月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2023年7月号 インタビュー(抜粋)

フランスと原子力
― 原子力発電で国内の電力需要の七割を賄う ―

ロシアのウクライナ侵攻は、それまでヨーロッパ諸国の多くが、ロシアからの天然ガスに依存していたことを浮き彫りにしました。
一方、ドイツのように、チョルノービリ(チェルノブイリ)や福島の原子力発電所事故の影響を受け、原発を全廃した国もあります。
ロシアへのガス依存をどうするのか。このような状況下で原子力発電をどう評価するのか。
今月号は「フランスと原子力」について、フランス大使館のファビエンヌ・ドゥラージュさんに伺いました。

在日フランス大使館 原子力参事官
ファビエンヌ・ドゥラージュ  氏 

 

モンペリエ大学博士号取得、材料科学技術エンジニア。1992年より、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)の研究エンジニアとして、 放射性廃棄物のコンディショニング研究やMOX燃料、第4世代原子炉向け燃料の研究に携わる。CEAカダラッシュ研究所 燃料研究部 軽水炉燃料照射・解析プログラム研究室長、 多種燃料性能評価・検証研究室長を経て、2020年9月より現職。

―― フランスは、ドイツのようにロシアからガスを輸入していないのですか。

 天然ガス資源をほとんど有しないフランスは、その枯渇リスクに対応するために、輸入先を多様化しています。主な供給国はノルウェー(三六%)、オランダ、ナイジェリア、アルジェリア、カタールです。
 ロシアは、ウクライナ侵攻以前、フランスにとって第二の供給国で、総輸入の一七%を占めていました。この割合は欧州全体の二分の一、ドイツの三分の一に相当するものです。フランスは、自国への供給国を多様化する一方で、天然ガスを最大限備蓄できるようにしてロシア産ガスへの過大な依存からの自立を図って来ました。また、ガスの消費量を低減させ、別の生産諸国と新たな契約を締結するよう努めています。
 そしてフランスは、五六基もの原子炉を有しています。その設備容量は合計六三〇〇万キロワットで、国内の電力需要の七〇%を賄っています。このようにフランスの発電システムは、古くからある原子力発電所と、再生可能エネルギー施設によって欧州の諸大国の中でも最も脱炭素化が進んでいます。
 ドイツに関しては、化石エネルギーと再生可能エネルギーの割合がほぼ同じというエネルギーミックスの構成比であり、天然ガス輸入の半分以上をロシアに依存するため、国が難しい立場に置かれています。ドイツはもはや原子炉を所有せず、二〇二三年春には最後の二基も最終閉鎖されました。二〇三〇年にはエネルギーの八〇%を再生可能エネルギー由来とし、風力と太陽光発電の不安定さを補うべく、天然ガス発電を基幹電源に据えるという非常に野心的な目標を実現するため、一層の努力をしなければならない状況にあります。

 

なぜフランスの 原子力利用は あまり変化がないのか

―― フランスは世界でも有数の原子力発電を利用する国です。チョルノービリの事故や福島の事故があってもあまり変化がないようですが、どうしてですか。

 一九七〇年代以降、原子力はフランスのエネルギー政策の支柱の一つであり、豊富で安価な電力を供給してきました。
 二〇一一年の福島の事故や、一九八六年に起こったチョルノービリの事故は原子力エネルギーに関して世論に疑念や危惧を抱かせる結果となりました。法的・技術的な措置(原子力防災・危機管理の強化、原子炉の安全性再評価等)だけでなく、透明性の向上や対話、学会や研究組織の関与といった施策によって、フランス国民の信頼を取り戻すことができたのです。
 一九九一年一二月三〇日付の「放射性廃棄物管理研究法」は、原子力施設の安全、人の健康・環境の保護、放射性廃棄物管理を目的として制定されました。この法律で、原子力施設事業者には事故リスクに備えて防災計画および人体保護計画を立てる義務が課されました。また、原子力事故費用の弁済にあてる補償基金の創設が命じられ、原子力施設事業者に対する民事責任制度の適用が定められました。
 さらに同法律によってフランスでの放射性廃棄物管理の法的な枠組みが定められました。新たに放射性廃棄物の処理・処分に関する解決策の研究を目的とした放射性廃棄物管理機構(ANDRA)が創設され、同様に国家評価委員会(CNE)も組織されました。独立した専門家と学会や研究組織の代表者で構成されるCNEは一九九一年以降、半減期の長い高レベル放射性廃棄物管理に関するフランス国内の研究の成果を評価しています。
 原子力安全規制機関(ASN)は二〇〇五年に「原子力事故後管理運営委員会」(CODIRPA)を設置しました。この委員会は、行政当局や専門評価機関、原子力施設事業者、全国地方情報委員会連合(ANCCLI)、協会・団体等が一堂に会するものです。原子力事故による影響の管理戦略について、政府に勧告を出すことを使命としています。
 「原子力の透明性および安全性に関する二〇〇六年六月一三日付法律」(TSN法)では、CNEを一新するほか、信頼が置ける情報に国民がアクセスできる権利が確認されました。一方、同法律によってASNは独立行政機関となり、原子力安全・放射線防護に関する規制および原子力施設、放射性物質輸送に課される特別規定の遵守を監視する立場となりました。同様に「原子力安全情報・透明性高等委員会」(HCTISN)が設置され、特に原子力分野の情報の透明性と市民参加の推進を後押ししています。
 同法律はまた、二〇〇〇年に設立されたANCCLIの根拠法令となり、その任務の強化を図りました。地方情報委員会(CLI)とその連合体であるANCCLIは、原子力安全や放射線防護、原子力活動が人・環境に及ぼす影響に関するフォローアップ、情報提供、協議といった総合的な役割を担っています。
 また、二〇一五年八月一七日付の「環境法典」は、国内での原子力活動の枠組みを定める諸規定について言及し、その範囲を拡大することで、フランスにとって重要なエネルギー源である原子力を維持しつつ、環境と国民の健康を守ることを目指しています。

 

(一部 抜粋)





2023年7月号 目次


インタビュー
フランスと原子力/ファビエンヌ・ドゥラージュ〈在日フランス大使館・原子力参事官〉

世界を見渡せば(第30回)
アンチESGの波/関美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
脱炭素社会のGX実現を目指して

中東万華鏡(第88回)
ヘンナの話/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第127回)
いったん外に出て、ようわかることもあります/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第61回)
主要メディアは緑の党の応援団?ー今、考えを変えても遅すぎる?!ー/川口マーン惠美(作家)

ベクレルの抽斗(第10回)
理屈を見出そうとする心/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)

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