原子力総合パンフレット Web版

6章 福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた取り組み

周辺住民や飲食物への影響

1

周辺環境への放射線影響

福島第一原子力発電所の事故では、主に放射性ヨウ素や放射性セシウムが環境中に放出されました。これらの放射性物質は主に2011年3月12日~15日にかけて放出され、風に乗って広まり、雨によって地上に降下しました。
生活する空間で受ける放射線の量を減らすため、除染(放射性物質の除去、土で覆う等)が行われ、2018年3月までに帰還困難区域を除く地域の除染が完了しています。除染によって除去した土壌等については、仮置場を経て中間貯蔵施設へ搬出されます。輸送が開始された2015年3月から2022年11月末までに、約1,336万㎥が輸送され、対象52市町村のうち46市町村の輸送が完了しました。福島県内に仮置きされている除去土壌等(帰還困難区域を除く)の搬入は2021年度末までにおおむね完了し、現在は、特定復興再生拠点区域等において発生した除去土壌等の搬入が進められています。国、福島県、大熊町、双葉町で締結した安全協定に基づき、現地確認や環境モニタリングを行い、安全・安心を確保しています。
なお、中間貯蔵施設で一定期間保管された除去土壌等は、貯蔵開始から30年以内(2045年3月まで)に福島県外で最終処分を行うことが法律で定められています。 このように除染が進んだことなどから、福島県の空間線量率は2011年4月時点に比べて大幅に低下しています。

福島県内の空間放射線量の推移

福島県内の空間放射線量の推移

※国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル(10mメッシュ)」、国土交通省国土政策局「国土数値情報(行政区界、道路)」を使用し作成。

出典:ふくしま復興のあゆみ(第30.2版)

2

住民の帰還

事故で放出・拡散された放射性物質による被ばくから住民を防護するため、国から避難指示が発出され、多くの住民が避難を余儀なくされました。福島県の避難者は2012年5月の約16万人をピークに減少し、現在もなお、約2万9千人を超える方々が避難を続けています。
避難指示解除の要件は、①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスがおおむね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、③福島県、市町村、住民との十分な協議が必要なこととされています。
避難指示区域は順次解除が進み、2020年3月には、帰還困難区域以外のすべての地域の避難指示が解除されました。帰還困難区域においても、特定復興再生拠点区域復興再生計画に基づき、復興・再生が進められ、2022年6月には葛尾村・大熊町、同年8月には双葉町の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されました。

関連情報(詳細):福島県「福島復興ステーション」

原子力災害に伴う避難指示区域等の状況

原子力災害に伴う避難指示区域等の状況

出典:ふくしま復興のあゆみ(第30.2版)

関連情報(詳細):福島県「福島復興ステーション ふくしま復興のあゆみ」

3

住民の被ばくと健康影響に対する評価

国際的な専門家集団の国連科学委員会(UNSCEAR)は、福島第一原子力発電所の事故による放射線被ばくについての評価を公表しています。

福島県の成人住民が、事故発生から1年の間に受けた放射線の推計量は、約1~10ミリシーベルト。特に放射線の影響を受けやすい1歳児では、成人の約2倍。

甲状腺への影響については、成人が最大35ミリシーベルト、1歳児が約80ミリシーベルトと推計。チョルノービリ事故による被ばくと比較し、甲状腺がんが多数発生すると考える必要はない。

胎児や幼少期・小児期に被ばくした人の白血病や乳がんの発生数の変化は、今のところ不確かさの範囲にとどまること、また、被ばくした人の子孫に遺伝性の影響が増加することはない。

サイト内ページ:放射線防護における線量の基準の考え方

このほか、世界保健機関(WHO、World Health Organaization)の健康評価でも、がんの発生率が増加する可能性は低いとしています。また、日本学術会議では、生後0~18歳の子どもにスポットを当て、これまでに発表されている放射線の影響や線量評価に関する科学的知見の妥当性を確認しています。

4

食品中の放射性物質の規制

福島第一原子力発電所の事故を受け、厚生労働省は、食品の安全と安心を確保するための基準値(食品中の放射性物質に係る基準値)を設定しました。
自治体では、この基準値をもとに、食品の検査が行われています。基準値を超えた食品は、出荷制限などの措置がとられ、流通が止められます。検査状況は、厚生労働省や各自治体ホームページなどで公開されています。
2021年4月~2022年3月に検査した41,361件のうち、基準値を超えた食品は157件で、全体に占める割合は0.38%でした(出典:厚生労働省資料)。

専門情報:厚生労働省「東日本大震災関連情報 食品中の放射性物質」

食品1キログラムあたりの放射性セシウムの基準値(単位:ベクレル/キログラム)

食品1キログラムあたりの放射性セシウムの基準値(単位:ベクレル/キログラム)

※基準値は、食品や飲料水から受ける線量を一定レベル以下にするためのものであり、安全と危険の境目ではありません。
また、各国で食品の摂取量や放射性物質を含む食品の割合の仮定値等の影響を考慮してあり、数値だけを比べることはできません。

出典:厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値について」などより作成

ワンポイント情報

福島イノベーション・コースト構想

福島イノベーション・コースト構想とは、東日本大震災および原子力災害によって失われた福島県浜通り地域などの産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです。三つの柱を軸に、浜通り地域などにおいて、重点分野に位置づけられる廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の各分野の具体化を進めるとともに、その実現に向けた産業集積や人材育成、交流人口の拡大、情報発信、生活環境の整備など多岐にわたる基盤整備に取り組むとしています。

構想実現のための三つの柱

1.あらゆるチャレンジが可能な地域

浜通り地域等がさまざまな分野における新たなチャレンジを実施できる地域になることを目指す。

2.地域の企業が主役

最先端分野だけでなく、地元企業が幅広く構想に参画できるよう地元企業と進出企業の連携を広域的に進める。

3.構想を支える人材育成

地域でイノベーションを生み出す人材や産業集積を支える人材の育成を進める。

主要プロジェクトの主な施設マップ

主要プロジェクトの主な施設マップ

各分野の研究拠点・主要プロジェクト

各分野の研究拠点・主要プロジェクト

出典:ふくしま復興のあゆみ(第31.2版)

【福島国際研究教育機構】の設立

これまで整備した福島イノベーション・コースト構想関連施設などと一体となって、新産業の創出、国際競争力の強化に資する研究開発や人材育成などの司令塔機能をもつ、構想の中核を担う【福島国際研究教育機構】が浪江町に設立されることが、2022年9月に決定しました。

福島イノベーション・コースト構想

福島イノベーション・コースト構想 YouTubeチャンネル

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