていたときは2日から3日の間に1個、タンクをつくらなくてはいけなかったのです。今は300トンより減ってきていますので、3日から4日に1個タンクをつくるような状況です。
今、現場には、1000個ほどタンクがありますが、入ってくる水の量を減らすということが大きな仕事と考えています。あとはタンクに溜まっている水を少しでもきれいにすることがリスクを下げることになります。

―― まだタンクは若干増え続けているということですか。

つくり続ける必要があります。ただし、サブドレンで汲み始めていますので、建物に入る量は、減ってきています。海側の遮水壁を閉じて、海洋に出ていく放射性物質を減らすことにも、効果が出ています。
あとは陸側遮水壁と言って、建物の周りを凍土の壁で囲んで建物に浸入する水を少しでも減らそう、そしてその後建物内の汚染水を取り除こうという取り組みを今やっているところです。まだ原子力規制庁のご了解をいただいていないので、スタートはできていませんが、これができるようになると、汚染水はもっと減らすことができると思っています。

(一部 抜粋)




2016年3月号 目次

 

旅先での出会い(第75回)
暗示にかかるタイプ/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
しっかり廃炉を進めることが、福島の復興につながる/増田尚宏(東京電力・福島第一廃炉推進カンパニープレジデント)

追跡原子力
・地球温暖化の水産資源への影響
・「電気を選ぶ」とは?

いま伝えておきたいこと(最終回)
未来に向けて/高嶋哲夫(作家)

おもろいでっせ!モノづくり(第39回)
志ある人々の補給部隊になりたいと思います/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第41回)
寺田寅彦随想 その12/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第20回)
ビキニデー/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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