原子力総合パンフレット Web版

6章 福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた取り組み

廃炉への取り組み
〜汚染水対策、処理水の取り扱い〜

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汚染水対策の状況

山側から海側へ流れている地下水や破損した建屋から流入する雨水などが原子炉建屋へ流れ込んでいます。その流入した水が燃料デブリに接触し建屋内に溜まっている高濃度の放射性物質を含む水と混ざることで汚染水が新たに発生しています。
汚染水対策は、汚染源を「取り除く」、汚染源に水を「近づけない」、汚染水を「漏らさない」という三つの基本方針に沿って、地下水を安定的に制御するための重層的な対策が進められています。

汚染水対策の三つの基本方針と効果

汚染水対策の三つの基本方針と効果

資料提供:東京電力ホールディングス(株)

2

汚染水の浄化処理

汚染水に含まれる放射性物質によるリスクを低減させるため、浄化処理を行っています。まず、セシウム吸着装置で汚染水に含まれる放射性物質の大部分を占めるセシウムを取り除きます。次に、淡水化装置で塩分を分離させます。この塩分を分離した淡水側の水は、燃料デブリを冷やす水として原子炉内に注水し再利用しています。一方、淡水化装置で分離した塩水側の水は多核種除去設備(ALPS)で浄化処理することによって、トリチウム以外の大部分の放射性核種を取り除いています。

福島第一原子力発電所の汚染水対策

福島第一原子力発電所の汚染水対策

※イメージ

資料提供:東京電力ホールディングス(株)

エネ百科:ニュースでよく聞くあのはなし「処理水」って?

3

タンクへの貯蔵の状況

2022年12月22日現在、敷地内には1,066基のタンクが設置され、約132万トンの水が保管されています。タンクには、セシウムを取り除いた水(ストロンチウム処理水)と多核種除去設備で処理した水(ALPS処理水等)が保管されていますが、ALPS処理水等が全体の99%を占めています。
事故から2年後頃までは、ALPSの設備導入を検討している段階であったため、セシウム以外の放射性物質が除去できていない高濃度汚染水があり、その時期はタンクに貯蔵する際の放射性物質の濃度の基準を下回ることを優先していたため、環境へ処分するための基準を満たしていない処理途上水もタンクに貯蔵されています。これらは、処分するための基準が満たされるまで浄化処理されますが、その間タンクに貯蔵されています(保管中の水の約7割)。

4

ALPS処理水の処分方法

タンクに保管しているALPS処理水などについては、2021年4月13日に政府により決定された「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」を踏まえた対応を徹底すべく、取り組みが行われています。
ALPS処理水の海洋放出にあたっては、法令に基づく安全基準などの順守はもとより、関連する国際法や国際慣行に基づくとともに、人および環境への放射線影響評価※により、放出する水が安全な水であることを確実にして、公衆や周辺環境、農林水産品の安全を確保するとしています。
ALPS処理水などの取り扱いにあたり、環境へ放出する場合は、トリチウム以外の放射性物質が安全に関する国の規制基準(告示濃度比総和1未満)を満たすまで、多核種除去設備などで浄化処理されます。放出の際は、取水した海水と混合し、十分に希釈されます。放出量については、当面は事故前の福島第一原子力発電所の放出管理目標値である年間22兆ベクレルの範囲内で行い、廃炉の進捗などに応じて適宜見直すとしています。

※海洋環境に及ぼす潜在的な影響を含む

処理水ポータルサイト

処理水ポータルサイト

東京電力ホールディングス(株)

ALPS処理水の海洋放出の設備の全体像

ALPS処理水の海洋放出の設備の全体像

①測定・確認用設備

ALPS処理水に含まれるトリチウム、62核種、炭素14を希釈放出前に測定(第三者機関による測定を含む)し、62核種および炭素14が環境への放出に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化されていることを確認する。

②希釈設備

海水希釈後のトリチウム濃度が1,500ベクレル/リットル未満となるよう、100倍以上の海水で十分に希釈する。なお、年間トリチウム放出量は22兆ベクレルを下回る水準とする。

  • ・海水希釈後のトリチウム濃度は、ALPS処理水の流量と希釈する海水の流量をリアルタイムに監視し、両方の割合で希釈後の 水が1,500ベクレル/リットルを下回ることを確認する。
  • ・海水希釈後のALPS処理水について、放出中毎日 サンプリングし、そのトリチウム濃度が1,500ベクレル/リットルを確実に下回っていることを確認し、速やかに公表する。
  • ・当面の間は海洋放出前の混合・希釈の状況で放水 立杭を活用して直接確認した後、放出を開始する。

※告示濃度限度(60,000ベクレル/リットル)の40分の1であり、WHO飲料水基準(10,000ベクレル/リットル)の7分の1程度

③取水・放水設備

取水設備については、港湾内の放射性物質の影響を避けるため、港湾外からの取水とする。放水設備については、放出した水が取水した海水に再循環することを抑制するため海底トンネル(約1km)を経由して放出する。

④異常時の措置

希釈用の海水ポンプが停止した場合は、緊急遮断弁を速やかに閉じて放出を停止する。また、海域モニタリングで異常値が確認された場合も、一旦放出を停止する。

  • ・緊急遮断弁は、津波対策の観点から防潮堤内に 1台、放出量最小化の観点から希釈海水と混合する  手前に1台、計2台を設置し、多重性を備える。

資料提供:東京電力ホールディングス(株)

エネ百科:ニュースでよく聞くあのはなし「処理水」って?

ワンポイント情報

トリチウムとは

トリチウムは水素の仲間(同位体)で、原子力発電による核分裂や、リチウム6と中性子の反応で発生しますが、自然界では宇宙線と大気中の窒素、酸素が反応することで生じ、主に水の状態で存在しています(降雨中に1~3ベクレル/リットル)。
トリチウムを含む水は、水と同じように新陳代謝などによって排出されるため、人間の体や魚、貝などの海産物に蓄積されることはほとんどなく、生物学的半減期は約10日です。5~6%は有機物に取り込まれ、その生物学的半減期は短いもので40日程度、長いもので1年程度とされています。1ベクレルのトリチウムを飲み込んだ場合の被ばく量は、1ベクレルのセシウム137に比べて、乳児で300分の1、成人で700分の1程度です。

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