原子力文化2023年8月号 涼風インタビュー(抜粋)
人生を堂々と楽しもう
― 今生きてるだけでけっこう機嫌がいい ―
「病気で老後がなかったかもしれないと思うと、今生きているだけでけっこう機嫌がいい」と岸本葉子さん。 何気ない日常を描いて好評のエッセイは、小誌で一六二回の連載を六月に終えました。 そんな岸本さんに、俳句のこと、銭湯のこと、そしてエッセイについて、お話し願いました。
エッセイスト
岸本 葉子 氏
神奈川県生まれ。大学卒業後、会社勤務、中国留学を経て執筆活動に入る。エッセイのテーマは、食、暮らし、旅、俳句など。著書に『ブータンしあわせ旅ノート』、『わたしの週末なごみ旅』、『いのちの養生ごはん』、『モヤモヤするけどスッキリ暮らす』、『ひとり老後、賢く楽しむ』、『60歳、ひとりを楽しむ準備』、『俳句、はじめました』、『岸本葉子の「俳句の学び方」』など多数。
―― 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けも、2類から5類へ変わりました。生活の変化はありましたか。
はい、日常が戻りつつあるのを外に出ると実感します。例えば、アクリルのパーティションがなくなったり、マスクをしている人が減っていたり……。
自分自身はもともと在宅で仕事をしていたので、大きく変化はありません。むしろ少し社会復帰して慣れていかないといけないなと思っています。
コロナの間、出かける先といったら、スポーツジムと週一回のスーパー、ほぼそれだけでした。あとはたまに月一回程度ある会合や収録に行くくらいでした。
―― 俳句をやってらっしゃいますね。
俳句は確か今年で一四年目になります。コロナの間はずっとオンライン句会で、顔を合わせての句会を先月三年半ぶりに開きました。それが日常の再開を実感した出来事の一つでした。
―― 俳句結社に入っていらっしゃいますか。
いえ、入ってないのです。
―― そうすると、緩やかな横のつながりのようなグループですか。
はい、超結社の集まりです。
俳句は子弟関係で成り立っているので、結社に入るのが本来の形ですし、そのほうが上達も早いです。ただ仕事でいろいろな結社の主宰に教えを乞うので、いろいろな方に教えを乞いながら、一人の師につくのはいけないかなと思い、結社には入らずに学んでいます。
一緒に句会を行なっているメンバーは、大体は結社に入っているけれども、ときには結社を出て、結社を超えて学んでみたい、という人の集まりです。鍛錬の場という感じです。
決まりことがあるから思いがけないことができて俳句は面白い
―― 今、俳句が人気で、テレビ番組の『プレバト!!』も好評です。俳句は短歌よりも短いし、季語というのが重要視されますね。短歌と比べると制約が多いなと。その制約の中でどう作品をつくるか、を考えているのですか。
おっしゃるとおりです。字数も少ないですし、いろいろな決まりことがあります。その決まりことがあるから、思いがけないことができて面白い感じがします。決りことが多くて、自分の伝えようということを伝えるには絶対無理な字数でもあるので、相手がどう受け取るか。相手の受け取り方によって自分の五・七・五に新たな可能性が見出され、制約によって読み手との共同制作の面がとても大きくなると思います。それが面白いです。
また季語を出すと、自分の代わりに季語が多くを語ってくれるので、季語が五・七・五を超える役割をしています。
短歌にもすごく興味があるのですが、俳句の「この季語を出せば、ここまでは伝わるよね」というところがなくて、伝えるために一から言葉を組み立てていくのが逆に大変そうに感じます。
ただ、どちらにも親しんでない人が始めようとすると、俳句は文語であるという点で少し入りにくいかなと思います。
また「や」「かな」「けり」という切れ字は使うと便利ですが、使わなくてもいいし、それがあるから何か「ちょっと難しそうだな」と思われるかもしれないですね。
(一部 抜粋)
2023年8月号 目次
人生を堂々と楽しもう/岸本葉子〈エッセイスト〉
世界を見渡せば(第31回)
Wokeな人たち/関美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)
追跡原子力
世界で運転している原子力発電所は四三一基
中東万華鏡(第89回)
イスラームと歯ブラシのこと/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)
おもろいでっせ!モノづくり(第128回)
九三歳の方が一人でゴルフに来るそうです/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第62回)
人口が増加する一方で人手不足が続く理由は?/川口マーン惠美(作家)
ベクレルの抽斗(第11回)
一七〇年前のクリミア半島/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)
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