原子力文化2016年2月号 インタビュー(抜粋)
COP21の成果と課題は
― あらゆるリスクに目を配りバランスのとれた温暖化対策を ―
昨年末に開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は、世界196か国・地域が参加し、「歴史的」と表現される合意となりました。COP21の成果と今後の課題について、また実効性のある温暖化対策とは何か、COP21にも参加された秋元さんにお話を伺いました。
秋元 圭吾 氏 (あきもと・けいご)
1970年 富山県生まれ。工学博士。94年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業、同大学院工学研究科を修了後、(公財)地球環境産業技術研究機構に入所。システム研究グループ主任研究員を経て現職。専門は、エネルギー・地球環境を中心としたシステム、政策の分析・評価。『低炭素エコノミー―温暖化対策目標と国民負担』などの共著書がある
―― 昨年開催されたCOP21の結果について、「歴史的合意」という報道がされました。
今回のCOPの成果が「歴史的合意」と言うのは的確な表現だと思います。
今回のCOPで合意したパリ協定では、先進国だけではなく、途上国も含めて同じ枠組みの中に入り込んだことが最大の成果です。
1997年に京都議定書を採択して、それ以降、世界がCO2削減に取り組んできました。採択後、2005年に京都議定書が発効しましたが、実は2000年に入ってからのほうがCO2を含む温室効果ガスの排出速度が早まってきた、という事実があります。
京都議定書は、先進国のみがCO2の排出削減を行なうという枠組みで、それ以外の途上国については具体的な排出削減の仕組みを持っていませんでした。その中で中国などの先進的な途上国、新興国と呼ばれるような国がCO2の排出を急激に増大させた結果、世界の排出量は大きくなり、結局、世界全体のCO2排出も歯止めが効かなかったのです。
日本は以前から、京都議定書のように先進国と途上国を二分化するような枠組みではなく、「一つの枠組みにすべきだ」と強く主張してきました。
また、京都議定書の約束期間は2008年から2012年でした。それ以降の期間を延長する時に、日本は枠組みへの参加を拒否しました。これは、日本が排出削減に取り組みたくないという理由で拒否したわけではありません。「実効ある形の排出削減の枠組みをつくるべきだ」と主張し拒否したのです。
ですから、パリ協定で世界のほぼすべての国が入って、取り組んでいく同じ枠組みが新しくできたことは、正に日本が目指してきたところが、今回実現したといって良いと思います。
―― はい。
京都議定書は世界全体の目標をまず決めた上で、削減すべき数値を先進国のみに割り当てましたが、パリ協定では「すべての国が自主的に目標を出して、それをレビュー(検証)する」ことになったのです。日本も2013年比で26%減という数値目標を提出しました。
京都議定書では法的拘束力を目標に対して課しましたが、今回は目標に対しては法的拘束力をかけませんでした。目標達成に法的拘束力をかけると多くの国が同じ枠組みに入ることは不可能になるためです。そのかわり、「国際的なレビューをする」ことになったのです。
ただ、国際的なレビューの仕方によっては実質上制約がかからないような形になりかねません。できれば先進国と途上国が同じ枠組みでレビューする必要があります。
これに関しては、事前に「先進国だけ先進国レビューをやって、途上国は甘い途上国レビューという仕組みができ上がるのではないか」という懸念はありましたが、「全て同じ枠組みの中でレビューをする」ことが決定しました。
もっとも、温暖化対策を厳しくできる先進国と、資金もなく、温暖化対策が厳しくはできない途上国とその国の発展段階で違いますので、そこはレビューに差があっていいのです。
しかし、差異がある中でも排出削減努力を同じようにやっていくことが重要です。同じ土俵で比較評価できるようなレビューの枠組みを今後作っていく必要があります。
その他、「2℃目標や1.5℃目標」という長期目標も決定しました。この目標はシンボリックな目標、政治的な妥協の産物であって、科学的な目から見ると相当厳しい数値目標で若干疑問はあります。また、21世紀後半に向けて正味の排出をゼロにもっていくことも、努力目標として、決めています。
しかし、長期的に見て大きく温室効果ガスを排出削減しようという努力目標を世界で共有した意義は大きく、方向性としては正しいと思っています。
具体的な話では、2020年までに各国が国連に長期目標を提出するということも決まっています。これは2050年もしくはそれ以降の部分も出てくるのかもしれませんが、エネルギー問題にも非常に密接に関係してくる重要事項だ、と思っています。
―― 途上国支援については年間1000億ドルという報道もされています。
そこは議論が非常にもめたところの一つです。コペンハーゲンのときに1000億ドルと合意しているので、途上国を取り込む代わりに資金のところで先進国は譲ったのです。
ただ、先進国だけが資金を出すわけではなく、例えば中国など、発展してきた途上国もその資金の一部を負担し得るという形で合意しています。1000億ドルは非常に大きな負担ですから、どのように分担し、持続的に続けていくのか、今後詰めていく必要があると思います。
(一部 抜粋)
2016年2月号 目次
旅先での出会い(第74回)
ゆるキャラが好き?/岸本葉子(エッセイスト)
インタビュー
COP21の成果と課題は/秋元圭吾(地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー・主席研究員)
追跡原子力
収束段階に入った汚染水対策について
いま伝えておきたいこと(第50回)
復興の足音/高嶋哲夫(作家)
おもろいでっせ!モノづくり(第38回)
五代友厚のご子孫はロケットの父です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
客観的に冷静に(第40回)
寺田寅彦随想 その11/有馬朗人(武蔵学園長)
笑いは万薬の長(第19回)
集まれ! 理系女子/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)
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