月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2023年12月号 インタビュー(抜粋)

なぜハマースは蜂起したのか
― アラブ諸国はハマースを批判しないが支持もしない ―

ハマースとイスラエルの戦闘は、一か月経っても止まりません。 国連も先進国七か国外相会議も、声明を出しても無力のように思えます。 日本にとって中東は遠い地域ですが、石油の輸入の九割はこの地域に依存しています。 どう考えどう見ればよいのか。本誌連載でおなじみの保坂さんに伺いました。

日本エネルギー経済研究所
理事 中東研究センター長

保坂 修司  氏 

 

専門はペルシャ湾岸地域近現代史、中東メディア論。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了後、在クウェート日本大使館専門調査員、在サウジアラビア日本大使館専門調査員、近畿大学教授などを経て現職。日本中東学会会長を兼任。『サイバー・イスラーム』、『新版オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』、『サウジアラビア』、『ジハード主義―アルカイダからイスラーム国へ』等の著書がある。

―― 一〇月七日に、突然、パレスチナのガザ地区から、ハマースはイスラエルに向けてロケット弾を撃ち込み、戦闘員が侵入しました。なぜこんなことが起こったのでしょうか。

ハマースがどういう意図でやっているのか、ということはまだまだわからないことが多いです。ただ、ハマースあるいはパレスチナ全体としてもかなり追い詰められている、ということは言えると思います。いつ何時、暴発しても不思議はない状況だった、と思っています。

 

―― それは例えばサウジアラビアがイスラエルと接近するなど、そういった諸々の情勢の変化ということですか。

もちろんそれも含まれますが、例えば、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸でもイスラエルによる入植地の拡大、パレスチナ人との衝突、それからガザ地区の封鎖などがずっと続いていました。二〇二二年一二月にイスラエルが新しいネタニヤフ政権になって以降、より緊張感が増してきた、衝突が増えてきたと言えると思います。

―― ガザ地区のハマースは蜂起しました。ヨルダン川西岸地区はどうでしょう。

もちろん西岸地区でもあちこちで反イスラエルのデモなどが起きています。とはいえ、ガザのハマースとファタハというグループを中心とするパレスチナ自治政府の間では、いまだに対立がありますので、全面的にパレスチナ自治政府がハマースを支援するという形にはなってないですし、連携している感じもあまりしないですね。

―― レバノンのヒズバッラーというグループとも連動しているようですね。

どの程度連動しているかはわかりませんが、少なくともイスラエルとの軍事的衝突があれば、レバノンの南部を拠点とするヒズバッラーは、それに呼応してイスラエルを攻撃することは十分考えられますし、実際に衝突が起きています。
 レバノンから、例えばシリア、イエメンあるいはイラン、こういうところに拡大するという可能性は、ゼロではないですね。

 

ハマースの攻撃が始まる頃 ユダヤ教の宗教行事が つづいていた

―― イランが後ろにいて画策しているのではないか、という話を聞くことがあります。ただ、同じイスラームでもシーア派とスンニ派で違いますが。

イランは、別にシーア派だから、スンニ派だからと分けていません。要は、イランの国是である反米、反イスラエルであれば支援するということで、ハマースはそのうちの一つになるのだと思います。その意味で関係は、もともと非常に深かったのです。反イスラエルであればシーア派、スンニ派関係なしにイランとしては支援していく、ということであろうと思います。
 ただ、今回の事件についてイランがどれほど関与していたかは、現時点ではわからないとしか言いようがないですね。一部アメリカのメディアがそうした報道をしていましたが、もちろんイランは否定していますし、アメリカ政府もそういった証拠は持ち合わせていないと言っていますので、今回の事件に直接的あるいは間接的に関与していることについては、わからないとしか言いようがないです。
 実際ハマースとイランの関係は、先ほど非常にいい関係であるというお話をしましたが、少なくとも二〇一一年以降について言えば、必ずしも蜜月ではありません。
 シリアで内乱が起きて、イランは現政権であるアサド政権を支援していますが、ハマースはアサド政権と対立する勢力を支持しています。したがって、シリアを媒介にして見ると、イランとハマースは対立していてもおかしくはない、というのが現状だと思います。

―― 複雑ですね。

とはいえ、反イスラエル、反米ということであれば、イランは基本的には支持していますので、最低限として心情的にモラルサポートはしていると思います。

 

(一部 抜粋)





2023年12月号 目次


 
インタビュー

なぜハマースは蜂起したのか/保坂 修司〈一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長〉

世界を見渡せば(第35回)
ベトナムは若い/関美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
原子力発電所を海に浮かべる

中東万華鏡(第93回)
甘い話/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第132回)
人々が感動するには自分が感動しなければ/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第66回)
スウェーデンの福祉大国は本当?/川口マーン惠美(作家)

ベクレルの抽斗(第15回)
熱帯雨林の林冠ギャップ/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)

休刊のお知らせ/桝本晃章(日本原子力文化財団理事長)




 

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